第17話 サウナとハーフドラゴン
「あ゛~、最高だ」
疲れた体にサウナの暑さが染み渡る。
今回、俺たちはリリが見つけだしたスーパー銭湯へとやって来ていた。
俺たちが住んでいる街の中では大分外側、郊外にあるスーパー銭湯で、利用者はおじちゃんおばちゃんがメイン層。
しかも俺たちがやってきた時間は利用者がかなり少ない時間帯で、俺たちが身バレすることなく入ることが出来た。
「うーん、アタシ残念だなぁ。あのロウリュってやつ、今日はやってないなんて」
そう、このサウナはロウリュのイベントを実施しているところらしい。
あっつあつに加熱したサウナストーンに、水をかけて蒸気を発生させ、タオルやうちわを振って熱風をサウナ室に充満させる。あれはあれで最高の代物だ。
「仕方がないさリリ。やるなら人の多い時間にやるだろうし」
「そうだよね。じゃぁ今度はアタシたちだってばれても住所バレしないもっと遠いサウナに行こ!」
「だな。今日は今日で、このサウナを楽しもう」
そうしてサウナで俺とリリで体を温めていると、サウナの扉が開いた。
そこから現れたのは、バスタオルに身を包んだ高身長の女性。髪の毛は緑色のロングだ。
バスタオル越しに見ても、かなり豊満な体だとわかる。かなり美人と言える女性だ。
「邪魔するよ」
そう言葉を発した女性は、俺の隣に座る。俺はリリと、その女性に挟まれる形になった。
その状態で1分、2分、3分と時間が経過する。俺とリリは考え込む。
「いや、中々暑いものだな。私はこれを好きにはなれないかもしれない」
と発したその女性。その女性に、俺とリリは見覚えがあった。
「「志度さん!?」」
そう、入ってきたのは志度さん、その人だった。
「な、なぜここに志度さんが居るんだ!?」
「幼女ちゃんからNPCに関する連絡を受けて、あまりに興味深い話故、今すぐ聞きたくてね」
「なんでアタシたちの場所がわかったんですか!?」
すると志度さんは。
「救助隊バッジは元々私が作ったものだ。あれ自体にGPSが内臓されている。救助隊のシステムにアクセスし、幼女ちゃんのバッジを追っただけだよ。どうやら幼女ちゃんのは壊れたようだが、GPSは生きててね」
「う、もっとプライバシーというものを尊重してほしい...」
「一応私は幼女ちゃんの母親という扱いだ。このくらいは許されるだろう」
母親、母親か。こんな美人な人が俺の母親...
あ、いや何を考えているんだ俺は。
「さぁ、話してもらおうか。そのNPCの話を」
「わかりました。それでは」
しかし、ここはサウナの中。ゆっくりと話すには適してない。
だがサウナは楽しみたい。なら。
「一緒にサウナを楽しみながら話しましょう」
〇〇〇
「なるほど、大体の話は理解したよ」
三人でサウナを楽しみながら、今は露天で一回目の涼みを行っている最中だ。
「幼女ちゃんの話が本当であれば、君達が出会ったNPCは過去に例の無いNPCだ。そして、幼女ちゃんをダアトと呼んだ。そしてそのNPCはゲブラーと自身を呼称したのだね」
「ああ。その通りだ」
「ダアト、ゲブラー。いずれも名前だろうが、なぜ幼女ちゃんはダアトと呼ばれたか」
「アタシも聞いたのですが、アキトを『ダアトによく似た少女』と言っていました」
「ふむ...容姿がただ似通っていただけか、それとも」
もし俺が元の男のままなら、ただ似ていただけと考える。
だけれど、今俺は幼い女の子の姿。そしてこの姿は、元の姿の面影一つもない。
その状態で『誰かに似ている』と言われたら、何か理由があるのではと考えてしまう。
「うーむ」
「あ、あの志度さん」
今俺たちは露天風呂にある寝ころべる椅子でくつろいでいる。
そして志度さんは立ち上がったかと思うと、くつろいでいる俺に顔を近づけてきた。
いや、あの、タオルから、胸が。でっかい旨が、見え、見え...
「もう少しよく見せてほしい」
「おあー!」
俺の胸元に、志度さんの豊満な胸元がくっつく。それどころか、志度さんは俺に覆いかぶさるようにまたがってきた。
志度さんの柔らかな感触を全身に感じる。足、ふともも、腰、胸...
「あ、あ、あ」
頭から湯気が上がるような感触がする。だ、だめだ、これ以上は理性が。
そう考えていたら。
「志度さん! アキトにくっつきすぎです!」
リリの静止で、ようやく俺は解放された。
「おっと、すまない。ちょっと夢中になってしまった。いや、幼女ちゃんの顔をよく見るだけのつもりが、あまりに可愛くてつい見惚れてしまってね」
なんかかわいいとか言っている気がするが、俺は全く思考が回らなかった。
「感謝する。NPCの話は興味深かった。帰宅次第情報をまとめ、ダンジョンの研究者に共有する。何か情報が得られれば、君達にも共有しよう。さて」
すると志度さんは再度、サウナへと向かっていった。
「私は全くサウナが良いとは感じないが、君達は好きなのだろう? 再度まで付き合わせてもらおう」
そうしてサウナを再開した俺とリリ、そして志度さんだったが。
まず二回目の涼み時。
「ふむ、何か頭が冴えるような感触があるが、良いものとは感じないな」
そして三回目の涼み時。
「う、うわああああああ! こ、これは! 刻が、刻が見える!」
志度さんも会得したようだった。
「ととのいましたか?」
「真理へ到達した気分だよ」
志度さんもサウナが好きになったようで何よりだ。
よし、あとは風呂を上がって牛乳でも一杯。そう考えながら、俺はリリや志度さんと共に風呂を出ようとした、その時だ。
「あ...れ...?」
突然、頭が熱くなりだした。これ、もしかしてのぼせたか。
「いや、なんだ、体中が、熱い」
「アキト!? どうしたのアキト!」
あまりの体の熱さにうずくまる。だがその痛みはすぐに引いた。
「いてて、なんだったんだ...ん?」
立ち上がって見れば、リリと志度さんが俺を見て固まっている。
リリは、俺の頭を指さしている。
「頭?」
ふと、風呂場の洗い場の鏡に目をやる。そこには、俺の見慣れた白銀の髪を持った幼女の姿があった。
だが、俺が見慣れた姿とは、異なる場所がいくつかある。
瞳。まるで爬虫類のように、縦長の瞳になっている。
手と足。爪が鋭利にとがり、さらには手先足先が、鱗のような硬質の肌で覆われている。
口元。口を閉じても分かるほどの、鋭利な牙が生えている。
背中。非常に小さいが、鱗と翼膜で覆われた羽が生えている。
頭。頭からは、二本の白い角が生えている。
「...は?」
そこに映っていたのは、タオルに身を包んだ、人間と...おそらくはドラゴンなどを足して割ったかのような姿を持った、白銀髪の幼女の姿だった。
そして、その姿を見て、また頭に浮かぶ光景。
【一度だけ教えてあげる! アタシの名前はダアト!】
「そうだ、思い出した」
俺がこの幼女の姿になる前。俺はダンジョンの中で出会っていた
ハーフドラゴンで白銀髪な少女、ダアトに。
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