第二章(前)
第21話 上級ダンジョン攻略配信
「現在上級ダンジョン127階探索中。あの蛇の姿をした大型モンスターはレビルヘッドってやつだ。弱点であるV型の痣が尻尾の先にあるうえ、そこ以外を破壊してもしばらくすると再生してしまう、厄介な相手だ」
『解説助かる』
『☆7だけど、もはやクイーンちゃんなら安心して見れる』
『いつもかわいくて助かる』
『そんなことよりクイーンちゃんのおぱんつが見たいわ』
『クイーンちゃんが蛇に巻かれて締め付けられる展開もアリだよね』
ダアトのことを思い出してから二週間。俺はいつものようにダンジョン配信を行っていた。
昔は到底進めることができなかった上級ダンジョン。今となっては、余裕で探索することができる。
「バレットマーク。とはいえ体の一部を大きく破壊出来れば、しばらく足止めすることができる。そのうちに尻尾の先にある痣、Vを狙うのがオススメだ」
俺の元へ迫ってくるレビルヘッドの頭にバレットマークを付け、打ち抜く。レビルヘッドの頭が吹っ飛んだ隙に、俺は二丁拳銃をやめ、拳銃を一つだけ持ち、尻尾の先に狙いを定めて打ち抜いた。
大量のクリスタルと、固有ドロップであるレビルヘッドの鱗が地面に転がる。
『下手なダンジョン配信よりもかわいくて強くてすき』
『てかこの強さなら最上級いけるんじゃね』
『愛していますわ。おデートしてほしいですわ』
『またお嬢様沸いてる』
『クイーンちゃんが蛇に巻かれて締め付けられる展開もアリだよね』
「ふぁ...」
若干の眠気に襲われスマホの時計を見れば、もう20時に近くなっている。
この体になってから眠気が早く来るのは、本当に勘弁してほしい。
通常、上級クラスの深度の深いダンジョンを探索する際は、ダンジョン内で1夜を過ごすための道具や食料を持ち込むのが普通だ。
だが今日はそれらの道具や食料を持ってきてはいない。
「すみません、今日はちょっとねむくなってきたので、配信はこのあたりにさせて頂きます。いつも通りコメント返信は後日別枠で。よかったらチャンネル登録、よろしくお願いします」
『おつくいーん』
『おつくいーん! 今度かわいい服着てダンジョン行ってみて【投げ銭:30000円】』
『次の配信告知待ってるよー!』
『【アナウンス:qween_loveさんがメンバーシップに登録しました】』
『おつくいーん。それとクイーンちゃんが蛇に巻かれて締め付けられる展開もアリだよね』
そうして配信を閉じる。ふぅ、やっぱりまだ少し緊張するなぁ。視聴者の皆を楽しませることはできてるだろか。
「にしても、邪魔してくる奴が居ないとほんと楽だ」
先日俺の邪魔をしてきた迷惑系配信者のジョウ。奴は救助隊バッジで転送したあと、幸運にも一命をとりとめたらしいが、傷が深すぎてダンジョン探索への復帰はまず無理とのことだ。
しかも何故か俺を炎上させようとして『ダンジョンクイーンのせいだ』とか都合の良い場面だけを切り取った動画を乗せたが、あの時は俺も配信してたため、誰にも信じてもらえず大炎上。
挙句はその前に俺を付け狙った際の動画をほぼそのままでアップロードし、俺を陥れようとしたが、地上で幼女を付け狙ったことを咎められ、無事逮捕と相成った...と、この前ニュースで見た。
「さて、それはそれとして、今帰っても寝る時間にはちょい早い」
このダンジョンを踏破しないとは言っていない。上級であれば、大体最下層は150階程度。あと20階層前後下に行けば、踏破となるだろう。
「よし、やるか」
大きく息を吸う。自身の胸元、魂があるという場所に意識を集中し、体全体に力を入れる。
体が熱くなる。両手両足の肌が変化し、びっしりと白い鱗、そして鋭い爪へと変化する。
身に着けていた服を破り、背中にはドラゴンの羽が現れる。
頭に熱さを感じ、二本の角が現れる。
「...よし。あ、またやっちまった。せっかくの服を破いてしまった...」
一度この姿になってから三週間が経ち、俺はこの姿に自由に変身できるようになった。
「つっても、時間は長くて10分くらいだけれども」
一度変身したあとは、ある事をしないと再変身できないのも判明した。
そして変身すると両手がドラゴン化するから、銃が持てなくなる。でも、それを以上の利点があった。
「お、またレビルヘッド。それも4体か」
現れたレビルヘッドに対してとびかかる。この状態なら、リリほどじゃないが速い。それに短時間ではあるが、空を飛べる。
素直にレビルヘッドの弱点を狙うのではなく、爪でレビルヘッドの体を切り裂き、その隙に尻尾の弱点を狙う。
この体なら、たとえ4体でも余裕だった。時間にしておそらく10秒で、4体のレビルヘッドを倒せた。
「よし。いてて」
ただ、ちょっとした弱点として、変身すると全身が割と痛い。特に変身を解いたあとは、10秒ほど動けなくなるほどに全身に痛みが走る。
だがそんなデメリット以上の強さが、この姿にはある。
「よし、慣らし運転だ。サクサクと攻略してしまおう」
変身の時間切れが来るよりも早く、俺はどんどん下の階層を目指した。
1階につき20秒。元々狭いタイプのシンプルなダンジョンだし、リリの持つ1階層9秒には劣るが、それでも速すぎるほどに速い。
あっという間に最下層へ。そして最下層のボスが。
「お、一応お仲間さんかな」
そこに居たのは赤い鱗を持ったドラゴンだ。ドラゴンは明らかに俺に敵意を向けている。ハーフドラゴンとは言っても、やっぱこういうダンジョンのモンスターとは違うようだ。
体長10メートル以上はある赤いドラゴンが俺に吠える。腹部には、Vの痣が見える。
「バレットマーク付与。よし、これで決めさせてもらおう」
銃こそ使えないが、遠距離攻撃が無いわけじゃない。
大きく息を吸って肺に息をためる。俺の肺に繋がった【別の器官】がその息に混ざる。
その息を吐きだす。俺の口の前で、吐いた息が魔力によって球体のように集まる。その息は、まるで黄金色の炎だ。
そう、これはドラゴンのブレス。ダアトが使っていたものよりも、かなり火力は高い。ただブレスとして吐くのもいいが、こうして球体にして...
「吹っ飛べ!」
球体にしたブレスをドラゴンのVの痣へと飛ばした。当たると同時、周囲を崩壊させるほどの爆発が起こる。
「おああ! ちょっと火力上げすぎたか」
球体にするのは初めて試したが、これはちょっと威力が高すぎるな。使いどころを考えないと。とはいえ。
「上級ダンジョン踏破。全く問題なかったな」
ダンジョン最奥にはたまに宝箱があるが...今回は無しか。
ドラゴンの落としたクリスタルや固有ドロップを異次元バッグに詰め込んで...
よし、あとは帰るだけだ。そう考え出口に向かおうと考えたが。
「あー、見られたか」
出口には、こちらを見つめる一人の女性の姿があった。
ゴシックロリータ...いわゆるゴスロリ風の衣服に身を包んだ、170センチ以上はあるだろう、栗色のボブの女性。その顔を、俺は見たことがあった。
「初配信の時に助けた女性か」
なんの偶然か、着ている服こそ違うが、初配信時に助けた女性、その人だった。
ハーフドラゴンの姿を見られた。さてどうしよう。そう考えていると、その女性は俺のもとへと駆け寄ってきて、俺の両手を手に取った。
「あの、ファンです! ダンジョンクイーンとして配信する前から、貴方のチャンネルのファンです! サインください!」
俺は驚いた。所謂古参のファンだった、ということ以上に驚いたのは...
その声が非常に低い、明らかに男性の声だったからだ。
そして。
「それと、ダンジョンクイーンさんに着てほしい服が沢山あるのですが...着て頂けないでしょうか」
「へ?」
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