求めるは永遠の生


「グランツ王おおお!!」


 王の喉元へ奔る13のレガシーたちの脳裏によぎったのは、かつてのナナシの言葉だった。


 『俺がやらなくても護衛のこいつらが今すぐ殺しにかかればお前は死ぬ。なぜそうなっていないかと言えば、お前にはまだ人徳があるからだ』


 ならば、乱心した王を諌めるのは我らの役目。

 たとえ王家とのよすがを失おうとも、ここで王を仕留めることがグランツ王国への忠誠である。


 ナナシの光のカリスマB++は場を離れてなお健在。

 かつて同じ時を共にしたという一点だけで、その正しさは心を掴んで離さない。


 かつて王に忠誠を誓った暗殺者たちが同士討ちを避けるために透過を解除し、一斉に躍りかかる!


 だが。


 キキキキキキキキン!

 パキャッ!!


 手に持った短刀が即座に砕け散った。


「何!?」


 目の前で空間が揺らめく。

 まだなお王に忠誠を誓う者が?

 

 困惑を押し殺し、警戒を強める暗殺者たちの前に現れたのは白髪の耳長エルフだった。


 その手には透き通るような緑の剣。

 その眼光は鋭くも、どこを見ているのかわからない。


 それでも我らは暗殺者。

 換えの刃は十分だ。


 砕けたナイフを放り捨て、第二の毒刃が閃き踊る。

 

「お前たちが今代のレガシーか」


 隼のように襲いかかる暗殺者たちに焦ることもなく、エルフは続けた。


「堕ちたものだ」


 特別な動きはなかった。

 エルフはただ自然に毒ナイフを緑剣で撃ち落としただけだ。


 都合13回、僅かに暗殺者を上回る速度で振るわれた剣には無駄がない。

「ばかな」


 すべての迎撃行動に次の行動が織り込まれていて、まるであるべき運命に従うようにナイフへ緑剣が吸い込まれていった。


 蹴ろうとすれば蹴られ、体当たりにかかろうとすれば剣圧で吹き飛ばされ、背後に回ろうとした時には斬りかかられている。


 こちらが先に動いているはずなのに、先手を打たれてしまうのだ。

 かといって魔法の気配もない。


 純粋な体術なのだろう。

 この練度は何だ。


「そう言ってやるな白蘭。千の時を生きたお前に常人が敵うわけもあるまい」


「……そうかもしれませんね。皇帝陛下もお変わりないようでなにより」


 1000年?

 皇帝陛下?


 どういうことだ。


「やめよ。今の余は王である。皇帝であった日など千よりも遥か過去のこと、お前に出会う前のことなどほとんど忘れたわ」


「御冗談を、それに御身がお忘れになったとしても。俺が覚えております。名付けられた白蘭の名がかの地の証なれば」


 ビャクランと名乗ったエルフが見たこともない礼をする。

 右手を拳にし左手で包んで傅く奇妙な動作だったが、それが礼の一種だということは知識なしでわかる。


 聞き慣れぬ名と礼であった。


「今代の効果時間は?」


「一年と言ったところか、まったく900年前は何十年でも留まれたというのに……この術も血の薄まりには勝てんらしい。白蘭、お前が羨ましいよ」


「ならばせめて、その最後まで」


「ぬかせ、余はまだまだ生きるわ! 永遠になぁ! ガハハ!」


 グランツ王の人格は変質していた。

 何か途方もない化け物を相手にしているような心地になる。


 1000年続くグランツ王家の歴史において、王が豹変したという逸話は多い。


 臆病だった王が急に勇敢になって外敵を滅ぼしたり、贋金に翻弄されていた王が急に罪人や罪人とおぼしき無実の者に対し苛烈な処刑を開始したりと枚挙にいとまがない。


 王家が傾く度にそうして王はグランツ王国を救ってきたのだ。


 窮地に陥った王が奮起するというよくある誇張された英雄譚だと思っていたが、まさかここまで身も蓋もない話だったとは。


「今代のレガシーたちよ。挨拶が遅れたな……」


 王がこちらに向き直る。


「余が初代グランツ王……ええとなんだっけ」


「閻生様です」


「そう、エンセイなるぞ!」


 王は、王ではなかったのだ。




キャラクター説明


エンセイの残骸


いつかの時代、どこかの大陸に存在した初代皇帝の残骸。


苛烈な政争を繰り返し、その手を数多の血で染めた過去を持つ。


晩年は不老不死にこだわり、儀式を繰り返したことで異世界へと精神を転移させることに成功した。


転移後は当時、魔術触媒として優秀な適性を持つ農民・初代グランツを乗っ取り、はぐれエルフの白蘭と共に王位を簒奪。血筋に記憶を移し続けることで連続性を保っている。


近年血が薄まったことで記憶の継続時間は減少しているが、それでも彼は不老不死の夢を諦めていないようだ。


スキルの変遷


グランツ王の血EX→SSS→SS→S→AAA イマココ

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