第16話 vs最上級モンスター

 NPCが居たところを見ると、そこには立ち上がっているNPCの姿が。その周囲には、無数のメスが浮かんでいた。

 

「嗚呼、不快も不快。ただでさえダアトに似た少女を見て不快だというのに、それに気を取られ体を切られてしまうとは。あまりに不快です」

「てんめえええええ! 何しやがる!」


 ジョウが盾を構えてNPCへ突っ込もうとする。だがNPCの放つメスは盾をいとも簡単に貫通した。

 

「なっ! 俺の盾が...最上級素材使ってんだぞ...!?」

「おいやめろ! そいつはヤバイ!」


 メスは何か魔力を帯びているのは、見て明らかだった。

 それでもジョウはNPCにとびかかる。一応は最上級の探索者。その体に無数のメスが刺さりながらも、NPCにとびかかり、剣を振り下ろした。

 だが、NPCはその剣を片手で止め、その間にさらに無数のメスをジョウに突き刺す。そのまま、ジョウの体を俺の近くへと放り投げた。

 

「お、おい大丈夫か!」

「...」


 返事がない。死んでは居ないが重傷だ。この傷では、もう冒険者として復帰は無理だろう。

 

『嘘だろ、一応最上級だぞ...』

『つまりこのNPC、最上級レベルのモンスターってこと...!?』

『クイーンちゃん! そんな奴なんて放っておいて逃げて!』


 放っていく。それが最善の策だ。でも。

 

「ああもう、自分が嫌になる! なんで俺は放っておけないんだ!」


 俺は救助隊のバッジを取り出し、ジョウの体に転送魔法をかけた。

 志度さんの新作バッジだったから、前と違い転送にラグが無くすぐジョウの体は転送された。

 

「痛っ!」


 その時、俺の持っていた救助隊バッジにメスが突き刺さった。

 NPCを見ると、その目は俺を見据えている。


「しかし、ダアトによく似た少女。やはり不快ですね。ついでです。この際、殺しておきましょうか」


 そのNPCが手を振り上げると、NPCの周囲に五本のメスが浮かんだ。

 そのメスの刃先は、全て俺を向いている。


「ここで処分しておきましょう」


 大量のメスが一斉に、俺に向かって飛んでくる。


「ふ、フロートブーツ! バレットマーク!」


 俺は間一髪でフロートブーツで飛び上がり、そのメスを回避した。

 本数が恐ろしい。軽く百本以上あるんじゃないか。

 俺は飛び上がりながら、バレットマークを付与したNPCの頭部に弾丸を乱射した。弾丸は命中し、NPCの頭を吹き飛ばす。

 

『さすがダンジョンクイーン! 最上級のモンスター倒した!』

『つよい。かわいい。さいきょう。かわいい』

『勝ったな、風呂入ってくる』

 

 さすがに頭を吹っ飛ばせば倒せる、そう思った。

 でもその瞬間、悪寒がした。【こいつはこれじゃ倒せない】【弱点は頭ではない】。そんな確信がある。


 地面に着地する。ほんの一瞬目を離しただけだったが。

 

「居ない...!?」


 気配を感じ、宙を見上げる。そのNPCは浮いていた。そして周囲には、軽く十本以上はあるだろう、大量のメスが浮かんでいた。

 どうする...!? フロートブーツはすぐに使えない。明らかに向こうが圧倒的優位だ。


「これであなたが死んでくれると嬉しいのですが」


 メスが放たれる。

 今の俺の体の治癒力なら、すぐに回復するはずだ。良い手段ではないが、ここは甘んじて攻撃を受けて次の行動を考えよう。でも痛いだろうなぁ。そんな考えが頭をめぐる。

 

 その瞬間、俺の体は何かに抱えられ、移動した。

 俺が居た場所に、無数のメスが突き刺さる。だが、そこには俺はいない。俺を抱きかかえたのは。


「リリ!」

「もう、びっくりしちゃったよ! 今までにないくらいヤバイ状況みたい!」


 リリが俺をかかえたまま走り続ける。


「リリ、危険だ! あいつは!」

「今更何言ってるのさ! キミだって危ないよ! でも大丈夫! キミの配信、戻りながら見てたからね。じゃ、まずはさっさと逃げ...」


 その時、青年が指を鳴らす。大広間からの出口が、全て壁で覆われた。


「あちゃー。これはぶん殴らないと終わらないパターンかも!」

「...もしこれを見てる視聴者の人が居たら、一つお願いがある。救助申請を頼む」


『突発コラボ配信キター! でもそれどころじゃねぇ!』

『わ、わかったよダンジョンクイーンちゃん!』

『救助申請出した! 頑張って!』


 いずれにしても。


「リリ、あいつを倒すか、救助まで時間稼ぎするかだ」

「だね! じゃ、あたしの背中に!」


 リリに背負われる形になる。俺ではあのメスは絶対に避けられない。リリの足の速さがあってこそだ。


「リリ、あてにしてる!」

「よーし、突発だけど初コラボ、いってみよー! アクシオン(行動開始)!」


〇〇〇


『やべぇ攻撃が激しすぎる』

『でもさすがリリちゃん。攻撃当たる気配が無い』

『今めっちゃ調べてるけど、あんなNPCというかモンスター、まったく見つからない』

『マジかよ初出モンスターかよ』

『しかも最上級探索者を簡単に倒すレベルだ。やばすぎる』


 メスがまるで竜のような塊になって、俺たちに迫ってくる。リリの背中に背負われながら、俺があのNPCに銃を撃つ。

 だがNPCの周りには円状に、大量のメスが飛び交っている。俺の放った弾丸はすべてはじかれた。

 NPCだけでなく、俺は周囲のメスに対してもバレットマークを付与してメスの破壊を試みた。だが、破壊してもすぐに生成されて、きりが無い。


「ラピドラピドラピドラピド。もう何なのあのメス! 魔法だと思うけど、どこから作ってるの!?」


 リリが疾走し、壁を駆ける。さすがはリリの速さ。メスが当たる気配すらしない。

 だがそれはこちらも同じことだ。今のところ、あいつに攻撃を当てる手段が無い。

 

「リリ、あいつは【胸元のコアが弱点】だ。そこにバレットマークで攻撃を当てれば勝てる」

「え、なんで弱点知ってるの!?」


 俺も不思議だ。なぜかわかる。まるで、俺の経験の中に知らない経験があるかのような、不思議な感覚。

 どう表現すれば良いかわからないから、リリにはこう伝えるしかなかった。

 

「直感!」

「バレ(わかった)! そういうの嫌いじゃないよ! キミを信じる! でも、どうやって攻撃しよう? そうだ、アタシ緊急事態用の爆弾とか持ってるよ!」

「いやだめだ。あのメスの量だと、手で投げつける必要のある爆薬は投げても撃ち落される」


 しかし、あの大量のメスをどうする。何かメスを一か所に集める方法があれば...


「そうだ! リリ、ちょっとリリの異次元ポーチから道具取り出す!」

「いいよ! 好きにして!」」


 俺はリリのポーチから、とある道具を取り出した。それは俺とリリが出会った時、リリが配信で使っていた道具。リリの背に乗りながら、その道具を最低出力で起動する。

 そして俺の救助隊バッジに突き刺さったメスを近づけると。


「くっついた...! いける! リリ、作戦を聞いてくれ」

「作戦! 聞くよ聞くよ!」


 俺はNPCに聞かれないように、リリに小声で作戦を伝えた。


「わお! 確かにそれならいけるかも」

「作戦開始だ! えっと、アクシオン(行動開始)! だっけか?」

「そそ、アクシオン! 行くよ行くよ!」


『メスのガチャガチャで音で二人が何話しているか聞こえなかったんだけど』

『え、リリちゃんがNPCに向かってく』

『危ないって! 逃げてー!』


 リリがNPCへと向かっていく。そしてリリはNPCを覆うメスの塊の前で急ブレーキをかけた。

 急ブレーキと同時に、俺はその勢いで、NPCの上を弧を描くように飛びあがる。そして地面に向かって。

 

「フロートブーツ!」


 フロートブーツで突撃した。

 

「ぐぁ」


 盛大に地面に激突して、すぐにNPCを向く。だがNPCが攻撃をしたいのは、俺に対してなのは明らか。リリの居る背後をメスの壁で固め、少数のメスを俺に向かって飛ばそうとしてきていた。

 しかし。

 

「携帯型雷魔法誘導避雷針、起動だ!」


 俺は飛び上がった際に二つ左右に、そしてリリの背後に一つ投げておいた、携帯型雷魔法誘導避雷針を起動した。これはリリが雷属性のモンスター対策に持っていたものだ。

 そしてこれは、強力な磁力を発する。リリの背後に迫っていた竜のようなメスの塊と、NPCの背後を守っていたメスが、その磁力に引き寄せられ、NPCは完全に無防備になった。

 そしてその状態で。


「バレットマーク付与! 今だリリ!」

「アテンシオン(注意)! 本命は...アタシ!」


 リリがNPCへ高速で突撃し、ブーツから出た刃で胸元を切り裂いた。

 

 攻撃と同時、周囲のメスがすべて消失した。


「間違いない。コアを破壊できたんだ」


 そして倒れたNPCは、そのままピクリとも動かなくなった。


『え、あれ、そっか。たぶんゴーレム系だったら、コアを攻撃すれば倒せるはず』

『切断面にコアっぽいものが』

『え、え、え、まさか、まさかまさかリリちゃんとダンジョンクイーンちゃん』

『倒した!? 最上級の探索者と倒した、最上級のモンスターを倒した?』


 そうだ、そういえば配信中だった。配信用のスマホ、よくあの状況で無事だったな。

 なんて考えていると、リリが俺の配信用のスマホを手に取って、自撮りのようなポーズを取り始めた。


「ほら! キミも早く!」

「え、何を」

「勝利のピース!」

「えっと、ぴーす...」


 俺はリリと共に、はスマホの前でピースをした。


『おめえええええ!【投げ銭:40000円】』

『【速報】ダンジョンクイーン、最上級モンスターに勝利【投げ銭:30000円】』

『つよい! かわいい! 最強!! 【投げ銭:50000円】』


 あ、あはは、なんかもりもり投げ銭もらっちゃってるな。いいのかな。

 

「なんか大変なことになっちゃったんで、今日の配信はここまでにします、ありがとうございました。コメント返信とかはまたいずれ」


『おつくいーん! 大金星!』

『登録者200万超えた!』

『りりちゃんねるも爆伸びしてるぞ! ほんと二人ともおめでとう!!』


 そうして俺が配信を切ってすぐ、リリが俺に抱き着いてきた。


「おつかれー! キミ、本当最高だよ! まさかあんな強いの倒しちゃうなんて!」

「あはは、案外苦戦はしなかったな。リリのおかげだよ」

「苦戦も何も、当たれば終わりだったからね」

「そうだ、救助申請も解除しておかないと。帰り際連絡しておこう」

「出口はアタシの道具の一つの爆弾で開けちゃお!」


 にしたって、このNPCは何だったんだろうな。

 襲ってくるNPCというのは聞いたことがあるけれど、ここまで理不尽な強さなのは聞いたことが無い。


「あれ、おかしくないかリリ」

「お? どうしたの?」

「死体が消失しない」


 倒したモンスターは通常、死体が消える。消えると同時、固有のドロップやらクリスタルを落とすはずだ。

 だがNPCの死体が消えない。そう考えていると。


「嗚呼、不快も不快。ただの偽装体といえ、ダアトの姿に似た少女にやられるとは。不快だ」

 

 俺とリリは身構えた。倒れたNPCが、まだ言葉を発している。

 だが、その体は足から消失が始まっていた。


「嗚呼、しかし不快さにかまけている暇は無い。ゲブラーとしての役目を全うしなければならない。またいずれ会おう。探索者たち」


 その言葉を最後に、そのNPCの姿は消えた。そこには、クリスタルも固有のドロップも存在しない。

 

「なんだったんだ、今の」

「アキト、これ志度さんにお話した方が良いかも」

「そうだな...」


 とはいえ、今はとてつもなく疲れている。だから志度さんに連絡は、あとにしたい。

 

「報告は帰ってからだ。まずは体の疲れを癒したい」

「じゃ、このあとはもちろん?」


 これだけ汚れて、疲れている状況だ。やることは一つ。


「「サウナ!」」


 二人の声が一致した。

 そうしてダンジョンの出口へと向かう。ふと、俺は先ほどあいつが言っていた言葉を頭に思い浮かべていた。

 ダアト。ゲブラー。なんだろう、どちらも聞いたことが無い言葉なはずなのに、何か違和感が...



【一度だ...教え...名前...ダアト...】



「っ!?」

 

 突如、頭に浮かんだ光景。まるでノイズのかかり、まるで何も見えない光景。おぼろげながら浮かんだのは、ダンジョンを背景に喋る、白銀の髪を持ち、背中にドラゴンのような羽が生えた少女の姿。


「アキト、どうしたの?」

「い、いや、なんでもない」


 突然浮かんでは消えた光景。今のはなんだったのだろうか。

 疑問は残るが、今はサウナだ。

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