王様、ほくそ笑む
「グランツ王、よろしかったのですか?」
王家直属暗殺部隊レガリアの一人がそう伺う。
バクスターとの通信を切ったグランツ王は「何がだ?」と聞き返した。
本来ギルド長の監査は一年に一度だ。
バクスターはグランツ王の隠し子という一点で、監査を免除され続けていた。
別段冒険者経験のないバクスターがまともにギルド運営などできるはずもなく、監査にかければ罷免されるのは当然。
本来なら一年目でギルド長の座から降ろされるべき人物である。
「三年目でのバクスターの罷免は予定していたことだ。十分な資金を与えているにも関わらずそれを運用できなかったという負の実績を積ませる必要があった」
先程まで息子を猫可愛がりしていたグランツ王の瞳には冷徹さが宿っていた。
「あの馬鹿息子は思い上がりが激しい癖に何の役にも立たない。職業適性検査では【料理人B】だったから宮廷料理人にしてやったのに芽が出なかった。人格がゴミだからだ」
「挫折を与えて自尊心を粉砕すれば、これまでのように金をせびってくることもなかろう。これでようやく縁が切れる」
王はあえてバクスターに重荷を背負わせていたのだ。
「セドリック男爵はうまくいきすぎているからな、ここで投入した公金を回収不能に陥らせ男爵を借金で縛り付けておきたい。これで頭も上がらんだろう。ゴミを利用して配下を掌握できるなら安いものよ」
破綻が目に見えてた事業を押し付けられても、セドリック男爵は抗議することもできない。王の隠し子を拒絶するなど、一介の男爵風情には許されない行為だからだ。
「監査役にはランピックをつけた。あれはナナシの味方をするだろうから、バクスターに勝ち目はない」
「となると、次のギルド長はナナシに?」
グランツ王はくつくつと笑う。
「ベリアに冒険者ギルドが定着するものか! 当然、ナナシも失敗する。ベリア領の雨季は長い。以前の人口ならばセドリックに与えた施設で雨季を越えられたろうが、あそこまで増加した冒険者たちを収容するすべはない。これまでのように路上で市などできないし。ぬかるんだアッシュウッドの森に商人は寄り付かん。雨季の到来に気づいて慌ててベリア領から冒険者を引返えさせることができれば上々だろう。さもなくば全員で飢え死ぬことになる」
「ベリア領に取り残されるなら救出用に補助金くらい出してやる。ふん、盗賊風情が治世の真似事などするからこうなるのだ」
グランツ王は攻撃しない。
失敗の種を放置して助けを乞わせる。
脅しつけると暗殺されるなら、頭を下げさせ支配すればいいのだ。
ドラゴンを倒せる?
それがどうした。
配信で不正を暴ける?
だからなんだ。
どんな力を持つ人間も社会からは逃れられない。
戦闘力では解決できない、政治による戦いがそこにあった。
もしグランツ王がナナシの立場だったなら人を集めるのではなく解散させる。
バクスターがいる限り犠牲者をゼロにはできないが、仕方のない犠牲として割り切るだろう。
バクスターとセドリック男爵の敗北は避けられないからだ。
それがわからないということは、ナナシはベリア領の雨季を知らずに事業を展開してしまったのだろう。
商人と関わるうちに雨季の存在を知っても、人のうねりは止められない。
人口は増え続け、最後には破綻することになる。
ナナシに与えた金貨2000枚は個人が一生遊んで暮らせる額だが、公共事業資金として考えるならはした金だ。
領地運営において個人の力は無意味と知るがいい。
グランツ王が映像を起動して配信を映すと、ナナシが仲間と共に汗水たらして働いていた。
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