第20話 TS幼女、有名配信者を目指します
「ということがあったんだ」
サウナから出て、俺たちは一目散に志度さんのお屋敷へと向かった。
移動している間に、頭に生えた角やドラゴンのようになった手足は戻り、今は完全にいつもの幼女の姿に戻っている。
そうして前に案内された応接室へと移動し、俺は思い出したことを一通り語った。
リリ、志度さんはこちらを目を丸くして見ている。
「俺はダアトを救えなかった。情けない男だよ...いや、もう男じゃないか」
すると、志度さんが息を荒げながら、俺の肩をつかんできた。
「幼女ちゃん! それは大発見だ! これまでなぜダンジョンが世界に現れたかを知るものは居なかった。だが、幼女ちゃんの話が真実であれば、アドミンというダンジョンの作成者が居て、しかも彼らはおそらくNPCと同一である可能性が高い!」
「でも、信じてもらえるのか? なんの証拠も無いが」
「いや、証拠なら私の目の前にある」
そうして、志度さんは俺を指さした。
俺は一瞬何か理解できなかったが、側に居たリリはすぐに理解したようだった。
「アタシわかりました! アキトの体はアドミンのダアトちゃんの譲渡の力で譲り受けたものだから...あれ? でも前に普通の6~8歳くらいの女の子の体だって言ってませんでした?」
「それはあくまで人間の医学的な側面からだ。だが、これを見てほしい。リズィ、例のものを」
そう志度さんが言うと、部屋にリズィさんが入ってくる。その手には、何か大きな封筒のようなものが。
それを受け取った志度さんが封筒を開くと、中からは、何かレントゲン写真のようなものが出てきた。しかし、映っているのは骨ではなく、何か青や赤で彩られた線だ。
「なんですかこれ」
「これは幼女ちゃんの魔力経路写真だ。ダンジョンに足を踏み入れ魔力を得た人間の体には、血液と同じように魔力が流れる。その魔力の流れる経路や、魔力の質を可視化する、最近実用化された、技術だ」
「アキトの魔力経路かー。でもあれ? この青の線と赤の線の違いはなんですか? 動脈静脈とは違うような」
「そう、本来は色は付けない。そして本来、体内を流れる魔力は1種類だけ。その人間が持つ独自の波長、人間の指紋のように二つとない波長を持つ、だが幼女ちゃんは違った。幼女ちゃんには、二種類の魔力が流れている。わかりやすく色を付けているが、おそらく青が幼女ちゃん本来の、そしてこの赤の方が」
そうか、この赤の魔力の経路が。
「ダアトの...!」
「その通りだ。そして私の直感が正しければ...幼女ちゃん、この装置を胸元に着けてほしい」
平たい遠景のパッドのようなものを、胸元に着けられる。そしてなぜかリズィさんが持っていたディスプレイに、何かが表示された。
「これは、俺の魔力経路?」
「その通りだ。あまりに幼女ちゃんの魔力経路が気になったものだから、小型化した。もし異なる魔力を検知したら、青と赤で表示されるようにしている。そして、ここを見てほしい」
それは俺の胸元の部分。そこには、青が9割、赤が1割の円が表示されていた。
「さて私からリリへ質問だ。これは何だと思う?」
「えっと、位置から見ると、魔力の心臓のようなものですか?」
「近いね。実は私も、数多の研究結果から予想はしていたが、この心臓の場所に位置する魔力の塊が何かは断定できなかった。しかし、幼女ちゃんの話を聞いて、半ば確信に変わった」
俺の胸元に集まっているこの円。それは。
「これは魂だ」
「魂!?」
リリが驚く。俺も、正直驚いた。
「ああ、魂だ。そして面白いことに、幼女ちゃんの魂の総容量が、先日検査した結果から常人の二倍あることが、最近わかった。そして、全体の5%ほどしかなかった赤の魔力の部分が、今1割まで増えている。そしてこれが過去を思い出したことに繋がっている」
あれちょっと待って、俺の魂に赤色の魔力が残っている。それはつまり。
「ダアトが俺の魂の中で生きている...?」
「ああ、間違いなく。そしてその魂の割合は大きくなっている。幼女ちゃんの元々の魂を邪魔することなく。そして幼女ちゃんが過去を思い出した理由。それは『ダアトによる魂の補完が必要なくなったから』だと考えられる」
「魂の補完が必要なくなる?」
「そう、この魂の部分、既に研究はある程度進んでいてね。死に瀕する、強い精神負荷を追うなどで、壊れてしまうことが分かっている。私が、これを魂ではないかを考えた理由だ。だが、同時にカウンセリングや時間の経過などで、壊れた部分が治る場合があることも確認している」
つまり志度さんはこう言いたいんだろう。
「時間を経って俺の魂が治ったから、ダアトが俺の魂を補完する必要がなくなった...?」
「その通り。だがダアトの魂は幼女ちゃん色に染められたままだ。しかし、それがあるきっかけで活性化し、ダアトの魔力の色を取り戻した。それにより幼女ちゃんの魂の補完も外れ、記憶を取り戻し、ハーフドラゴンの力の一部が顕現したのだろう。もしもっとダアトの魂の活性を促せば、いずれ幼女ちゃんの中には、幼女ちゃんの魂と1対1の割合で、ダアトの魂が完全に復活する可能性が高い」
そうか、俺の中にダアトの魂が...
「だが赤色の魔力の流れを見るに、魂は眠っている状態。幼女ちゃんの体を乗っ取る、なんてことはあり得ないだろう。そして1対1まで回復すれば...」
「回復すれば?」
「なに、ここからは私の腕の見せ所だ。以前研究していた『精神を別の肉体に移す魔力研究』と『魔力を用いた完全なクローン体作成の研究』を再始動させる時が来たようだ。もちろん、ダアトの魂の入れ物は、幼女ちゃんのクローンさ。何、二年以内には完成させるさ」
リリと目を合わせて、苦笑いした。マッドサイエンティストじゃないかと。
でも、その研究が完成して、そして俺の中のダアトの魂が完全に活性化すれば。
「ダアトが復活する...!」
そして俺のクローン体であれば、外にだって連れていける。ダアトの夢をかなえることができる。サウナにだって行ける。
「アキト! アタシも手伝うからね。ダアトちゃんの話を聞いて、すごく仲良くなれそうだったし! それに、その子の足もすっごく見てみたい!」
「私も全力を出そう。何より、ダアトにもっと詳しい話を聞きたい。彼女が語ろうとした、アドミンの本当の目的というものも知りたいしね」
「...ありがとう!」
男に戻る、というのはついでだ。まずは何より、ダアトを復活させる。それが目標だ。
それなら、俺もダアトの魂を活性化させるために頑張らないと...
「でも、ダアトの魂を活性化させるって、どうするんだ?」
「それについては、私にも目星はついている。おそらくきっかけはゲブラーに出会ったことだとは思うが、さらに活性化させるには」
志度さんに手を引かれ、外へと連れ出される。
「さぁ、見上げて」
そう言われて、俺は空を見上げた。
なんだろう、ただ広い空を見上げてるだけなのに、胸が高鳴る。
「リズィよ」
「はい。赤色の魔力に反応がありました」
「よし、では次だ。リリ、私が話すことをやってほしい」
リリが志度さんに耳打ちされる。するとリリは俺の元へ来たかと思うと、俺の顔を見ながら。
「かわいい!」
「ふぇ」
思わず変な声を出してしまった。
「ふむ、やはり反応があるな。まず間違いないだろう」
改めて俺に向き直った志度さん。その志度さんが言ったのが。
「幼女ちゃん。ダアトの夢をかなえてやれ」
「ダアトの夢?」
「そうだ。ダアトの魂は、ダアトが幼女ちゃんに語った、ダアトの夢に紐づく行動で、活性化する」
「わかった、ダアトの夢だな!」
ええっと、ダアトの夢はどんなものがあったか...と考えているとリリが。
「まず、青い空、広がる海を見る!」
「それはすぐにかなえられそうだ!」
「海外ってところを飛び回る!」
「すぐには難しいが、可能なはずだ」
「遊園地とかゲームセンター、いろんな所で遊ぶ!」
「それもすぐにできそうだ!」
「サウナへ行く!」
「すぐにできる! むしろ俺が行きたい!」
「ダンジョン配信者として活躍して」
「うんうん」
「100万人、一千万人、一億人、たくさんの人間に見てもらって」
「うん、うん?」
「いっぱいお金稼いで」
「う、うん」
「皆にかわいいって褒められる!」
「う、ん...?」
い、いや配信者周りは中々難しいというか、というか、可愛いって褒められるのは。
「リズィ、反応は」
「はい、最後のダンジョン配信者以降の下りで、最も強い反応を示しました。なぜか青の魔力も少し反応してましたが」
するとリリが楽しそうに俺の肩をたたいて言った。
「決まりだね! ダアトちゃんのために、すっごく有名な配信者めざそ! そして、いっぱいいっぱいかわいいってほめてもらおう!」
「え、あの、その」
「有名配信者の一人だけど、ここからさらに上に! 大丈夫! 可愛くて強くて半分ドラゴンでロリ、これすなわち最強! アタシも負けないから、一緒にすっごい配信者目指そう! で、いっぱい可愛いって言われよう!」
思えばNPCと思われて、いつの間にかダンジョンクイーンなんて呼ばれてたと思ったら、なんか顔出し配信することになって。
今までは、自分の生活のためにやってきた。だけれど、これからは。
「よし、俺を救ってくれたダアトのためだ。もっと頑張るぞ。リリ、志度さん。俺、有名配信者を目指します」
今よりももっと。それこそ俺の中のダアトが目覚めるくらいに。
―――――――
<あとがき>
お読みいただきありがとうございます!
こちらで1章的なものがひと段落となります...!
ここから先は、今までより可愛がりやTS、フェチ要素マシマシで行かせて頂く予定ですので、よろしくお願いいたします!
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