第33話 その名はミスターダンジョン
ミスターダンジョン。その名前は俺も知っている。世界一のダンジョン配信者兼、動画投稿者だ。
ミスターとはついているが、その正体は男装した女性。そのかっこいい見た目から、老若男女問わず人気が高い。
配信者としての実力と、探索者としての実力はイコールじゃない。それでもミスターダンジョンは、世界でもトップクラスの実力を持つダンジョン探索者だ。
配信は稀にしか行わず、大体が最上級ダンジョンを高速でソロ攻略してしまうというもの。それよりも彼女の活動の大半は、動画だ。
動画がすごい。大体ダンジョンに絡めた企画ものだったり、ダンジョンを絡めた慈善活動だったりするのだが、これがまた面白く、2、3週間で2億再生以上されることもざらだ。この前見た『粘着トラップだらけのダンジョンで7日間生き延びてみた』という企画動画、めっちゃ面白かった。
世界一の動画投稿者であるミスターダンジョンが。
「なんでまたここに?」
俺は驚きよりも疑問を感じて、つぶやいた。
すると、側に居た志度さんが言う。
「ああ、なるほど彼女だったか。この島に現れた中級ダンジョンを使わせてほしいと連絡があってな」
「この島にダンジョンが現れてたのか...ほんとどこにでもダンジョンって沸くな。でもなんでまた中級ダンジョンに」
と思ったが、よくよく考えれば動画では初級から最上級まで様々なダンジョンに行ってるな。
大概は、そのダンジョンに面白いギミックがあるようだ。
最近はダンジョンの研究も進み、初級や中級であれば、大体そのダンジョンにどんなトラップやギミックがあるか、傾向とかはわかるようになってきるからな。
...そんなダンジョンの魔力を解析し、中級までであれば傾向がわかる装置を発明したのも、志度さんなんだが。
「この島の管理を任せているものから私に、ダンジョンが現れたと連絡が来てな。解析したところ中々面白いダンジョンだったために、研究者のコミュニティに知らせたところ、彼女がかぎつけたようだ。それも共有したほぼその瞬間だ」
「志度さん! そんな面白い特徴があるんですか!」
リリが目を輝かせながら志度さんに尋ねる。
「ダンジョンの9割が水没しているのだ」
「うぇえ...」
リリが変な声を上げた。たぶん面白いと聞いて、リリも行ってみたいと考えたんだろうが、リリの苦手とする水で溢れたダンジョンであれば、そんな気も失せるだろう。
「なるほどそういう理由でミスターダンジョンが来たのか」
2億人を超えるチャンネル登録者数を誇るミスターダンジョン。正直に言えば、ちょっとその姿や撮影風景を見てみたいという気持ちがある。
でも一人で見に行くというのもな。
「でもアタシ、ミスターダンジョンを見てみたい!」
「その、うちも見てみたいっす!」
「じゃ俺も!」
便乗して何が悪い。
「私はここでくつろいでるよ。リズィ、ワインを頼む」
「おっけー! じゃみんな、アタシが先頭! ついてきて!」
リリの言葉を皮切りに、リリ、ヒビキ、俺の三人でミスターダンジョンが向かった先へ行ってみることとなった。
〇〇〇
それは俺たちが居た浜辺から、ほぼ島の反対側。泳ぐには少し岩が多い浜辺に、クルーザーが止まっているのが見えた。
俺たちはそこから少し離れた茂みで隠れながら観察をしていた。
浜辺にはダンジョンの入り口が出現している。その入口へ、多数の撮影用の機材を運び入れている最中だった。
「すごいっす! あの機材を運び入れている方たちは、全員凄腕の探索者なんっすよ! ああやっていろんな機材を運び入れて、余計なモンスターは倒しつつ、ダンジョン内に拠点を作って長時間撮影してるっす!」
「へぇ、確かにすごい」
命の危険があるダンジョンでそんなことが出来るなんて、よっぽどの実力者たちだ。そしてそれを率いるミスターダンジョンも、すごい人物というのがわかる。
「あ、アタシあの人たち見たことある!」
「それもそのはずっすよ! あのお三方、男性二人に女性一人。それぞれジョン、メイフェン、ヒデキはミスターダンジョンのパーティメンバー! よくあの三人を含めた四人で、色々な企画をやってるっす! 宿泊系企画は大体四人っすね! あと、皆最上級の探索者っす!」
と、その時俺は気づいた。
「あれ、ミスターダンジョン居なくないか?」
「む、ほんとっすね。どちらにいらっしゃるのでしょう」
「アタシも見かけてない。最初っから居なかったよね?」
「はっはっは! それは諸君らの後ろに立っているからさ!」
「へぇ、そうだったんだな」
...ん、なんか知らない人の声が後ろから聞こえたような。
三人で同時に振り向いてみると。
「はっは! 初めまして諸君! 小生はミスターダンジョン! 日本語の男性の一人称はこれで合っていたかな? よろしくさ! ミスターと呼んでくれ!」
俺たちの背後に立っていたのは、南国の暑さに似つかわしくない、きらびやかなスーツを身に着けたミスターダンジョンその人だった。
近くで見るとわかるが、かなりの長身で、バランスの取れた体躯をしていて、かなりかっこよく美人だ。灰色の髪だが、白い肌の雰囲気から、日本人じゃないのがわかる。確か欧州のどっかの出身だったかな。日本語もぺらぺらだ。
本音を言うと、かなり驚いた。リリも驚いて「えー!」と声を上げている。だが俺とリリ以上に驚いていたのは。
「あば、あば、あばばば」
案の定ヒビキは錯乱モード。口から泡を吹いて倒れそうだ。だが、こんな状況に慣れているのか、ミスターダンジョン...もといミスターは全く動じていなかった。
「周囲の環境確認も兼ねて散策していたが、かわいいお客さんが居たものだ! もしかして、この島の所有者の知り合いかな?」
「あ、ああそうなる、かな」
「おお、もしかして白髪の子はダンジョンクイーンか! 日本で噂になっているのを知っているよ! そちらの青髪の子は速さで有名な子だね。速さなら小生以上かもしれないぞ! そこの子は、初めて見るが可愛い子じゃないか!」
ミスターが俺たちを知っていたのにも驚きだが、それ以上に気になったのは、ミスターが俺たちの顔をじっくり、嘗め回すように見てきたこと。
「ほうほうほうほう。よし、思いついたぞ! 諸君、小生について来てほしい!」
「え、アタシたちがですか!? わ、わかりました!」
「あばば、あばばば」
ついて来い、とはどういうことだろうか?
錯乱を続けるヒビキをリリと一緒に何とか引っ張りながらミスターについていく。ついていった先はダンジョンの前。
ダンジョンの前につくと、ミスターはいつも一緒に動画を撮っている三人に向かって言った
「ジョン、メイフェン、ヒデキ、聞いてくれ! 今回の企画は小生一人で行くつもりだったが、ゲストの追加だ! この三人も連れて行く! おっと、日本語でしゃべってしまった」
おそらく日本語だと通じないのであろう、改めて外国語で三人に言うミスター。
だがその日本語で、俺たちに意図は伝わっていたわけで。
「「え!?」」
俺とリリの声が同時に響き渡り。
「あばば、きゅぅ」
ヒビキは泡を吹いて意識を失っていた。
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