第38話 かわいいをパワーに
「え、あ、なんで?」
自分でも訳が分からなかった。なぜかはわからないが。
「少し変身できそうだ...」
魂の熱が入ったのがわかる。長時間は無理だが、1分くらいならいける。
「アキ、でっかいのがひるんでるうちに早く!」
リリに急かされ、俺は変身を始めた。
そういえば、配信で変身するのは初めてか...?
『ふぁっ!? クイーンの姿が変わってる!』
『なんか噂になってたのマジだったん!?』
『てことは半分ドラゴンのクイーンちゃんが見れる』
『おい、変身終わったけど可愛すぎ』
『か、かわいすぎですわー! これは新しい服を作らないとですわ!』
『切り抜き確定』
『これ半分ケモノってやつ? 俺ケモナーに目覚めました』
『これは断じてケモノではない。ぶっころがすぞ』
『ほんと可愛い』
『ところで半分ドラゴンになったクイーンちゃんが蛇に巻かれて締め付けられる展開もアリだよね』
変身完了。人魚の状態異常も解除されて、両足はドラゴンの鱗で覆われた足になっている。あとは。
「変身できているうちに、吹っ飛ばす!」
俺は口の前で、ブレスを玉状にした。どうやら普通の炎と異なるようで、水中でも消えないし、水を蒸発させたりもしない。
そのまま玉の形になったブレスを巨大鮫の口内へと放つ。同時にリリが俺を抱えて水中を駆けた。
「ひゃああああ! すっごい爆発! 離れて正解!」
「リリ、大丈夫か!?」
「ノ、プロブレマ(平気)!」
巨大鮫の方を見れば、そこには全身が粉々に吹き飛び、跡形もなかった。
つまりは俺たちの勝利。
『おめでとう!!【投げ銭:50000円】』
『めっちゃ震えた!』
『こんなん最上級レベルじゃん』
『もはや安心して見てられた』
『この二人の安定感ぱない』
『二人でコンビ結成はよ【投げ銭:50000円】』
ふと、部屋の中央部の天井から、何か光が。そこには、ゆっくりと天井から落ちてくる、2メートルはあろうかという巨大な一つのクリスタル。これが報酬ってことだろう。
『でっっっっっっか』
『これ数億の価値あるんじゃね?』
『初めて見たわ』
そういえば聞いたことがある。巨大なクリスタルはそれ一つだけで、原子力発電所数基分のエネルギーを供給することができるとかどうとか。
価値で言えば数億、とかそのレベル。最上級の探索者が、一生に一度お目にかかれるかどうかとか。
「あー、でかすぎ」
「アタシたちじゃ持って帰れないね。あはは」
さて落ち着いたところで、俺はハーフドラゴン化を解いた。と同時、下半身が人魚に戻る。状態変化が完全解除される、ってわけでもないのか。
そうだ、一つリリに聞かないと。
「リリ、どうして突然配信なんか」
「えっとね、ふと思ったんだ。サウナで整うって、どちらもキミと...」
ちらりと配信の方を見るリリ。リリは俺に耳打ちするように、小声で話し始めた。
「どちらもキミとダアトちゃんが好きだったりやりたかったことでしょ?」
「確かにそうだな。俺サウナ好きだし」
「だから思ったの。二人が好きなこと、望んでいることを行うことで、魂が共鳴的なものをして、変身できるんじゃないかって」
なるほど、なるほどね。つまりは。
「のののの、望んでないし! 俺かわいいなんて思われたいって思ってないし!」
俺は首を振って否定した。しかしリリが。
「ほらほら、配信のコメント見てみなよー」
スマホの画面を俺に見せつけてくる。
『かわいい』
『かわいい』
『かわいい【投げ銭:50000円】』
『かわいい』
『かわいい【投げ銭:40000円】』
『かわいさしかない【投げ銭:50000円】』
うう、だから、だからさ、可愛いって、恥ずかしくて、俺は男で...
両手で思わず顔を隠してしまった、その時。
「はっはっは! 二人とも助けに...おや?」
いつの間にか開いていた広間の出口。そこに居たのは。
『へあっ!? ミスターダンジョン!?』
『え、本物!?』
『嘘でしょ!?』
俺は慌ててスマホをリリから受け取り、そのままスマホに向かって話した。
「えっと、今日の配信はここで終わりです! すみません! またこんど! おつくいーん!」
切る直前に見えたコメント、なんというか、いつも以上にコメントがすさまじい速度で流れていた気がする。
出口に居たのはミスターとヒビキ。あれ、よく見ればヒビキはどうも疲れているようだ。
「つ、疲れたっす...うちらモンスターハウスで戦ってて...でもさすがミスターっす。守りに特化したクラスなのに、突然現れた最上級☆9の大群モンスターをボコボコにしたっす!」
「君のバリアも素晴らしかったよ! はっはっは! しかし、まさかまさか、倒してしまったか! 素晴らしい! 諸君らも最上級の実力だったか!」
そう言ったミスターに対し、俺は尋ね...の前に。
ミスターの背後に浮かぶカメラに対して、俺は言った。
「ここから編集点」
改めて、ミスターに尋ねる。
「ミスター。ティファレト、アドミン。この二つの言葉について、知ってるか?」
知らないのならそれだけ。小さな幼女が意味不明な言葉を発しただけ。何もなければ編集で消せば良い。
俺の問いに対して、ミスターは目を細めて言った。
「...ほほう、なるほど、ダンジョンクイーンちゃん。君も知っているのだね、アドミンを」
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