第30話 NPCからの提案

「ダアトから力を継ぎしか。それはゲブラーってやつに聞いたのか?」

「継いだとは聞いていないが、ダアトに似た人間の幼い少女が居ると聞いていた。先ほどの戦いと、そのハーフドラゴンの姿を見て、確信したよ」


 そうだ。まだハーフドラゴンの姿だった。体から力を抜いて、もとの幼女の姿に戻る。


「ゲブラーからダアトは死に際、人間の男への補完を試したと聞いたが、なるほど、そのような形となったか。とても面白いではないか」

「なぁ、聞かせてくれ。あんたたちアドミンの目的はなんだ?」

「我らの目的か。話せばケテルの怒りを買うだろうな」


 そして、ひと呼吸分の時間をおいて、ビナーというアドミンは言った。


「我が持っている情報、わかる範囲でよければ、貴公に渡そう」

「...本当か!?」

「だが今ではない。このダンジョンのテンプレートはコクマーが作ったもの。話せばすぐ感づかれるだろう。故に提案だ。話すためのダンジョンを作る時間、一か月ほど時間が欲しい」

「一か月か」

「そうだ。ちょうど一か月。そうだな...貴公がダアトと出会ったダンジョンがあった場所へダンジョンを出現させよう」

「罠、じゃないだろうな」

「罠と思うなら来なくて良い。だが今の時点で言える情報だけ言おう。我らアドミンの目的は『貴公らこの星の人間を害するもの』であることは間違いない。とはいえ、数か月で影響が出るものではないが。今言えるのは、それだけだ」


 もしかしたら罠かもしれない。でも、こいつらの目的が何か聞き出したいってのも事実。本当に人間を害するものであるならなおさらだ。


「ああ貴公にもう一つ伝えねば。もし来るのであれば、『速き者』『遠く狙える者』『守りし者』を共に連れてくることだ」

「それはなぜだ?」

「滅してほしい者が居てな。その者を滅するには、貴公のハーフドラゴンの力が万全であることが求められる。つまり、貴公にはそのままの状態で戦いを行ってもらう必要がある。その者を倒すのに、おそらくは今話した三人が必要なのだ。いずれも強き者が必要だ」


 速いに関してはすぐにリリが思い浮かんだが、他はまだ思い浮かばない。


「では、貴公が望むのであれば、貴公らの時間で言う一か月後、また会おう」


 そう言い残し、ビナーの姿が溶けるように消えていった。

 

「...まずは志度さんに話すか」


 そう考え、俺はダンジョンを後にした。


〇〇〇


 ダンジョンから出てみれば夕暮れ時だった。すぐにスプレーと目薬を取り出して、目や髪の色を変える。これで身バレはそうそうしない。

 ...着ていた服、背中がハーフドラゴンになったときの羽で破けてるが、幸運なことに髪が長いから隠せる。

 そうしてビルの立ち並ぶ街を歩きだしながら、スマホを操作していた。志度さんにビナーの件を話すためだ。

 

 ややこしい話だから、電話を...でも志度さん電話中々でないし、メッセージも一日二日見ないことも多いからな。直接洋館行ければ楽なんだけど。そう考えていると、ビル街の向こう側から気配がした。

 ビルとビルの間を飛び跳ねながら移動する青い影。何度か街中でも見たことがあるが、あれは。

 

「相変わらず目立つなぁ、リリ」


 リリはああやって移動することが多い。動画サイトには、リリがあのように移動している動画が多数上がっている。

 なんて思っていると、飛び跳ねていたリリがこちらを見た気がした。ビルドの頂点から縦回転しながら俺の目の前に着地したリリは。


「アキト、イメチェンした?」

「よ、よく気づいたな」


 今の黒髪緑眼の姿。エカは気づかなかったのに、リリは遠目から気づいたようだ。

 そうだ、リリに一か月後に一緒にビナーのダンジョンに来てほしい話をしよう、そう考えたが、よくよく考えたらリリが居れば。


「リリ、暇か?」

「暇! だからとりあえず走ってた!」

「とりあえず走るなのがリリらしいな。じゃ、よかったら俺を志度さんのところに連れていってくれないか?」


〇〇〇


「幼女ちゃんはいつも私を飽きさせないな。そのビナーというNPCのダンジョン探索、賛成だ」

「アタシもおっけー! 速さならまかせて!」


 俺たちは今、志度さんの洋館の中のサウナで話していた。洋館に到着したところ、ちょうど志度さんがサウナに入る直前だったので、俺とリリも一緒させてもらった形だ。

 

「わくわく! 志度さん、アタシその配信していいですか? みんな驚きそう!」

「むしろそれが良いだろう。記録は多く残しておいたほうが良い。残りの二人、『遠く狙える者』『守りし者』、これには私にあてがある。まかせておけ」

「助かります」

 

 一か月か。まぁその間はいつも通り過ごせばいいか。


「にしても幼女ちゃん。オーディションはどうだった」

「えっ、なにそれアタシ聞いてない!」

「あはは、リリを驚かせたくて秘密にしてたし。ああ、それならそもそもNPCに合ったのが」


 俺はリリと志度さんに、経緯を話した。


「とりあえず俺は後程オーディションの事務所の方には説明しておくつもりだ。正体ばれたし、しばらくは個人配信でいいかなって」

「そんなー! アタシに行ってくれればすぐに事務所の人に言うのに!」

「そこまで甘えるわけにはいかないよリリ」


 よくよく考えればハーフドラゴンになったとき、個人のスマホで俺を撮っている子が居たな。もしかしたら配信もしていたかも。今度、ハーフドラゴンになれることも配信で発表しようかな。

 

「でも、今日は俺疲れたよ。サウナに入って改めて、どっと体に疲れが出た気がする」


 そう俺がつぶやくと、志度さんは何かを思い出したかのように手を叩いた。


「ならばちょうどいい。一つ考えていたことがある」

「なんですか志度さん」

「幼女ちゃんの中のダアトが望んでいたことの一つに、海外へ行くというものがある」

「ありますね」

「実は既に手配していた。まだビナーのダンジョンまで一か月ある。南国の島でバカンスとしゃれこもうではないか」


 南国バカンス...うーん、普通なら魅力的に聞こえるんだろうけど、俺は別に海は好きでもないし。

 

「実はその島にはバレルサウナという、樽型のサウナが設置されていて...」

「行きます」


 聞いたことがある。リゾート地には、そのような樽型のサウナが設置されていることがあると。まだ俺は一度も行ったことが無い。ぜひ行ってみたい。


「なぁ、リリもどうだ? ...リリ?」


 見れば、リリは何とも微妙な表情を浮かべていた。


「あ、アタシ? う、海かぁ...水かぁ...」

「嫌なら無理はしないでも」

「でもアタシも樽のサウナは入ってみたい。アタシ、行くよ!」


 リリも来るか。これで一緒にサウナを楽しめそうだ。そう考えていたが、一つすっかり忘れていた。

 もし海に行くなら、絶対に必要になるもののことを。


「それに、キミの水着姿も見たいし!」

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