第24話 黒髪緑眼美幼女、サウナに現る

 事務所。以前より動画配信者事務所というものは数多く存在していた。

 しかしダンジョン配信が台頭するにつれて、ダンジョン配信者に特化した事務所が現れた。

 

 稼いだお金の何割かは持ってかれるらしいが、事務所に入ることでの利点は多数あると聞く。

 金銭的な管理というものが楽になるとか、届く案件や情報を精査してくれるといったものはもちろん、ダンジョン配信者であれば、ダンジョンを踏破するのに必要な身の回りのこともやってくれるらしい。

 リリなんかは、苦手なモンスター対策の道具の調達は、事務所に一任しているとか。

 

 そして俺にとって一番大きいのが、事務所にしか来ない情報などがあり、事務所に所属することでその情報を得られる可能性があるということだ。

 ダンジョンでの所謂取れ高のために、事務所は各所から情報を収集する。そういう情報網があるという話も聞く。

 それにより、所属するダンジョン配信者が面白いダンジョンへ足を踏み入れる、という展開もあるらしい。以前、NPCの情報を事務所が掴み、実際にNPCに出会ったという話もある。

 あとは俺に届く情報を精査してくれるという利点だ。SNSを通して俺に届く情報のうち、俺は興味ないが面白い情報は他の配信者の人に回してもらい、代わりに俺は必要な情報を回してもらう、という手がある。

 

 NPCについては、今でも情報が欲しい。戦うのは危険かもしれないが、そもそもNPC...アドミンってやつらの目的が何者なのか、ダアトの復活を待たずとも情報を得たいのも事実。


「そこで志度さんに相談したかったのが、どこかの事務所に所属して良いかです」

「ほう、面白い」


 俺は今、志度さんの洋館に来ていた。そしてタオルに身を包み、洋館に作られたサウナルームで体を温めている。志度さんと一緒に。


「にしてもこの短期間でサウナはおろか、水風呂やら外で涼める場所まで作ってしまうなんて、さすがは志度さんですね」

「ふふ、良いと思ったものは側に置きたいのだよ。サウナ、これは良いものだ」

「ととのうのは最高ですが、頻度が多いと体に負担がかかるから、ほどほどにしてくださいね」


 隣には豊満なボディを持つ志度さんが居る。タオル一枚で。

 どうしても、俺の中の男が反応してしまう。


「でもまぁ、たつものも無いんだけど」

「なんの話だ?」

「ただの独り言です」


 十分に体が温まったから、志度さんとサウナから出る。

 すぐそばに作られた水風呂に体を入れた。


「冷たいけど最高だ。改めて志度さん、事務所に所属して良いでしょうか。一応、志度さんは俺の保護者という扱いなので、事務所に所属する際の書類に協力して頂く必要があると思って」

「ふむ」


 実は配信で事務所のコメントを見た後、「事務所、ちょっと考えてます」と配信中に発言してしまった。

 元々DMなどで【私たちの事務所へ入らないか】的なお誘いというか、スカウトのようなものは度々届いていた。

 しかし配信での発言の後、様々な事務所から大量のメールが届くようになり、困惑していた。


「当然といえば当然なんですけどね」


 俺と志度さんは水風呂から上がり、外の涼みスペースへと移動した。

 木製の台の上で寝ころべる、最高のロケーションだ。そこに志度さんと2人で寝ころぶ。


「幼女ちゃんは確か、チャンネルの登録者数が三百万を超えたと言っていたな」

「あはは、おかげさまで。あのゲブラーを倒した一件から、リリとほぼ同列に登録者数が推移してます」


 三百万というのは、少なくともこの日本という国では、かなり有名な配信者に属する登録者数だ。

 そんなダンジョン配信者がフリーで、しかも事務所に入りたがっているのであれば、引手数多というのも当然で。

 

「どの事務所に入るかは決めたのかい?」

「いえ、まだ何も。いくつか事務所で話を聞かせてくれるってところもあるので、まずは話を聞いてみようかと思って」

「なるほど。ならば、私から提案しよう」


 志度さんが指を鳴らす。どこからともなくリズィさんが現れる。手に持ったトレーの上には、何やらスプレーと、小さな薬のビンのようなものが。


「幼女ちゃん、身分を隠して事務所のオーディションに応募するんだ」

「へ?」


 身分を隠して!? それはどういう。


「確かに今の幼女ちゃんなら引く手数多だろう。だがそれでは幼女ちゃんの本当の姿ではなく、数字ばかり見ているのは間違いない。そしてなにより私がつまらない」

「最後の一言が本心では。身分を隠すにしたって、こんな特徴的な見た目じゃどうしようも」


 すると、志度さんはリズィさんの持ったトレーの上にあるスプレーを手に取り、それを俺にふりかけてきた。

 

「わっ!? な、なにするんですか」

「幼女ちゃん、目を開け」

「え、わわ」


 目を開いた瞬間、おそらく小瓶の中の液体を、志度さんは俺の両目に入れてきた。


「志度さん、いったい何を...」

「リズィ、鏡を」


 リズィさんがどこからか取り出してきた鏡を見る。するとそこには。

 

「昨今の頭髪や瞳の色の変色は、魔力による作用の影響だ。それを利用すれば、一時的にだが色を変えることも可能だ」


 鏡に映る姿。そこにはバスタオルに身を包んだ、淡い黒髪と緑色の瞳を持った幼女がへたりこんでいた。

 

「これは...」

「その姿で事務所に応募すれば良い。ところでそろそろサウナへ戻らないか?」

「...そ、そうですね」


 とりあえずサウナですっきりしてから考えることにした。

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