第28話 VSモンスター1000体

「へー! サウナが好きっすか! ちっちゃいのに珍しいっす!」

「サウナはいいぞ。ただ君くらいの年齢なら、少し温まる程度がお勧めだ」

「まるで大人みたいな喋り方っす! でもそのととのうっていうの、すごく気になるっす!」


 俺はヒビキと二人でダンジョンの中を進んでいた。あいかわらず声がでかい。

 しかし俺たちよりも他のオーディション参加者の方が速く、既にトラップやらモンスターやらはあらかた片付けられた状態だった。


「これじゃ良い動画撮れなそうだなぁ」

「ぐぬぬ...くやしいっす! もし事務所に入れたら、ママを喜ばせられたっす...」

「もしかして自分の意志で受けてないってやつか?」

「違うっす! 自分ダンジョン配信を見るの好きなんで、事務所に入って色んな配信者の人に合うのは憧れっす! だから自分で応募してみたっす! けど、自分にはちょっと早かったかもっす」

「なんでそう思うんだ?」

「あのコウキさんのほかにも、チャンネル登録者数5万人前後の方がちらほら居たっす。皆実力者っす」


 どうなんだろうな。俺はあいつらより、ヒビキの方が見ていて面白いが。

 と、気づけば階層は25階。あと少しで最終階層かな、と思っていたら、ダンジョンの片隅に人だかりができていた。

 そこに居た一人であり、同伴者である、不健康そうな女性配信者に聞く。

 

「何があったんだ?」

「おん、最年少幼女じゃん。えっと、エカってやつが上層からトラップでこの階層までおっこちたんだけど、どうもこの壁の向こうに居るっぽい。んで、今開ける方法を探し中」


 すると、例のサーファーの同伴配信者が声を上げた。


「開いたぞ! やはりエカ側に何かスイッチがあったんだ」


 壁がゴゴゴと音を立てて開く。壁の向こうから、エカがお尻をさすりながら姿を現した。

 

「落ちた時にお尻をぶつけておケツが痛いですわ...お臀部の穴をアサシンに狙われた気分ですわ...」


 なんだそのたとえ、というつっこみは置いておいて、エカが現れた場所は広大な広間になっていた。それこそ、下手な学校の校庭よりも広い。


「わたくしが落ちたときに先客が居ましたわ。けれど、何を話してもまともな返事が返ってきませんの。『ここにモンスターが現れる』『難易度はシークレット』『倒してくれないか』『報酬は弾む』『イエスかノーで答えてくれ』ばかり言いますわ」


 そうしてエカが指さした方向。広間の中央部分にたたずむ、黒髪ロングの女性の姿があった。

 その瞳には、光を宿していない。それを見て、その場に居た子供たちの誰かが言った。


「NPCじゃん!」


 そう、それはNPC。子供たちがNPCに駆け寄る。

 そうそう出会えないNPCに出会い、興奮状態だ。

 だがそんな子供たちを、例のサーファーの男が制止する。


「待て! おそらくそいつはクエスト型のNPCだ! しかもシークレット難易度のクエストは、何が起こるかわからない。ダンジョン難易度に合ってないことが起こることもある。むやみに話かけるのはやめて...」


 多くの子供たちはその言葉を聞いてNPCに話しかけるのをやめた。だが、何人かの子供たちは言うことを聞かずに、NPCに話しかけ続けている。その筆頭が、あのコウキという少年だ。


「こんなんクエストクリアなんて取れ高があれば、オーディション通過確定じゃん! おいNPC、クエストを受けさせてくれ! イエスだ!」


 黒髪の女性の姿をしたNPCが、返答する。


「クエストを受けてくれるのか。助かる。デハ、クエストの開始だ。シークレット難易度公開。☆7。『中級モンスターを1000体撃破せよ!』」


 その場に居た全員が固まった。

 難易度☆7、中級モンスター。そして、1000体。

 

「皆逃げろ!!!」


 サーファーの男が叫ぶ。だが、突然広間への入り口がふさがれてしまう。

 広間のあちこちで、無数のモンスターが現れる。子供たちは完全にパニックになっていた。

 くそっ、今日はさすがに身バレ防止を考えて救助隊バッジを持ってきてない。ここから子供たちを逃がす手段が無い。

 二人の同伴配信者も、あわてふためいている。

 

「畜生、簡単なバイトじゃねぇのかよ。たとえ中級でもこの量、俺の水魔法で守りれるか...」

「ああもう最悪、銃の弾たりっかな」


 そんな中で、一人モンスターの大群に駆けだしたのは。


「この謙虚なナイトなわたくしが、行きますわー!」


 エカだった。エカがモンスターの大群の中に突っ込む。そしてモンスターのど真ん中で、盾と剣を手に大立ち回りを始めた。


「これは...いいぞエカ」


 俺は一瞬、どう行動すべきか最適解を考えていた。

 敵があまりに数が多い。ハーフドラゴンに変身すればすべて一網打尽にできるが、変身に少し時間がかかる。変身している間にモンスターが来てしまったら、子供たちを守り切れないかもしれない懸念があった。

 だが、エカがモンスターに突撃したことで、モンスターのヘイトの多くがエカへ向いた。これなら。


「ぐっ、うううう」


 ハーフドラゴンへの変身を始める。だが、そこへモンスターからの流れ弾の魔法弾がこちらへ一発だけやってくる。

 その弾は、あのコウキに対して迫っていた。


「わ、わああああああ!」

 

 叫び声をあげるコウキの前に、突然バリアのようなものが現れ、攻撃がはじかれる。それを出現させたのが。

 

「せ、聖職者の技の一つっす」


 ヒビキだった。さらにヒビキは俺の体に回復の光を当ててきた。


「アキさんが、な、なにをする気かわからないっすが、体が痛そうなので、回復するっす...」

「助かるよ。実際痛い。おかげで大分やわらいだ」


 自身の胸元、魂があるという場所に意識を集中し、体全体に力を入れる。

 体が熱くなる。両手両足の肌が変化し、びっしりと白い鱗、そして鋭い爪へと変化する。

 身に着けていた服を破り、背中にはドラゴンの羽が現れる。

 頭に熱さを感じ、二本の角が現れる。

 視界を遮る髪の色が白銀色へ変わってゆく。おそらくは色変えスプレーの効果が変身で切れて、元の色を取り戻している。

 

 変身を終え、モンスターの大群へ向かおうと身構えた時、側に居たヒビキが言った。

 

「ダンジョン、クイーン...?」

「ああ、初めまして。ダンジョンクイーン、もといアキだ。よろしくな」

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