第29話 新たなNPC
変身できてしまえばあとは速い。俺は室内の天井近くまで飛び、モンスターの集団の中心に視線を合わせた。
「相手は中級。この量ならブレスを球体化して発射より、より広範囲を攻撃できるブレスが適切か」
俺は大きく息を吸い、少し息を止める。そして肺の側にあり、おそらくはブレスに関わる器官を意識して、一気に息を吐いた。
黄金色の炎が口の中から沸き上がり、周囲のモンスターたちを一気に一気に焼き尽くした。
「ぎゃー! なんですのこの炎! あっちーですわー! あら? 熱くない?」
ブレスはモンスターだけを焼き尽くし、中で戦っていたエカに対しては、回復効果だけを与える。本当に便利な力だ。
一体残らず倒し尽くし、これでクエストは完了だ。
「大丈夫かエカ」
俺がエカの元へと降り立つと、エカがこちらを見て驚く。
「アキトさん!?」
「しーっ! アキトじゃなくてアキって呼べ!」
「そうでしたわ。リリにも言われてましたわ。アキさんその姿は!?」
「エカには言ってなかったか。まぁ色々ありまして」
「それよりなんでここに居ますの!?」
「それも説明するの面倒だなぁ」
エカに1から説明しようとすると、時間かかりそうだなぁ、そう考えていると。例のNPCが俺たちのもとへと近づいてきた。
「ありがとう! 君達のおかげでモンスターの脅威は去ったよ。ではこれをプレゼントだ。『魔力を用いて水を酸素へ変えるオーパーツ』。有意義に使ってくれ」
そうして、何やら四角い小さなキューブのようなものをNPCから渡された。
どんなアイテムかはわからないが、オーパーツってのはダンジョンの外に持ち帰っても、使えるものが多い。そもそも高値で売れたりするし、志度さんに渡したら、何かしら有意義に使ってくれるかもしれない。
そうしていると、気づけば周囲に人だかりができている。オーディションを受けていた子供たちだ。
「ダンジョンクイーンだ...登録者数三百万人超え、もうすぐ四百万人のアキさんだ...」
「本物...!? 背中にドラゴンの羽生えてるけど」
「志度イケヤの作った生命体だから、何か特殊な力があったのかな」
なんかちょっと俺に近づきがたいと言いたげな雰囲気を出している。ヒビキもその中の一人だ。
俺はちょっと考えて、指をピースの形にして、皆に言った。
「こんくいーん」
そう言った瞬間、わっと歓声が上がる。
「ほ、本物だ!」
「すげぇ! サイン! サイン欲しい!」
「やっべぇ本物めっちゃかわいい!」
「ドラゴンの羽似合いすぎだろ!」
一気に詰め寄ってくる子供たち。そんな中で、周囲の子供たちを制止するようにして、我先にと俺の前の立ったのが。
「あんた、ダンジョンクイーンだったのか! ただものではないと思っていたよ!」
例のコウキってやつだった。あのイキってた雰囲気はどこへやら、まるで先輩を立てる後輩かのように、へりくだった話し方になっている。
「オーパーツおめでとうございます! でもそのオーパーツが手に入ったのは、俺がクエストを受けたおかげですよね? だから今度俺とコラボ配信、あとトゥイッターフォローとかもしてくれると」
「え、やだ」
コウキの表情が固まる。なぜだめなのか理解してない様子だったので、俺は言ってやった。
「だってお前、つまらないもん」
「お゛っ」
変な声をあげてバタリと倒れてしまうコウキ。サーファーの配信者がすぐに駆け付けるが、白目をむいて気絶しているだけだった。
「あ、そうだ」
俺はふと思いついた。そういえばトゥイッターの俺のアカウント、確かフォローしているのはリリのことだけだったな。
やっぱりああいうの、フォローされると嬉しいらしいとは聞く。それに、今回少し世話になった子が居るし、今後も活躍の様子を見たいし、あの子に提案してみるか。
「えっと、ヒビキ」
「は、はい! なんっすか!」
「ちょっとこっち来てくれないか」
なんかビクビクオドオドした様子になってしまっているヒビキ。そんなに意識しなくてもいいのに。
「ヒビキ、トゥイッターやってるか?」
「い、一応やってるっす。配信告知とかに使っているものがあるっす」
「アカウント名は?」
「hiviki_streamingっす」
「おっけ」
俺は自身の私用スマホを取り出して、トゥイッターでヒビキのアカウントを検索。見つけたあと、スマホの画面をヒビキに見せた。
「このアカウントか?」
「そ、そうっす」
「よし、フォローしといた。もし機会あったら今度サウナとか行こう」
「えっ」
ヒビキが自分のスマホを手にして、なにやらいじり始めた。そして。
「ミ゜ッ」
変な声を出して倒れかけてしまう。幸いにもまだ俺の体は半分ドラゴンだったので普段より力が強い。彼女の体を支え、床に寝かせることは出来た。
彼女のスマホには、トゥイッターの、自身のフォロワー画面が表示されていた。そこに俺のアカウントも表示されている。よし、フォローちゃんと出来たようだ。
にしても、なんで気絶なんてしてしまったんだろう。そう考えていると背後からエカが。
「お待ちなさい! わたくしはフォローされてませんわ!」
「え、なんか嫌。ソボロ取り逃げしたし」
キー、と声を上げるエカを後目に、例のサーファーの配信者が話し始めた。
「あー、こんな状態だとオーディションとか言ってられる場合じゃねぇな。ダンジョンクイーンさんよ。俺たちは子供を連れて先に撤退させて頂く。あとで良いから、事務所を通して、なんであんたがオーディションに居たかも教えてくれ」
「ああ、わかった。俺はちょっと用事があるから、あとでダンジョンから出る。先に帰っていてくれ」
そうして子供たちを引き連れてダンジョンを後にするサーファーの配信者と、もう一人のプロゲーマーとかいう女性の配信者。気絶したヒビキとコウキは二人に担がれ、エカはプロゲーマーの配信者に引きずられてこの場を去っていった。
さて、俺が残ったのには理由がある。
まだこの広間には、俺のほかに一人、NPCが居た。
NPCはオーパーツを俺に渡したあと、一人無言でたたずんでいる。
そんなNPCに、俺は話しかけた。
「あんた、アドミンってやつの一人か」
そう尋ねると、その黒髪の女性NPCはニヤリと笑みを浮かべて、お辞儀をしながら口を開いた。
「貴公なら我に話しかけると思っていた。自己紹介させて頂こう。我の名前はビナー。アドミンの一人だ。初めまして、ダアトから力を継ぎし人間」
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