第26話 オーディション当日
そうしているうちにオーディションの日がやってきた。
前日にどのダンジョンでオーディションをするかの連絡が来た。やはり初級も初級、それも初級の中でも特に簡単なダンジョンだった。
さっと事務所の人が中を調べ、おおよそ簡単なダンジョンということを把握し、他の探索者がダンジョンへ入らないように入口を見張っていたらしい。
「にしても、思ったより多いな」
ダンジョンの入り口には30人ほどが集まっていた。大半がオーディションを受けに来た人だろう。
見れば、下は中学、上は高校くらいの少年少女たち。大半がダンジョンに入るための装備やら衣服などを身に着けている。
俺は髪色と瞳を黒と緑に変え、武器もいつもと異なるものを持ってきた。
拳銃ではなく、小型のアサルトライフル。志度さん特注のものだ。ただ、俺にはあまり合ってなくて、連射するとすぐに狙いがぶれてしまう。
合ってない武器でがんばってみろ、その方が面白いから、という志度さんの思惑を感じる。
服もいつものマントやワンピースじゃなく、ショートパンツに淡く黒いワイシャツに灰色のネクタイ、青いジャケットのような上着を着たスタイル。頭には警察などを思わせる丸っこい帽子。
翔斗さんから以前貰った服の一つで、曰く『カジュアル可愛い刑務官スタイル』と言っていた。
この服装ならいつもの服と違うし、髪色も相まってばれることは無いと思う。我ながら素晴らしい変装だ。
少し離れた場所では、彼らの親御さんたちらしき人々が。ある人は応援を、ある人は心配そうに彼らを見ていた。
中学生や高校生が主なのだから、心配したくなるのも分かる。
「でもまぁ、俺ほど小さい子は居ないか」
この中だと、俺がダントツで小さい。ある意味では目立って良いかもしれないが。
すると、どうもオーディションの担当らしき、けだるそうな事務所の女性が皆の前に立ち、話し始めた。
「えー、ではオーディションを開始しますー。あなたたちにはこの初級ダンジョンへ潜って頂きますー。皆さんには私たちから動画撮影用のスマホを貸し出しますので、配信しているつもりで動画を撮ってきてくださいー。後日私たちがそちらを拝見しー、通過者を決めます。結果は後日お送りするので、がんばって取れ高を稼いできてくださいねー」
そうして、全員にスマホが配られる。さすがにリリに貰った配信用のスマホとは異なり、安物の。しかも魔法の力で背後に浮くものではなく、動画撮影には自撮りとかが必要になる旧式のものだ。
「ではー、はいー、えーっと、貴方たち若い目は守る姿勢を見せないと社会がうるさ...こほんこほん。ここは極めて安全で簡単なダンジョンですがー、万一のためにー、一緒についていく強い探索者の方をー、お呼びしましたー。彼らからは配信者目線の貴方たちの評価を後で聞きたいのでー、私たちの事務所所属の配信者となってますー」
そうして現れたのは三人配信者たち。
まず自己紹介したのは、小麦色の肌を持つ屈強な男性だ。
「初めまして! 俺はタカヒロ! よろしくな!」
正直に言って、俺は配信者にあまり詳しくなく、誰だか分らなかったのだが。
突如俺の隣に居た中学生くらいの少女が興奮し始めた。
「うおおおおおおお! クラス『サーファー』のタカヒロさん! 水属性魔法のプロフェッショナルで、水を操りつつ、波を起こしてサーフボードを召喚し、ダンジョンを攻略していく、登録者45万人の配信者っす! 本物を見れるなんて嬉しいっすー!!」
突然の大声に耳が破裂しそうになった。全体的声量がでかい。
隣の少女。着ている衣服は...これは僧侶? シスター服ってやつかな? 確か回復の魔法とかの性能を高める効果がある服では、比較的安価に買えるもので人気があるとは聞いたが。
身長はリリよりも少し高く、髪色は濃い茶色。外はねの髪型が特徴的だ。
なんて考えていると、同伴の配信者二人目の紹介が始まる。次は女性で、ちょっと不健康そうな肌色をしている。
「はぁ、めんどくせ。ナナギです。結構な金がもらえるってんで来ました。よろすく」
「わおおおおおおおお! ナナギさん! ナナギゲームチャンネル、元はゲーム配信チャンネルから始まり、特有のクラスである『ガンナー』でダンジョンを配信を始めて大うけ! プロゲーマーとしても大活躍し、今では登録者52万人の方っす!」
いや隣の子、めっちゃ詳しいな。
さて、三人目は...あれ。
「おーほっほっほ! この前登録者数がついに20万人を突破したエカと申しますわ!」
エカだった。なんでよりによってお前が!? そうだ、隣の子のエカの解説を聞こう。エカはどう解説するんだろ。
「あ、エカさんっすね。オホり系配信者と言われてるっす」
いや簡素。
「ちょっと、今おほりって聞こえましたわ! そこの子ですわね!」
と、他のオーディション参加者をかき分けてズンズンとやってくるエカ。隣の外ハネの子に詰め寄ると、その子は慌てて弁明し始めた。
「ご、ごめんなさいっす! ネットの記事で見かけたものっす!」
「その記事をあとで教えなさい。後で削除申請を出しますわ」
と、その時エカと目が合う。
あー、さすがにこれはバレたか。なんだかんだエカとは会ってるし、これはばれて...
「あら可愛らしい子ですわ! わたくしの知り合いに貴方くらいでダンジョンで活躍している子が居ますわ。貴方もそうなれるよう、がんばってくださいまし」
「あ、はい」
そうして去っていくエカ。
えぇ...あれ、絶対あれ気づいてないよ。どんだけ鈍いんだ。
3人の同伴者の自己紹介が終わったところで、事務所の女性が咳ばらいをして言った。
「パーティは自由に組んで構いませんが、ご存知の通り5人以上で組む意志を持った時点でダンジョン内外にかかわらず、ダンジョンから追い出されますので注意を。えー、では今からスタートです。夕方には戻ってきてくださいね。戻るまでがダンジョン探索ですよー」
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