第27話 大声量シスター服少女

 ダンジョン内、皆必死も必死だった!


「うおおおおそのモンスターよこせ!」

「このトラップわざと発動させたらウケないかな?」

「敵が弱すぎて面白い画が撮れない!」


 パーティを組んでも良いとは言っていたが、ほぼ皆ソロ活動だ。そして30人近く、中級上級なら、タイミング次第でそのくらいの人数がダンジョンに居ることも少なくないが、初級のダンジョンだから階層も少ない。この感じだとあって30階層だろう。

 つまりは動画映えするモンスターやトラップの数も限られ、人数もあって取り合いになっている。

 例の同伴の配信者たちは、一応子供たちを守る名目ではあるのだが、ほぼ放任状態だ。

 ちなみにエカはトラップを踏んで下層まで落ちていった。落とし穴系は初級ダンジョンには極めて稀にしかないタイプなのに、運がいいんだか悪いんだか。たぶんエカがオーディション受けてたら一発合格だっただろう。

 

「今回はフロートブーツも置いてきたしな。俺の素は足遅いし、どうすっかなぁ」


 なんて考えながら一人ダンジョンの中を歩いていると。


「誰かー! 助けてっすー!」


 曲がり角の向こうで、聞いたことのある声が聞こえた。見てみればそこには。

 

「ああ! 助けが来たっす! 助けてほしいっすー!」


 相変わらずの声量。先ほど配信者たちの解説を突然始めた女の子だった。

 ちなみに彼女が助けを求めているのは、今まさにミミズ型のモンスターに足から呑まれていっているからだ。

 

「このままじゃ自分、食べられちゃうっす! 助けてー! 助けてほしいっす!」

「...」


 スマホを手に取る。動画の録画を開始する。


「えー、今俺の背後ではシスター服を着た女の子が、丸のみされようとしています」

「なんで動画撮り始めるっすか! 自分動画のネタにされてるっすか!? はっ! これは取れ高ってやつっす! うち取れ高にされてるっすー! ひどいっすー! このままじゃ死んじゃうっすー!」


 声量がすごい。素直に耳が痛い。

 

「あー、悲壮感漂わせてるところ悪いけど、そのミミズモンスターに食べられても死なないぞ」

「ま、まじでっすか!?」

「モムワーム。主に人間など動物の汗や涙などを好む。肉は消化できない。ひとしきり君から汗やら何やら搾り取ったら、解放されるぞ。しかも体内の粘液には美肌効果付き」

「おお! そうでありますか!」


 話している間に、その子の体の三分の二はモムワームの体内へと。


「なお、粘液はめっちゃ臭い」

「その情報が速くほしかったすー! やっぱり助けてほしいっすー! 助けてー! 助けてー!」


 そうしてるうちに、女の子の体がモムワームの体内へと消えた。モムワームはおなかをぽっこりと膨らませてご機嫌だ。

 

「仕方ないな。モムワームは口の上部にある感知器官を軽くたたくと、嫌がって食べられた人間を吐き出す。なんか叩くもの無いかな。お、これでいっか」


 足元には、おそらく女の子が落としたであろう、先に宝石のついた杖が。その杖を持ち、背伸びをしてモムワームの感知器官を叩く。

 

「えいっ」

「ぎょわああああ! 臭いっすー!!」

「心配するな。臭いも粘液も5分で取れる」


 モムワームが女の子を吐き出す。そこには、粘液まみれになったシスター服の女の子の姿が。


「うう、取れ高にするなんてひどいっすー! でも助かったっす! 感謝っす!」

「いい画を撮らせてもらったよ。ほら、君の杖だろ?」

「おお! そうであります!」


 俺が杖を女の子に渡そうとしたところ、側でうねうねしていたモムワームが、突然真っ二つに叩ききられた。

 そこには、おそらくは高校生ほどの男子の姿。手には小さな斧を持っている。


「わりぃわりぃ。お前らの取れ高になるはずのモンスターを頂いちまった」


 完全に調子に乗っている、いわゆるイキっている男子は、そのまま俺たちに聞いてきた。

 

「君達、チャンネル登録者数は?」


 初対面でいきなりチャンネル登録者数を聞くってどういうことだよ。

 俺が疑問を口にするよりも前に、隣の女の子が答えた。


「自分は400人であります!」

「は? 雑魚じゃん笑うわ。そっちのちっちゃい子は?」

「俺は、チャンネル持ってない」


 ダンジョンクイーンとしてではなく、今オーディションを受けている椎名アキという名義では持ってないから、嘘は言ってない。

 

「はっはっは! たかだか400人とチャンネル無しの未経験者か! そんなんだからあんな雑魚に苦戦すんだ。家に帰ってダンジョン配信でも見てな」


 別に苦戦してないが。調子に乗りたいお年頃なんだろうなぁ。

 そしてその男子は、そのままダンジョンの奥へと消えていった。その男子を女の子は知っていたようで。

 

「あの人はチャンネル登録者数6万のコウキって人っす! 高校一年生でダンジョン配信者として活躍し、最近有名になってきた人っす! くっ、6万とは高い戦闘力っす...」


 あー、登録者数が増えて調子に乗ってるってやつか。でも高校生だしイキりたくもなるんだろうなぁ。

 てかなんだそれ。チャンネル登録者数が戦闘力みたいな扱いになってるが。

 

「くぅ~、でも自分だけじゃ力不足なのも事実っす...というわけでお隣の方! パーティを組まないっすか!」

「パーティ?」

「そうっす! 自分は百地(ももち)ヒビキというっす! クラスは『聖職者』! でも無神論者っす! クラスの力で、回復は得意っすよ! ダンジョンで困ってる人にヒールをする、通称、辻ヒール配信をよくしてるっす!」


 聖職者か。なるほど、確かに回復は得意だが、戦いは不得手なクラスだったな。

 

「その背中の銃! おそらくガンナーか、アサシン系のクラスっすね。自分より戦闘力が高いのは確かっす! 助けられておいて何っすが、よかったらパーティを!」


 なるほど。少し考えたが、俺がソロでダンジョンを進んでも、内容をいつもの配信の流れのようになってしまう。そうなるとオーディションの評価としては『ダンジョンクイーンの二番煎じ』になってしまうかも。

 であれば、誰かと一緒に行動した方が、動画映えする内容になるんじゃないか、そう考えた。


「いいよ。組もう」

「うおおおお! 感謝っす! ちなみにお名前は!」

「アキだ。クラスはアサシン。よろしくな」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る