第23話 衣装おひろめ配信

 まず着せられたのがメイド服。三人の批評はというと。

 

「ケ・ボニート(すごくかわいい)! さっすが似合ってる!」

「わぁ、やっぱり白銀色の髪と白黒の衣装は、深紅色の瞳がより強調されて、とても素敵ですね」

「わたくしのお屋敷のメイドとして働くのはいかがかしら」


 次に着せられたのは赤と白がメインの巫女服。なぜか飾りの弓までも持たされた。


「うーん、色がベストマッチ! シンプルに赤と白が映えてよきよきってやつ!」

「髪色と瞳の色とマッチしていますから、先ほどのメイド服よりもシンプルですね。特徴的な深紅色の瞳の強さが和らいで、全体的に可愛いという印象です」

「わ、脇を出すタイプですわ! えっちですわ!」


 次に着せられたのは、セーラー服。学校の制服というよりかは、船乗りが着ているようなタイプの服だ。丸い帽子もついている。

 

「おー。いいね! 胸元で揺れるネクタイがキュート! ふわふわ揺れる銀色の髪とあってるよ!」

「小さくぷにっとした体躯に、セーラー服の全体的な丸っこいフォルムがとても似合っています」

「機関銃が似合いそうですわ」


 その次は着物。袖の部分が大きく、おそらく梅か桜の模様で彩られている。そして下は...短いスカートのようになっている。なぜか頭には、狐のお面。なぜか腰には刀を帯刀している。


「わぁぁ...なんだか忍者みたい! かっこいい! 速そう!」

「白銀髪というのは、現在の髪色が多様な世の中でも、不思議な雰囲気があります。そのうえでこの衣装はさらにミステリアス感を出すのに有効ですね」

「忍者なら知ってますわ! ハイクを詠むやつですわ!」


 次はええと...上がピンクで下が黒の、なんというか、地雷系っていうやつらしいが...

 

「かわいい! 愛でたい!」

「個人的には相性はそこそこ、といったところですね。ピンクとの相性は考えものですね」

「地雷系ってなんですの!? 爆発しますの!?」


 

 その後も様々な服を着せられ続けた...驚きなのが、全て俺のサイズに合っていたことだ。

 そうして、おそらくは20着は着せられた後だろうか。ようやく打ち止めとなったらしく、翔斗さんが「これでおしまいです」と言った。

 

「アタシは大満足! 眼福ってやつだね」

「ふぅ、よ、ようやく終わったか」


 俺が安堵したその時。

 

「ところで、下着はありませんの?」


 エカが言い放った。それに対して翔斗さんの返答が。


「ありますよ? ダンジョンに入る際は、衣服一つ一つがダンジョン用であれば、それだけ生存確率が上がります。ダンジョン用の衣服に関しては、ようやく最近広まってきたのであまり知られてませんが、ダンジョン用の下着もありますよ」

「なるほど、俺はわかった。よし、この話は終わり。やめだやめ」

「僕気になってたのですが、なぜアキさんは男性の下着を着けているのですか? 大人用のトランクスを、バンドで無理やり履いていましたが」


 うっ、そこはに関しては突っ込まないでほしかった。

 そう、下着だけはずっと男自体のままだ。これまで自分の体形にあった衣服を渋々買っていたが、ここだけは譲れない、男の矜持ってやつだ。

 

「下着については、そうだな。また今度にしよう。うん。今度今度」

「なぜ今度にしますの?」


 いやなんでこういう時に限ってエカはそう言うんだ。


「アタシとしても、ちゃんとしたのを身に着けるのをお勧めするかな。だって無理して男の人の下着着てるから、配信中もずりおちそうですごく心配だもん」


 いやでも、だって。


「では連行ですわー!」


 エカに担ぎ上げられ、そのまま試着室へと。なんかこの流れ本日二回目じゃないか!?


「観念ですわー!」

「やめろー! 着たくない! 着たくなーい!!」


〇〇〇


 翌日。リリのアドバイスもあり、俺はコメント返し兼雑談配信を行うことにした。

 

「えっと、こんくいーん。それでは雑談配信を始めます...」


 自分でもわかる。頭が熱い。これは風邪とかじゃなく、いわゆる恥ずかしさによるもの。


『こんくいーん! えっ』

『こんく...ふぁっ!?』

『そ、そのお洋服は、可愛らしいお洋服は...』

『真っ赤なそれは、チャイナ服では!?』

『は???? 銀髪赤目チャイナ服ロリとか犯罪では?』

『俺たちのハートが持たないという意味では犯罪』


 そう、俺が着ているのはチャイナ服。赤基調のチャイナ服で、スリットが入っているタイプのやつだ。


「えっと、その、ずっとこういう服着てほしいというお話を頂いていたので、着てみました」


 実際、今はもう恥ずかしくて恥ずかしくて仕方がない。けれど、視聴者の反応は。


『ありがとう...それしか言う言葉が見つからない【投げ銭:44000円】』

『あなたを可愛い罪と可愛すぎる罪で訴えます。敗訴しました。これは慰謝料です【投げ銭:30000円】』

『ヘブンはここにあった。【投げ銭:5000円】』

『あー、だめだめ。これはえっちすぎます。幼女が着てはいけません【投げ銭:50000円】』

『美しいですわ。愛してますわ【投げ銭:5000円】』

『アカウント名/エカ:キー! なんですの! 配信を見に来たらわたくしとキャラ被りコメントがいますわ!』

『うわ、おほり配信者のエカさんじゃん』

『マ!? 本物!?』

『ゲーム配信で8面ボスに勝てずにオホってた人じゃん』

『ダンジョンクイーンちゃんの可愛さに惹かれて来たか...罪作りな幼女だぜ【投げ銭:45000円】』


 めっちゃ褒めてくれてる...それとなんでエカが来てるんだよ。

 にしても、これだけ褒められると、もっと見せた方が良い気がしてるくな。

 

「これ、すごいんですよ。細部までこだわって作ってあって。あ、今から回りますね」


 俺は立ち上がり、くるりと一回転。

 このチャイナ服、背中に羽が生えたときのために、背中が開いているのが特徴だ。俺がハーフドラゴンに変身するのを見てから、即日で作り上げたらしい。

よし、こうすれば視聴者の皆にも正面以外も良く見えて...


『見え』

『見え』

『見え』

『スリットからちら見程度だけど見えた』

『【速報】ダンジョンクイーン、ついにちゃんとした下着を履く』

『これはアーカイブ非公開不可避』


 え、見えって、つまりそういう。


「あ、ふぁああ!」


 俺は思わずチャイナ服の下部分、下着を身に着けている部分を押さえてしまった。

 そう、何を隠そう、俺は今、ちゃんとした、女の子の下着を、はいている...シンプルな真っ白いのを...

 俺があまりに恥ずかしいものだから、リリの提案で翔斗さんにスパッツ的なものを今度作ってもらえることになった。

 履いてみてわかったが、今の体にフィットするような履き心地で、トランクスに変えるのをすっかり忘れていた。


『かわいい』

『かわいい』

『かわいい』


 コメントにあふれるかわいいの文字。

 だめだ。このままだと恥ずかしくて動けなくなる。なんとか話を変えて...そうだ。


「えっと、動画のタグにも付けましたが、プロモーションです! 俺のこの服とかは、ダンジョン用衣服店の『ショーライト』というお店から頂きました。ありがとうございます」


 ショーライトというのは、翔斗さんのお店の名前だ。

 

『お、聞いたことがある。最近話題の店じゃん。めっちゃ綺麗な店長さんが居るっていう』

『初耳』

『でもこのクオリティ...そして服に癖が詰まっている。信頼できる店だな』


 約束していた一仕事を終えて、俺は一息つくことができた。

 そんな最中、とあるコメントが目に留まった。


『こういう案件系の管理とか個人配信者は大変そう。クイーンちゃんは事務所に入らないのかな』

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