王様、バフを受ける


 どうしてこうなった。

 大臣たちに詰められ、グランツ王は唸った。


「グランツ王、金貨120万枚とはどういうことです。彼は何者なのですか!」

「先の配信者に金貨2000枚を渡しただけでも穏やかではないのに、この期に及んで金貨120万枚!? これは癒着ですぞ!」

「それほど財産があるなら、なぜ我々に使ってくださらないのですか! かようなことをされては各地を治める諸侯たちが不平等だと反旗を翻しますよ!」


 確かにバクスターに金貨は渡した。事あるごとに渡した。


 だが、120万枚も渡していない。

 これまでの累計でも10万枚くらいだ。


 実系の王子たちの財産より少ないくらいなので、バクスターは隠し子だと言えば今度は王子たちが不平等だと言い出すだろう。


 妻エリザベートにも何を言われるか……。


 かといって隠し子だと明かさなければ本当にどこぞの馬の骨に金をしこたま与えたことになり、各地で税を納めている貴族たちの不満が爆発する。


 内乱が起きるかもしれない。


 こうなればより痛みの少ない方を選ぶしかないのだが、気が重い。


「バクスターは。私の隠し子だ……」

 

 大臣たちが一斉に呆れる。

 誰も何も発さないが、心が離れていくのをひしひしと感じた。


 この情報はすでに一部の人間は知っていること、ここまできたら自分から開示した方が傷が浅い。


「だが、120万も与えていない……! 確かに金は渡したがそれほどの額では」


「ですが、実際に金は使われています」

 

 大臣の一人がアポートと唱え、半透明の画面を表示する。

 最近できたニュースサイトだ。


 『ナナシ、クラウドファンディングを1200000%オーバーで達成。金貨にして120万枚もの大金が王都セレスティア銀行から振り込まれた。投資者はベリア領ギルド長のバクスター』とある。


 ぐうの音も出なかった。


「ご説明を」

「ご説明ください。グランツ王」


 そんなことを言われても、グランツ王にはわからない。

 役立たずのバクスターを金で窒息させるつもりが、なぜこちらが追い詰められている?


 バクスターが事業を興しているという報告はなかったし、ギルド長としての仕事も失敗していた。金が増える理由がない。


 バクスター自身、金がなさそうにしていたがあれは嘘だったのか。

 

 何より不可解なのが、なぜかその金がナナシの懐に入っていることだった。


 そもそもバクスターとナナシは敵対していたはずだ。

 一体どういう理屈でバクスターはナナシに大金を渡したのか。


 グランツ王は自分でもよくわからないうちに、とても大切なものを盗まれているような気がした。


 ナナシの懐に入ったのは金だが、金よりももっと重要な何かを盗まれているような気がしてならない。


 それでいて、どうやって盗まれたのかはまるでわからないのだ。

 

(ナナシ……。いや、ライオット。お前は私に何をした……?)


 早急に王家から圧力をかけてバクスターの口座情報を強制開示し、何が起こっているのか確かめたい。


 グランツ王は家臣たちに銀行の頭取を呼びつけるように指示を出し、一切の忠言を無視してその場を去った。


 失った物が多すぎる。


 家臣たちの不和、貴族たちの不満。

 そして妻エリザベートと王子たちからの怨恨。


 味方が一瞬で敵になってしまった。

 一度にここまで立場悪くなることってある?


 これでは何がきっかけで内乱が起こるかわからない。

 王は頭上にいつ落ちてくるかわからない剣がぶらさがっているような不安をおぼえる。


 豪奢な廊下を歩くさなか、王の脳裏によぎったのはあの死んだような目だ。


「いや、ありえない。そんなことが、ありえるはずがない」


 そう否定しても、王の思考は止まらない。


 仮にすべてを奪う力があるとすれば、その行き着く果ては何か。

 それは王権の簒奪だ。


 どうすればそんなことができるのかはわからない。

 だが、彼ならば……ありえる。


 玉座に座し、忠実な家臣たちに囲まれるあの男の姿が、瞼の裏に焼き付いて離れない。

 

 このままではそうなると、王の直感が告げていた。


「……認めようライオット。君を敵に回すべきではなかった」


 そうつぶやいた王の瞳からは、すでに迷いが消えていた。

 


 スキル:グランツ王の血A++

 

 歴代グランツ王が持つ血統スキル。


 発動者の情報・知識・経験不足を無視して、判断力に強烈なプラス補正をかける。


 その実態は代々王家として存在してきた歴代のグランツ王たちが連綿と紡ぎ続けている支援魔法。


 国家の存亡がかかった判断をする際にオート発動し、歴代グランツ王たちの知識や経験、人格傾向がスキルという形で一時的に追加される。


 この魔法を編み出し強制発動スキルとして定着させたのは初代グランツ王でそれ以降のグランツ王はこのスキルの存在を知らず、死後に「あー、あれってそういうことだったんだなぁ」と気づくことになる。


 なお、追加されるのは人格や思考に関係するもののみで肉体強化や魔法は引き継げない。


 いわゆる「神がかり」である。


 今回グランツ王に追加されたスキル


 勇敢B+、臆病B、恐怖無効B、懐柔A++、手練手管S、舌先三寸A、恐怖政治A+、処刑A+、人徳B+、冷酷非道S、多重思考A、思考切断B、演算B、偽装A+、掌握B、内政C++、鼓舞B+、希望A+、民への感謝AAA、グランツ王国への愛SSS

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