第22話 お着替えのお時間(強制)

 翌日、俺は街にあるとある店に訪れていた。

 街のメイン通りにかまえた小さな店。もう見るからに、俺に縁が無さそうな衣服屋で、それもロリータ衣装やら、漫画に出てくるコスプレ風の服やら、とにかく可愛いに特化した服が並んでいる。

 小さいとはいえメイン通りに店を構えてるなんてすごいな、と思っていたら。

 

「あ、こちらです!」


 昨日であった俺の古参ファンの...えっと、彼女? に店の中から呼ばれた。

 言われるがまま、店の中に入ると...外から予想した通り、とにかくかわいいでいっぱいな空間だった。

 可愛らしい衣服だけじゃない。ぬいぐるみとか、アクセサリーとか、とにかく可愛いものが揃っている。

 にしても、なんかコスプレ風の衣装もあったと思えば、正統派に可愛い衣装もあるし、いったい何の店なんだろう。

 

「あの、えーっと、あなた名前なんでしたっけ」

「はい、相澤翔斗(あいざわ しょうと)です。翔斗と呼んでください、ダンジョンクイーンさん」

「翔斗さんか。あと俺のことは、動画でも公開してるがアキでいいよ」

「アキさん! わぁ、本当に嬉しいなぁ、あのチャンネルの人とこんなに話せるなんて...前は救助して頂いてありがとうございます。あの時は偶然ダンジョンに入っていくのを見かけて、本当にあのチャンネルの人なのか確かめたくて追っかけたら...救助を要請することになってしまいました」

「気にしないでくれ。あの時は本当に無事で良かったよ」


 にしても、翔斗さんが古参ファンなのは本当だろうか。


「そうだ、僕こんな名前でいつもコメントしてます! お嬢様言葉でコメントしてるのですが、ご存じでしょうか」


 そういって見せられた、動画サイトのマイページ。そこに書かれたアカウント名は、よく出没するお嬢様コメントの人の名前だった。

 

「あ、あの人か!」

「覚えててくださったんですね! 嬉しい! えっと、配信見てるとかわいさあまって変態的なコメントしちゃってごめんなさい。デートしたいとか」

「大丈夫大丈夫。まだマシなコメントだし」


 覚えるも何も、特徴的過ぎて忘れられないというか。


「あ、それと! 半分ドラゴンに変身できることは秘密にしますね! さすが志度イケヤさんの人工生命体です!」

「あー、いや別に秘密じゃなくていいけど」

「いえ、ああいうのはあなたが配信でお披露目した方が盛り上がりますし! いつかお披露目配信、待ってます!」


 別に秘密にするつもりはなく、もしばれたら適当なタイミングで公開しようと思っていた。

 幸い俺は志度さんが作ったホムンクルス的なものという扱いなので、公開しても、おそらく目の前にいる翔斗さんのように、納得してしまう人が多いだろう。


「さて、それで本題だけれど、俺に着せたい服ってのは」

「え、本当に着てくれるんですか!?」


 実は、彼女の提案は俺にとっても都合が良いものだった。

 視聴者から可愛い服を着てほしいと前々から要望はあり、リリに何度か良い服を見繕ってもらったりした。

 今でも正直恥ずかしいが、新しい服を着ると反応は上々だ。

 リリの服選びのセンスは良いが、あくまで普通の服の範疇。視聴者からも、なんかコスプレ的なものや、ロリータ系の服も着てしてほしい、と沢山投げ銭されてしまったし、恥ずかしいけど応えなければ、と思っていたが、それらしい良い服の探し方がわからなかった。リリもそのあたり詳しくないらしい。

 

「まかせてください! 服はダンジョン用で良いでしょうか」

「え、ダンジョン用の服もあるのか?」

「そもそも僕のお店は、ダンジョン用に魔法を組み込んだ服を売っているんです。では、アキさんのために作った服、お持ちしますね!」


 そう言って店の奥へと行ってしまった翔斗さん。

 一応お昼前の時間帯だが、店の中には他の客は居ない。メイン通りに店を構えているとはいえ、平日だからかだろうか。

 ふらりと店の中を歩いてみる。確かに様々な衣装が並んでいる。

 

「おお、この服かっこいいな」


 俺の目線の先には、軍服風のかっこいい衣装があった。しかし、明らかに大人用、俺にはサイズが全く合わないだろう。

 

「さすがに俺には着れないか」

「そうだねー、キミには着れないかも」


 そう、リリの言う通り俺には...って。

 

「リリ!?」

「やっほ、キミがお店に入っていくのが見えたから来ちゃった。だめだよ? キミはもう有名人なんだから、もっと変装しないと」


 なんとそこにはリリが居た。そしてリリだけじゃなく。


「す、すばらしいですわー! この肌触り、細かい箇所までこだわったディティール、こ、これは職人の御業ですわ!」


 店に響き渡る大音量。エカまで居た。


「なんでエカまで」

「あはは。なんかエカがダンジョン配信の休憩の日に、視聴者から勧められたゲームのクリア耐久配信してたんだけどね。エカってばクリアできず2徹して配信止めたっていうから、気分転換に外に連れ出したんだ」

「うわぁ、それはお疲れさまだ。ちなみにやってたゲームってのは」

「えっとね、アタシもよくわからないんだけど、なんか赤いシャツを着た黄色いクマが、ハチミツをキメて、森の仲間達からホームランを沢山打つゲーム、ってエカが言ってたよ。7面までクリアして、あとは8面の隠しボス倒すだけだって。『7面のボスを倒したわたくしなら8面なんて余裕ですわ』って言ってたよ」


 なんか聞く限りじゃ、ファンシーで簡単なゲームに思えるけど。


「それよりアキト。なんでこのお店に?」


 俺はリリにここに来た経緯を話した。するとリリは。


「いいねいいね! ドラゴンの姿ばれちゃったのは仕方ないけど、ここなら確かに、キミに似合う服がありそう!」

「ああ。それにここ売っているの、ダンジョン用らしい」

「うんうん、お店の外にも書いてあったしね。魔力を組み込んだり流しやすくして、普通の服に見えてもダンジョン内なら攻撃されたときに鉄のように固くなってくれる。普通は質素なものが多いけど、ここは丁寧に可愛く作ってるみたいだね」

「ってあら? アキトさんじゃありませんか。奇遇ですわ!」


 いや気づいてなかったのかよ。てかリリは俺を見かけてこの店入ったのに、なんでエカが把握してないんだよ。


「大変お待たせしましたー! え、わああああ! リリチャンネルのリリさん! おほり系配信者のエカさんじゃないですか! すごい! 有名な配信者がお二人も!」

「えへへー、よろしく!」

「おーっほっほっほ! わたくしがエカですわ! でもおほりというのはどういうことですの!? わたくしは一度もおほったことはありませんわ!? それにしてもその声、男性ですの?」

「そうですよ」

「アタシ見ただけじゃ気づかなかった! お綺麗ですね!」


 いや平然と聞くなエカ。

 そして現れた翔斗さんの手には、大量の服が。

 

「アキさん、では早速お着替えを!」

「あ、てもやっぱり今日は」


 そう、そもそも着ると言ったのは、近くに知り合いが居ない前提だ。

 この場にはリリとエカが居る。この二人の前で着替えるのは、さすがに恥ずかし...

 

「え、なんだ、どうして二人して俺の体をつかむんだ」


 なぜかリリとエカが俺の体をつかんでくる。まるで俺をこの場から逃がさないようにするように。


「なんか知りませんが、逃がさない方が良い気がしましたわ」

「えへへー、たくさんかわいい服てアタシに見せて? アキちゃん」

「や、やめろー、やめろー」


 全力で暴れるが、今のこの体じゃ二人の力さえ振りほどけない。眼前には、満面の笑みを浮かべる、翔斗さんが迫っていた。

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