第15話 新武器配信とNPCとの邂逅

「そろそろ行くか」


 迷惑配信者に付きまとわれてから三日後、俺はダンジョン配信をすることにした。俺の目の前には、ダンジョンの入り口がある。

 

 色々考えたが、まずはありのまま配信をしてみることに決めた。まだ数回の配信じゃ、俺が視聴者に何を求められているのかはわからないし、しばらくこのまま配信してから考えてみることにした。

 で、今回俺の前にあるダンジョンは中級と判定されたもの。この武器なら上級でも余裕かもだが、試運転と、もう一つの理由を兼ねてここに決めた。

 そのもう一つの理由というのが。


【ラピドラピドラピド! 現在27階を進行中! この中級ダンジョン最速攻略RTAは順調順調っ!】


 俺のスマホには、リリのダンジョン配信が流れている。そして、そのリリが居るのが、今俺が居るダンジョンだ。

 ちょうどリリがダンジョンに挑むこと、どのダンジョンに挑むかを、先日聞いていた。


「お、志度さんから届いた新しい武器、さっそく使ってるな」


 リリの新しい武器。それは刃が出るブーツだ。

 リリがモンスターを蹴ろうとすると、同時に魔法で出来た刃がブーツから飛び出す。

 ブーツから出るのは刃だけではない、リリの意志通りに、まるでジェットのような魔法がブーツから放たれ、リリの高速移動をサポートしている。ナイフとかより、リリにぴったりの武器だ。

 

「リリには世話になりっぱなしなのと同時に、色々と驚かされっぱなしだからな。ちょっと俺もダンジョンで出会ったふりして、驚かせよう。ついでにダンジョン配信だ」


 予定だとこうだ。リリはスピードを重視で、今回は踏破配信だから、ダンジョンの階層の魔物をすべては倒さない。リリが倒さなかったモンスターを、俺が掃除していく。

 そして俺も途中まで進み、リリを驚かせる作戦だ。

 リリは大体踏破したタイミングで配信を切って、帰りは配信しない。配信を切ったタイミングを見計らって俺も配信を切り、戻りの階段で待ち伏せだ。


「リリ驚くかな。よし、それじゃ配信開始!」


 スマホの配信ボタンを押す。

 

「こ、こんくいーん!」


 この前コメントの人たちが考えてくれた挨拶だ。画面に向かってピースサインで挨拶をする。ちょ、ちょっと恥ずかしい。

 

『キター!』

『こんくいーん!』

『待ってたよ!』

『前回のワンピースにローブ羽織ってるね。くぁいい』


「ええっと、先日は志度さんが突然失礼しました。でも俺はあの件に関して説明とか、あまりできないので...いつも通りダンジョンの配信していきますね。今回も中級ダンジョンです」


『テレビとかネットニュースで大体わかってるから大丈夫』

『よくわかってないのかわいい』

『いつも通りのありのままのクイーンちゃんみせて』


 コメントがあったかい...よし、それじゃ早速。

 

「前回と同じく、コメントの確認やお返事は後日させて頂きますね。今日は、新装備をお披露目します!」


 俺の身に着けていた両腕の腕輪が淡く光ると、俺の両手には銃が。志度さんは小型の格納魔法を組み込んでくれていたらしい。

 さらに、俺が今身にまとっている小さなマントも志度さん製だ。これを身に着けて壁際に行くと。


『あれ、クイーンちゃんの体が透けてる』

『これ透過ってスキルじゃね?』

『確か魔物に探知されなくなるやつだ。でもこれ、魔法職系のスキルじゃ』


 通常であれば、魔法系のクラスでしか使えない、体を透過させるスキル。人間からは半透明に見えるが、魔物からは完全に見えなくなるスキル。それが壁際に近づくと発動する仕組みが、俺のこのマントには組み込まれている。

 俺と最高に相性の良い装備だ。ちょうど少し先に7体ほど小さい狼型の☆3モンスターが。


「バレットマーク...!」


 バレットマークを7体に付与し、そのまま透過状態で近づく。もう今までのように至近距離まで近づく必要はない。


「数うちゃあたる。連射だ!」

 

 正確に狙いをつける必要は無い。バレットマークを付与したら、ある程度狙いを定めて連射すればいい。

 まずは十発...!

 十発の弾は、7匹中6匹に命中。もちろんバレットマークの場所だ。


『幼女に二丁拳銃とかロマンすぎる』

『えっ...かっこかわいすぎ』

『ぜひ今度は日本刀持ってください。絶対に合います【投げ銭:40000円】』

 

「いつつ、腕輪のサポートがあるとは言え、連射で撃てるのは10発か12発程度だな。でも少し休めば何度でも撃てそうだ」

 

 しかし残りの一匹はバレットマークが付与された場所を外し、こちらへ襲い掛かってくる。適当に撃ちすぎた。

 ☆3のモンスターではあるが、俺の素の速さじゃその牙からは逃げられない。だが。

 

「今だ。フロートブーツ!」


 今俺は茶色いブーツを履いている。志度さん曰く、このブーツはリリに上げた刃が出るブーツの技術を一部使えるようにしているらしい。

 俺が足に魔力を込めると、その魔力が風を起こし、俺の体を浮かし、宙返り。

 貧弱よわよわで、走力なんて男の時の半分ほど。そんな俺でも、このブーツがあれば、宙返りだってできる。


『見え』

『見え』

『見え』

『えっ、男ものトランクスを無理やり履いてる』

『まじかよ白い幼児下着じゃないのかよ』

『男になりたいって言ってたし...でもこれはこれであり』

『あっ、ずりおちそう。あとちょっと...おしい』


 宙がえりはちょっとやりすぎた。結構頭ぐわんぐわんする...そりゃ宙返りで五メートルは飛んでるし、勢いはあるよな。かっこつけずに小ジャンプにとどめるのが正解か。

 ともかく宙返りで攻撃を回避する。その間に手のしびれもとれた。あとは再度。


「もう一発!」


 一発なら外さない。すべてのモンスターは倒れ、残ったのは複数のクリスタルのみだ。

 それを視聴者からもらった投げ銭で買った、異次元ポーチへと突っ込む。

 

「あ、そうだ。皆さんのおかげで異次元ポーチを購入することができました。本当にありがとうございます」


『ええんやで』

『ポーチすっごく似合ってる』

『すごい、前よりも戦いがめっちゃ見ごたえがある』

『幼女が二丁拳銃持って身軽に戦うとか、最高じゃん』


〇〇〇


 そのまま俺はダンジョンをさくさくと進んでいた。

 この新しい武器、最高だ。弾も異次元ポーチの中身にたくさん詰め込んできたから、リロードの隙以外は気にする必要が無い。

 バレットマーク。幼女の姿になってしまったが故に鍛えたスキルだが、こうして攻撃を乱射できるようになると、かなり強いスキルだ。


『でもバレットマークってここまで強いスキルだったか?』

『せいぜい威力1.5倍のはずだけれど、かるく5倍、いやそれ以上増えてるように見える』

『それだけクイーンちゃんがスキルの練習詰んだんだろうか。さすがはホムンクルス...!』


 今まで通りふいうちスタイルなのは変わらない。それでもこれまでに比べて、圧倒的速さで敵を倒し、地下へとどんどん進むことが出来た。

 ふと気になり、配信用のスマホを手に取る。

 

『おかおちかい』

『真っ赤なお目目かわいい』

『これはガチ恋距離』

『惚れましたわですわ』

『またお嬢様沸いてる』


 リリの配信を見ると、予想通り既に配信を終えていた。アーカイブを見ると、さすがはリリ。80階層に居るボスを倒し、見事大型クリスタルを手にしていた。今は配信を閉じて、来た道を戻っているのだろう。

 俺の階層は今50階。となると、そろそろ階段で待ち構えた方が良いかな。なんて考えていると。


「...誰かいる」


 ダンジョンの中にある大広間。基本通路だらけのダンジョンだが、時折このように大広間も出てくる。

 大広間はモンスターハウスであったり、あからさまな休憩スポットになっていたりするんだが、今回の大広間は、人が一人居るだけだった。

 それは若い男性の姿をしていた。髪色は紫色だが、長い髪を一つに束ねている。

 中肉中背、といった雰囲気で、年齢は18歳前後だろうか。まるで魔法使いのようなローブを身にまとっており、はた目から見れば普通の人だが、明らかに人と違う点があった。

 瞳に光を感じない。それはまさしく。

 

「NPC...!」


『NPCとの邂逅きた!』

『こうしてみるとクイーンとは雰囲気全然違うな』

『なんで俺たちクイーンをNPCだと思ってたんだろう』


 もしかしたらリリが合っているかもしれないと考え、リリの配信アーカイブを見る。

 予想通り、リリはあのNPCに合っていた。どうやら言われたことを達成すると報酬をくれるタイプだったようで、この広間のモンスターをすべてせん滅して、オーパーツをもらっていた。

 なおもらったオーパーツは大したものではなく、リリはがっかりしていた。

 たしかそういうNPCは、誰かが報酬をもらうと声かけても反応しなくなるんだったか。

 

「一度声かけてみようかな」

 

 NPC自体、ダンジョンで会えるのは1%未満といわれている。いわゆるレアイベントだ。せっかくなら、一度話しかけてみたい。

 俺はそのNPCへと近づき、声をかけた。


「えっと、は、はじめまして」


 話しかけると、そのNPCは俺の方を向いた。そしてすぐに返答をせず、一拍置いてから言った。


「ダアト...?」

「え?」


 ダアト。もちろん俺はそんな名前じゃない。

 だが、声をかけられた瞬間、俺は悪寒を感じた。なぜかわからないが、こいつからは不快さを感じる。

 

「ええと、人違いではないでしょうか。俺はダアトという名前ではないです」

「そうでしたか。確かに、外見は良く似ているが、別物ですね。失礼しました」


 ...内心めっちゃびっくりしていた。何せ、反応が無いはずのNPCから反応があったからだ。それも、誰かと間違えているという。

 でも、なんなんだこの感覚。なぜか、【こいつがヤバいやつだ】という感覚がある。

 なんというか、まるで【俺の記憶の中に、俺の知らない経験が存在する】、そんな変な感覚だ。


『このNPC、リリちゃんの配信でも出た奴だよな』

『もうクエスト終わってるのに、なんで反応したんだ?』

『なんか、今までに見たことのない感じだ』


 強い悪寒を感じた俺は、そこからすぐに離れることにした。


「で、では俺は失礼して...」


 そのNPCから離れようとした。その瞬間。


「なっ!?」


 俺の目の前をすさまじい電撃が走った。この電撃は剣撃の形をしており、おそらく【魔法剣士】のクラスのものの攻撃。

 その電撃に体を切られ、目の前のNPCの胴体は真っ二つになり、地面に倒れた。

 電撃が発せられた元を見ると、そこにはあの迷惑系配信者の姿があった。


「ジョウ...!」

「おおっと残念だったなダンジョンクイーンちゃん。NPCからクエストでも受けて報酬でも貰おうとしてたんだろうが、そのNPCは死んじまった!」

「...よくもまぁ、人間の姿をした相手を平気で攻撃できるな」


 確かに相手はNPC。人間ではない雰囲気を出していたし、体が真っ二つにされても血は出ない。断面には、金属のようなものが見える。おそらくゴーレムの類だろう。

 

『うわ、あいつジョウじゃん! 迷惑系配信者の!』

『犯罪スレスレ、っつーか前に軽犯罪犯して捕まってたよな』

『クイーンちゃん変なことされる前に逃げて!』


 ジョウの手口はわかりやすい。最初に俺が会ったときと全く同じ手口で、配信者を邪魔して怒らせ、相手が怒っている姿を配信や動画で流して視聴回数を稼ぐ手口だ。

 だがどうやら、俺がNPCからクエストを受けようとしていたと勘違いしているようだ。

 NPCが切られたのは仕方がない。ここは無視して俺は去ろうとしたが、奴は俺の前に立ちふさがった。

 

「おっとクイーンちゃん。ちょっと俺と話ししようじゃないか」

「通してくれ」

「通りたいなら自慢の攻撃で俺を倒したらどうだ? ダンジョンクイーンちゃん。それとも、誰かに助けてもらうために防犯ブザーでも鳴らすか?」

「...」

 

 ひたすらにイラつかせてくる。実際、こいつに道をふさがれた影響でモンスターから逃げられる大けがをした配信者も居る。中には引退にまで追い込まれた人だって居る。こいつは、他人が自分のせいで傷ついてもお構いなしの人間だ。


「クイーンちゃん、別に戦ったっていいんだぜ? ここを通るために俺を倒したっていい。自慢のバレットマークってやると見せてみろよ」


 こいつが持っている盾と剣。バレットマークは生物か、道具などの小さい無機物に着けることができるから、バレットマークを付けて銃を撃てば破壊は簡単だろう。でも俺が攻撃したら、こいつの思うつぼだ。

 ああもうひたすらに面倒くさい。そう考えていた時だ。


『あれ...NPC動いてね?』

『ほんとだ、立ち上がってる』

『切られたところ、なんかくっついてる...』


 近くに気配を感じて、俺がその方向を見るよりも早く。

 

「ぐっ、があああああああ!」


 ジョウの叫び声が響いた。見れば、ジョウの左腕には、無数の刃、手術で使うメスのようなものが、突き刺さっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る