第39話 全部聞いちゃってよかったっすか...?
この反応、どうやらミスターも知っていたようだ。
すると、ミスターはカメラを止めて、俺たちに言った。
「まさか驚きだ! 諸君らもアドミンを知っていたとは! つまりはティファレトの友人ということか」
「え、友人?」
俺は首を傾げた。彼らは絶対友人とは呼べない。ビナーは、まだあいつが何をしたいのかさっぱりだし。
「ティファレト、彼女とは一年そこそこ長い付き合いだ。この一年で五千万人の登録者が増えたのも彼女のおかげだ。懐かしいよ。彼女とはダンジョンの中で配信について語り、飲み明かしたものだ。彼女は体の仕組み上飲んでも酔えないらしいが」
聞いている感じ、なんというか本当に友人を語っているような言い方。それも、相手が悪い奴だとは思っていない雰囲気だ。
ミスターの話を聞いていたところ、突如として俺のスマホが鳴った。
「え、志度さんから電話?」
「ほほう! 噂の志度イケヤさんか! 気にせず出てくれたまえ」
ミスターに促され、志度さんからの電話を手に取る。
『話は全て聞かせてもらった』
「え」
『幼女ちゃんたちに渡した水中呼吸パッチには盗聴機能を付けていてね。人魚生活の様子を楽しませてもらったよ』
いやなんてものを。
『しかしミスターダンジョンがアドミンとかかわりを持っていたとはね。それは初耳だ。私よりも早くアドミンの存在を知っていたとは悔しいものだ。だが好都合だ』
「好都合?」
『ああ、私が言っていた、ビナーのダンジョンへ連れて行く者の当て、その一人がミスターダンジョンだった。案ずるな。彼女は信頼できる。良い人間だ。彼女の装備を作ったのも、私だからね』
「そ、そうなのか」
『話すと良いこれまでのいきさつを』
そうして志度さんは電話を切った。
志度さんが言うなら話すか。
「リリ、志度さんから許可が出た。ミスターに話すよ」
「うん、わかったよ」
「ほほう! 小生に込み入った話しのようだね。良いじゃないか。一度カメラは止めてあげよう」
〇〇〇
そうして俺たちはこれまでのいきさつを話した...背に腹は代えられず、俺は元男だということも話した。ダアトのことを話すのなら、離さざるを得なかったからだ。
「ほほう! アドミンも一枚岩ではないということだな!」
「それはどういう?」
「ティファレトからも話は聞いていてな。ティファレトは人間に対して好意的だが、他のアドミンはそうではない者が多いと聞いた。理由はどうしても話せないようだったがね」
確かに、ティファレトに合ったときは大分人間臭いというか、俺たちにも普通に接してくれていた。
「しかし話を聞いて、小生も知りたくなってきた。ティファレトも話したいが話せないと言っていたからな。ビナーという者なら話せるのかもしれない。そのアドミンやダンジョンの存在理由とやらを」
するとミスターは俺の両手を手に取って。
「喜んで協力しよう! ぜひ諸君らのビナーのダンジョン探索へ同行させてほしい。動画にしたいところだが、そこは小生の興味のためだ。諸君らに配信や動画化は譲ろう」
「ありがとうございます、ミスター」
「アタシからもありがとうございますっ!」
ミスターの協力が取り付けられた。これはかなり心強い。
「いやはや、しかし驚きだ。まさか君が元は男性とは。これほどまでにかわいいのに!」
「か、かわ...あはは、今はこんな小さい女の子になってしまいましたが」
「君の中のダアトというアドミンを目覚めさせる協力もさせてほしい。多くの人に見てもらいたいんだろう? そうだな、まずは小生のトゥイッターで君のフォローを...」
「わー! ミスター待って! やめてくれ!」
ミスターってトゥイッターの活動はほとんどしてないのに、アカウントのフォロワーは3000万人を超えていたはずだ。
「大丈夫です! えっと、この人魚の企画の動画化で、を予定通り俺のチャンネルも動画に載せてくれれば、それだけで十分すぎるほど、ですから...」
「もちろんだ! 諸君らには協力してもらったからね。とても素晴らしい動画になること間違いなしだ。もちろんスペシャルサンクスとして載せさせてもらおう。君とリリ、そしてヒビキも!」
「ヒビキ...あっ」
俺とリリがヒビキの方を見る。ぽかんとした表情を浮かべるヒビキは次にこう言った。
「うち、全部聞いちゃってよかったっすか...?」
〇〇〇
聞かれてしまったものは仕方ない。またヒビキには改めて今度話すとして、まずはこの人魚の企画を完遂させることだった。
巨大鮫やらモンスターハウスやら、どうもティファレトが用意したという大きなイベントを終えたら、あとはダンジョン踏破くらいしかイベントは残ってなかった。
ミスターの実力はやはり相当なもので、恐ろしいスピードで水没ダンジョンのモンスターを倒しまくる。それでいて、俺たちにも時折見せ場を残すというエンタメ精神の塊だった。
最終階層には巨大なウミヘビ。中級レベルだが一応ボスだから、上級の下位クラスの強さのボスだ。
ハーフドラゴンに変身したあとの体の痛みが抜けておらず、俺は一瞬の油断で蛇に巻かれて締め付けられたりもしたが、すぐにミスターのクラスであるディフェンダーのメイン武器、大剣で蛇は一刀両断。あっという間にダンジョンを踏破してしまった。
そうして拠点へ戻り、あとは一日人魚生活の再開。ボスが居なくなったダンジョンは人間が外に出ると消えるから、俺たちが外に出たら、この水没ダンジョンも消失するんだろう。
巨大鮫から手に入れた巨大クリスタルはミスターの仲間がダンジョンへ現れ、外へ持ち出していった。売ったお金で、次は綺麗な水の無い村へ井戸を作る企画をやるとか。
「なんかあっというまだったな」
「そうっすねぇ」
最初はあれほどビビっていたヒビキも、一日経つ頃にはなじんでいた。馴染んでいたというのはリリもで。
「ラピドラピドラピド、この尾ひれなら水の中身いーね!」
すっかり鮫生活を満喫していた。
「はっはっは! では皆! 1日人魚生活達成の記念撮影だ!」
ミスターに促され記念撮影をし、1日人魚生活は終了。そうして撤収が始まった。
1日が経ったことで人魚化の状態変化は解け、元の人間の足に戻る。同時に、水の中では喋れなくなってしまった。
...たった1日でちょっと足が上手く動かせなくなってる気がする。尾ひれに慣れてしまっていたからだ。慣れって怖いな。
そうしてミスターの仲間たちもダンジョンへ現れ、機材の撤収作業。リリやヒビキも外へと向かい、俺もそのあとに続こうとしたとき、ふと気づいた。
見れば、ミスターは俺たちとは逆の方向の通路へと泳いでいっている。あそこの先は、確か数少ない水没してない部屋だったはずだ。
気になった俺は、そのまま一人でミスターのあとをついていった。
〇〇〇
水中から出て、その部屋の中を見る。中では、ミスターが誰かと話していた。話し相手は、ティファレトだった。
「はっはっは! いつもながら最高の演出だったよ!」
「よ、よかったじゃん」
「これで登録者たちを楽しませることが出来る」
「ミシェル、あなたはとても素敵だよ...儲けたお金で、食べ物に困っている子供たちも助けるんでしょう?」
「もちろんだ。小生の望みは、世界のすべての子供が笑顔になること。おなかをすかせていては、笑顔になれないからな! はっはっは!」
ミスターと話しているティファレト。アドミン特有で目に光は無い。だがそれ以上に、表情が明らかに暗かった。
それはミスターも気づいたようで。
「む? どうしたのだい?」
「ごめん、ミシェル。ごめんなさい。あーし、ミシェルみたいに立派にはなれないの」
「何を言って」
その瞬間、ティファレトが何かをミスターの胸元に突き立てた。
銀色に輝くその刃は、メス。
「あーし、消えたくないの。消えるのが怖いの...ごめんなさい、ごめんなさい...」
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