第14話 迷惑系配信者
武器が届いたから早速ダンジョン探索しつつ配信...とはならず、俺は数日間、配信タイミングを探していた。
理由として、あの志度さんの俺が人工人間宣言から、俺のチャンネルだけじゃなく、ニュースやら何やらで話題がひっきりなしのため、様子見をしている。
テレビのニュースにも取り上げられ、この件の考察やネタ動画も乱立し、検索してみれば掲示板には連日スレが立つ事態に。
ちょっと意外だったのが、俺が人工やら人造人間だって話も、「まぁ志度イケヤなら...」みたいな感じで受け入れられていたということだった。前から生物実験みたいなものはしていたらしい。
そもそも昔なら人造人間とか、そんなもの倫理が許さなかっただろうが、ダンジョンが一般的になって以前より倫理が緩くなっているという事実はありそうだ。
この件はエカにも「人造人間でしたの!?」と連絡用のチャットで問い詰められたが、リリの説明により、志度さんが嘘を流していると理解したようだ。とはいえ、エカ曰く理解に1日と7時間48分34秒かかったらしいが。
あとソボロは量を3倍にして返してもらうことになった。
それはそれとして、この騒ぎの中で、俺のチャンネルはというと。
「ひゃくじゅうまんにん...」
登録者数が爆伸びしていた。しかもなお伸び続けている。
俺が過去に投稿した動画とかも、平気で百万再生を超え、配信のアーカイブに至っては一千万を超えている。
百十万人の人が俺の動画や配信を見ている、というのは確実だ。
リリ曰く、『これでも全然増えてない』らしい。まだ世間はこの件で混乱しており、おそらく次の配信で登録者数が爆発するだろう、とのことだ。
「は、吐きそう」
先日始めたトゥイッターも、一瞬でフォロワーが50万人を超えた。
投稿も【よろしくおねがいします】としか投稿してないのにもかかわらずだ。
幸い、男になりたいと配信で公言していたことから、トゥイッターなどを通して、ダンジョンに関する情報が届くようになった。
とは言っても大半は明らかなガセだったり、嘘にしか見えないものだったり、ひどいものだと変態的な写真を送りつけてくる奴も居た。そういうやつは全員問答無用で通報している。
有力な情報は今のところ皆無だった。
これだけ話題になっていて、ダンジョン配信も期待されている。
だから俺は、ダンジョン配信しなければという焦燥感にもかられていた。
なによりも、ちゃんと男になるための情報が、実際ガセでも届くようになったのが嬉しい。そのうち本物にも出会えるかもしれない。
そのためには、ちゃんと俺が活動しているところを見せるべき。見せることで、情報送ろうという気になるはずだ、というのがリリの言葉だ。
「にしても、配信者として人を楽しませるには、どうすれば良いんだろうか」
正直俺の登録者数が伸びたのは、色々と偶然が重なったからだ。
顔を出して配信したのは、ダンジョンで一回、コメント返信で一回。それだけだ。
リリはそのままのキミでいいよと言っていたが、顔を出して、多くの人に配信するんだ。俺のチャンネルに登録してくれているのだから、それにできるだけ答えたい。
「参考になるダンジョン配信者居ないかな」
俺は自宅でひたすらにダンジョン配信を漁っていた。
個人で配信している人や、事務所に所属して配信している人。複数人でパーティを組んで配信している人も居る。
ハイレベルのダンジョンに挑むのも人気で、世界で最も有名な配信者は最上級の探索者で『ミスターダンジョン』という名前で活動しており、楽しく見れる配信で、人気なのも頷けた。
面白いと思ったのが、配信スタイルも千差万別であったことだ。
「この人はダンジョンの中で料理してるのか。初級ダンジョンばかりだが、ダンジョンの奥深くで料理するの、なんか面白いな。バッグから食材が落ちた時とかの焦り具合、ちょっと面白かった」
他にも、正統派のダンジョン攻略もあれば、俺みたいに攻略法を配信している人も居る。
ひたすらに遠距離から狙撃する配信もあれば...
「こ、これは...!」
ちょっとえっちな配信もあった。
あえて際どい服装でダンジョンに挑戦したり、妙に破けやすい素材で出来た装備で配信したり。
スタイル抜群で、色々なコスプレをしながらダンジョン配信をしている人も居る。しかもこれで上級ダンジョン踏破しているのだから、かなりの実力者だ。
「コスプレかぁ」
そういえば、可愛い服を着てほしいというコメントもあったな。なんだろう。俺に似合うコスプレ。白髪赤目...メイドとか...
「い、いやいや。何考えてるんだ俺」
首をブンブンと振って気を取り直した。
それにしても、本当に様々な配信スタイルがあるんだな。
「でも、これはちょっと不快だな...」
それは、ダンジョン探索者を邪魔したり、倫理的によろしくない行為ばかりする配信者。どうやら、巷では迷惑系配信者と言われているようだ。
たとえばダンジョン踏破中の人々や配信者を邪魔したり、ドッキリ企画だとか言ってモンスターをけしかけたり。
それで配信者が困ったりした姿をみて笑い転げる。ひどいときは、それによって誰かが怪我をしたりもするらしい。
それだけではない。身元を隠していた配信者の身元を特定し、突撃...凸(トツ)、という表現が使われているが、それによって配信者のプライベート情報を暴露したりもしている。
暴露された配信者は引っ越しを余儀なくされたりなど、大変な目に合わせているにも関わらず、悪びれない。しかも法律的にはグレー。ダンジョン内の行為も自己責任論で、法律的にはグレーなのが本当にいやらしい。
「こういう人を応援する人も居るというのが不思議だな...」
そうして迷惑配信者について調べていると、やたらとトップページに出てくる配信者が居た。
「かやまジョウチャンネル...ジョウって配信者のチャンネルか」
典型的な迷惑系の配信者だった。有名な配信者の身元を特定し、地上で凸をするのはもちろん、ダンジョンに気付かれないようについていき、ダンジョン攻略中に邪魔したり、手柄をかっさらう。
さらに悪質だったのが、本人の実力が最上級ダンジョンレベルであったことだ。最上級と言っても大分ギリギリの実力のようだが、それでも上級ダンジョンを簡単に踏破できる実力を持っている。クラスは『魔法剣士』だ。
「こういうやつらのは参考にならないな」
なんて考えていたら、腹がすいてきた。もう外も夕暮れ時。そういれば、朝から何も食べて無かったな。
冷蔵庫を見る。あるのは冷凍したゴハンだけ。
「ソボロさえあれば...」
取り逃げされてしまったものは仕方ない。3倍返しを約束させたし。
俺は最低限の身支度。女児用のズボンに、適当なシャツ...
「また洗濯忘れてた。この『すべすべまんじゅうがに』って書かれたネタシャツでいいか」
今の俺には大分だぼだぼだが、男時代に来ていたシャツを身に着け、外へ出た。向かうは、近くのコンビニだ。
〇〇〇
コンビニへの道。この姿でこのあたりを歩くのも、慣れたもんだ。
思い返せば、この姿になってから、服には苦労しっぱなしだ。
「最初はコンビニ行くとき、パンツ丸出しだったもんな...」
この姿になってすぐの頃だ。最初こそ姿が変わったことに困惑し、家にこもっていたが、食料が尽きてしまえば外に出ざるを得ない。
最初はウーパーイーツなど、宅配系のサービスを使っていたが、金銭的な不安を感じ、勇気を出して外出をした。
女児用の服なんて持っておらず、たぼたぼのTシャツの下に、ずり落ちそうなトランクスを押さえながら外出した。実際何度かずり落ちてしまったこともある。
その後は女児用の服もいくつか買って、それを身に着け外出することが増えた。とはいえ、未だに抵抗はある。女児用の下着も買ったが、さすがに恥ずかしくて身に着けられなかった。
「でも、やっぱコンビニまでの道のりも遠く感じるなぁ」
今でこそ慣れたが、この小さい歩幅は本当に慣れなかった。コンビニへの道のりが三倍は遠く感じたものだ。
「さて、コンビニへ着いたけど」
そういえばコメントでごはん代貰ったし、ちゃんとご飯用に使わないとかな。
「よし、今日は大盤振る舞いだ」
〇〇〇
「なんて意気込んだはいいものの」
コンビニから出た俺の手にはマイバッグ。中には購入した商品が入っている。
大盤振る舞いと意気込んだが、中にはカレーパンが一つと、明日用のおかずにレンジで温める総菜が一つ。
「この姿になって本当に胃が小さくなったからなぁ」
前は大盛ご飯くらいなら食べれたが、今はお茶碗の半分も食べれない。
「とはいえ、明日はちゃんとスーパー行かないと」
コンビニはどうしても割高になりがちで、滅多に来ない。それこそ、今日みたいに遅い時間に食事が無かった時くらいで、普段は少し遠めのスーパーに行っている。そこのスーパーはもやしが安かった。
明日はそこへ行こう。そう考えて歩いていると。俺の前に一人の男が立ちふさがった。
「え...?」
その男。そこそこ歳の行っているその男の顔を、俺は見たことがあった。
「おお、目撃情報通りだ。まさかここで出会えるとは、ダンジョンクイーン」
カメラを手に俺を見下ろす男。その顔は間違いない。
迷惑系ダンジョン配信者、ジョウだった。
最悪だ。特定された。それも迷惑系ダンジョン配信者に。
「ハッ、まさか視聴者からのタレコミが本当だとはな。お前をこのあたりで見たって聞いて来てみれば」
まさかバレるなんて...と思ったが、それもそうか。よく考えれば俺は白髪に赤目。
今時髪や瞳の色が派手な人は珍しくないが、それでも今の俺はかなり独特な見た目をしている。
でも対策はある程度知っている。そう、相手にかまわないことだ。
「来ないでください。不審者さん」
俺はそう言い放ち、その場を後にしようとした。しかし、歩く俺の背後で、相手はいつまでも後ろをついてくる。しかも不運ことに、周囲に全く人けが無い。
このまま家に帰ったら、俺の家まで特定される。それは避けたい。
「いつまでついてくるんですか。警察呼びますよ」
すると奴は自身の持っているカメラに向かって話しかけた。
「おい聞いたか!? 普通の人間でもないやつが、いっちょ前に警察を呼ぶってよ。イケヤだっけか? あいつがダンジョンクイーンの人権やら何やらの手続きはしたらしいが、普通の人間じゃないのは間違いねぇ」
これも動画で見た通りだ。相手が嫌がることを行い、罵り、相手の怒りを誘う。これでいて探索者としての実力は上位なんだから、業が深い。
おそらく俺が怒った姿を撮って再生数を稼ぐか、俺が逃げてる姿を追って、俺の家を特定するのが目的だろう。
俺は奴に背を向け、できるだけ速足で去ろうとするが。
「おい待て。せっかく会ったんだから話しようぜ。人間じゃないダンジョンクイーンちゃん」
俺をいつまでも追ってくる。
...仕方がない。本当は絶対に使いたくなかったが。
「来ないでください。鳴らしますよ?」
俺は手にあるものを持ち、そのあるものについたトリガーに手をかけ、振り向いた。
「なっ、てめぇそれは」
「わかるか? 確かに俺は普通の人間じゃないかもしない。でも、あんたがやっているそれは、まぎれもない悪事だ。てかよく考えてみろよ。【夕暮れ時に小さな女の子をいつまでも追い回す男】。それだけで大問題だぞ」
俺が手をかけたのは、防犯ブザーだ。これも志度さんから届いた荷物の中に入っていたものだ。
そう、これを鳴らせば奴は終わり。そして相手が持っているのはカメラ。おそらくだが、生配信しているわけではないだろう。おそらく俺が小さな女の子なのを考慮して、あとで犯罪の範囲に入らないよう、動画に編集するつもりだったんじゃないかと思う。普段の動画ように、グイグイと強気で来ないのは、きっとそのせいだ。
もしこのブザーを鳴らせば、人けのないこのあたりでも、誰かがすぐに気づく。こいつが強気に出てたのも人けが無いからだろうから、まず間違いなく、このブザーでこいつの追跡を止めさせることが出来る。
「さぁ鳴らすぞ。そしたらあんたは正真正銘捕まるだろうな。いいのか? ふ・し・ん・しゃ・さん?」
「クソが...」
悪態をついたかと思うと、奴はこの場からそそくさと立ち去って行った。
ふぅ、良かった。俺もできれば鳴らしたくなかった。
そもそも人けが無いところを通っているのも、この姿をできるだけ人に見られたくないからだ。鳴らせば多くの人に気付かれ、俺が目立ってしまう。
「でもこれじゃ、あまり外は出歩けないな...」
と考えていると、ぐぅとおなかが鳴った。そういれば飯がまだだった。
「考えるのは後にしよう。まずは飯だ」
そうして、俺は家路についた。
もう二度と顔を見たくない。そう思っていたが、俺はあいつの顔をすぐに見ることになる。
それも、俺のダンジョン配信中に。
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