第31話 海だー!
「海だー!」
リリが大声で言いながら、砂浜を駆ける。もちろん、身に着けているのは水着。パレオ付きの青い水着だ。
俺たちは志度さんのプライベートジェットに乗り、南国のとある島へとやって来ていた。
いわく、ここは志度さんのプライベートアイランドらしく、俺たちで独占状態とのことだ。
「晴れてよかったな幼女ちゃん。良いバカンス日和というやつだ」
「そ、そうですね志度さん...」
隣に立つ志度さんも水着姿。緑の長髪をポニーテールに結び、黒いビキニを纏ったその姿。あまりに似合いすぎている。
そんな俺たちの側には、もう一人の姿があった。
「ななななな、なんでうちまでここに居るっすか!? ここまで何度も確認しましたっすが、この方志度イケヤさんっす!? すごいお方っすよ!? なんでうちはここに!?」
「サウナ入ろうって約束してたろ? ヒビキ」
そう、ヒビキだ。実は俺が誘ったわけではなく、俺のトゥイッターのフォローが増えたことをリリに話すと、人が多い方が楽しいし、せっかくだから彼女も誘おうと志度さんに提案してくれた。
そんなヒビキが着ているのはスクール水着というやつだ。どうやら元々あまり海などは行ったことが無いらしく、持っているのはこの水着だけだったとか。
にしても、ヒビキは中学生と聞いたが、それにしては大分スタイルがいいな。リリと比べると、出っ張っているところがかなり大き目に出ている。あのシスター服の下はこうなっていたのか。
それと、側にはリズィさん。リズィさんはいつものメイド服の姿。いつものように、志度さんや俺たちのお世話をしてくれるらしい。
「さて幼女ちゃん。いつまで私の後ろに隠れている」
「う...」
「恥ずかしがっていては楽しめない。ほら、リリと一緒に遊んだらどうだ」
志度さんに促されて、俺は砂浜へと一歩を踏み出した。
俺が着ているのは...水着。それももちろん男用じゃない。女性、小さい女の子用の水着だ。
俺は絶対水着は着ないと言っていたが、なんとリリが用意周到に翔斗さんに水着を頼んでいたらしく...
俺が身に着けている水着は、ワンピースを彷彿とさせる水着だ。赤基調の。そこに赤いリボンのついた麦わら帽子までセットだ。
もう、自分の今の姿を想像するだけで、あまりに恥ずかしい。
なんて考えていたら、俺の前にリリが立ち止まり。
「アキト! すっっっっごく可愛いよ!!」
「っ!?」
俺はあまりの恥ずかしさに声にならない声をあげた。
それでも...どこか嬉しさのような沸き立つのは、魂の中のダアトのせいだろうか。うん、ダアトのせいに違いない。そう考えよう。
「それにしたって、最高の天気だ」
空気の違いから、今自分が海外に居ることがわかる。そう考えただけで、心が沸き立った。ダアトの感情も含まれてるのだろうか。
「エカも来れたらよかったのにな」
実は今回エカも来れるはず、だった。
海外のためパスポートが必要になり、俺やリリ、ヒビキのパスポートは志度さんが手を貸して、すぐに発行してくれた。
エカは既にパスポートを持っていたらしく、どや顔でどこか古いパスポートを俺に見せてきたのを覚えている。そんな古いパスポートで大丈夫かと聞いたんだが。
『大丈夫ですわ。問題ありませんわ』
案の定パスポートの有効期限は切れており、エカは志度さんに泣きつきながら『一番早いのでお願いしますわああああ!』と叫んでいた。あまり会ったことのない志度さんに泣きつく度胸はすごい。
でも時すでに遅く、発行できても俺たちが発った翌日になるとのこと。エカは『あとでわたくしもプライベートジェットで合流しますわ!』と意気込んでいたが、本当に来れるのかどうか。
「アキト! 一緒にあそぼ! ほら! リズィさんがバーベキューの準備進めてくれてるし、砂のお城とかつくろーよ!」
「砂の城か。なんだか小さい頃を思い出すな。いいぞ」
「おかしいっす! 小さい頃って、アキさ...いえダンジョンクイーンさんはまだまだ小さいっす!」
「アキでいいよヒビキ。えっと、それについては、なんというか」
俺が言葉を濁していると、リリがヒビキの手を取った。
「ヒビキちゃんもあそぼ!」
「ほあっ!? うちの手をリリさんが握って、と、とうろくしゃすう三百万人越えのりりさんが、あばばばば」
「アキト、じゃなくてアキもほら!」
そうだ、まだビナーのダンジョンが現れるのは一か月先。それまで少し休んでも、ばちは当たらないだろう。海外へ行く、というのはダアトが望んでいたことだし。
俺はリリに手を引かれるまま、砂浜へと駆けだした。
〇〇〇
海は楽しかった。砂の城を作ったり、リリがヒビキの足へ注目したり。
「すっごく素敵な足! すべすべつるつるふにふに! 中学生の女の子の足だね! これは、回復系が得意そうな雰囲気! むむ、この回復のタイミングから察するに、辻ヒールとかをよくやってるね」
「そこまでわかるっすか!? さすがは足フェチサメ系配信者っす...!」
「俺にはいまだによくわからん」
そうして砂浜で遊び、ふと、まだ海へ入ってないことに気付き、せっかくだからと青く澄んだ海へとダイブしたり。
「実は俺泳ぎ得意なんだ。見ててくれ」
俺は泳ぎの自慢をしながら海へ飛び込み...あ、あれ? なんか、体が思うように動かない。なんか簡単に海の波に流されて...
「た、助けて! 流される! おぼれる!」
男の時と勝手があまりに違う。ひとかきでの移動距離が少なすぎる。そこまで深くないのに足がつかない。
「アキ! 今助ける!」
リリが海に飛び込んで助けてくれたが。
「あわわわわわ! アタシも泳げないんだったー!」
「ちょ、リリ!?」
「溺れちゃう! 誰か助けてー! なんかサメ系配信者って呼ばれてるけどアタシ泳ぐのはだめ...おぼぼぼぼ」
リリの泳ぎ下手っぷりは俺以上で、俺が波に流されてるとすれば、リリは沈んでた。
俺とリリが溺れそうになっているところにやってきたのが。
「二人とも! 大丈夫っすか!」
それはヒビキ。ヒビキの泳ぎの腕前は相当なもので、浮き輪を手に俺たちへ近づき、すぐに助け出してくれた。
「た、たすかったよヒビキ」
「ひびきちゃん、ぐらしあす(ありがとう)...」
「海を甘く見ちゃだめっす! 二人とも、泳ぐのが苦手なら、海に入るときは浮き輪をもってくっす!」
「「はい...」」
俺とリリの声が重なった。
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