第8話 二人でサウナ

「サウナ...サウナねぇ。確かにサウナだ。最高だ」


 俺は今サウナの中に居た。体にタオルを巻き、いつも通りサウナで体を温め汗を流している。

 だがいつも行っている銭湯のサウナじゃない。俺の背後に取り付けられた窓からは、夜景が見える。

 

「ふあ...アタシ、サウナが家についてたけど、ちゃんと入るの初めて...」


 隣に居るのはリリ。そう、ここはリリのタワマン。あのサウナと露天風呂が各部屋についていると聞いた、タワマンだ。


「いや...リリ...だめだ...俺は成人男性だって言っただろ...キミとは昨日あったばかりだし...倫理的にまずい...」

「だから...キミは...今...かわいい幼女だから大丈夫...ほら...おはだ...すべすべ...もちもち...ちんまり...」

「やめろ...今...汗だくだ...あと...倫理的に...あうと...」

「アタシは...きにしないって...」

「それより...何度も言ったが...中学生でととのうは...オススメしないぞ...」

「気にしないで...そのととのうていうやつ...知りたいから...」


 ガラスに映る自分たちの姿を見ると、小さい白髪の女の子と青い髪の女の子が、バスタオル1枚でじゃれているだけにしか見えない。

 でも、この白髪の方は男なんだよな...実際下にはついてないし女の子なんだけれども。


「そろそろ...出ようか...」

「...うん」


 サウナを出る。なんとこの部屋、サウナの側に水風呂まである。

 水風呂に体を沈める瞬間。これがたまらない。

 

「ちちちちちべたー! けどきもちいね!」

「な、良いだろ? だけどまだまだ序の口だ。このあと外で涼んで、サウナ入って...と同じことを3回くらい繰り返すぞ。それと、水分補給はしっかりとだ」

「おっけー!」


 そうして涼み、サウナに入り、水風呂に入りを繰り返す。

 涼むためのベランダも広く、しかも寝ころべる椅子までついていた。立っていると外に丸見えだが、椅子で横になれば外には見えない。

 

「外で寝ころぶって、これ本当に気持ちいの?」


 一回目で懐疑的だったリリ。


「あ、でもこれいい感じかも」


 二回目で許容を始めたリリ。そして。

 

「あ、ああああ! 全身に音速で血が巡る! こ、この感覚ぅぅぅぅ!」


 三回目で会得したらしい。

 

「ととのったか?」

「はい! ととのいました!」


 なぜ敬語になった。


 そうして二人でタオル姿で、バルコニーの椅子で寝ころんでいる。


「あー、きもちいい」


 俺が気持ちよく涼んでいると、リリが話かけてきた。


「キミの初顔出し配信、良かったよ」

「見てたのか」

「えへへ。アタシの初めての配信思い出しちゃった。たった一年前だけど、あの時は緊張したなぁ。キミほどたくさんの人には見てもらえてなかったけどね。たった二人だったし、その人たちもすぐいなくなっちゃった」

「俺もそんなもんだ。昔から録画用に配信してたが、その配信にはほぼ人は来なかった。長い事してて、登録者は8人だったよ」

「それがたった一日で、キミは話題の人。何が起きるかわからないよねー」

「ほんとな。でも、帰ってコメントとかチャンネル登録者数を読むのが怖い。炎上してないかな」


 すると、リリはニヤニヤとした表情でこちらを見つめていた。

 

「な、なんだよ」

「別に―。帰ってからのお楽しみってことで」


 ふと空を見上げてみれば、そこには満点...とは言えないが、綺麗な星空が見えた。

 

「ねぇアキト」

「なんだ?」

「キミに昨日助けてもらったときね。すごくうれしかったんだ。キミは今までの活躍でクイーンなんて呼ばれているけれど、アタシにとっては命の恩人。そしてなにより、なんかキミを見た時、心の中に不思議な気持ちがわいてきたんだ」

「不思議な気持ち?」

「んー、言葉で説明するのは難しいかも。たぶん、助けてもらってすごくうれしかったんだと思う。けれどそれよりも前に」

 

 するとリリは体制を変えて、俺の方を向きながら椅子に座ると、俺に深々と頭を下げた。


「アタシと友達になってください!」

「えっ、それってどういう」

「命の恩人とかじゃなくて、キミと友達になりたいんだ! ダメかな?」


 友達、か。今までは確かに、リリは俺が助けたから、何かそれに対する礼をしたいとか、そういう気持ちで動いているのかと思っていた。

 けれど、やたらとグイグイ俺に寄って来る、それこそ俺の家に押し掛けるのには理由があったのか。

 友達になりたい。友達、か。

 この姿になってから、家族、友人、会社の同僚、誰とも連絡は取っていない。いや、連絡は取ったが信じてもらえなかった。

 だから、俺の身の回りには誰もいない。だからこそ、その友達という言葉はすごくうれしかった。

 

「俺で良ければ、もちろん」


 すると、リリは俺に強く抱き着いてきた。


「グラシアス(ありがとう)!」

「あ、はは...あのさ、だからその、タオル姿で抱き着かれるのはまずいって。俺は男だから」


 その、胸元の柔らかい感触あ、抱き着かれている俺の顔に。


「だからアタシは気にしないよ!」

「俺が気にするんだって」


 しばらく抱き着いたあと、リリは椅子へと座り直した。

 

「そうそう、ダンジョン配信。最初の配信はすごくよかった! けど問題点も見つかったよね」


 その通りだ。特に大きなことは、手のしびれで銃が10発程度しか撃てないことだ。

 

「それはいい解決策があるんだ。次の土曜日、暇かな?」

「ほぼ毎日暇と言えば暇だけど」

「じゃ決まり! アタシが土曜日に迎えに行くね。それと、チャンネルを確認するのは家に帰ってからにすること」


 え、それはどういう。


「だって、人前で大声あげたくないでしょ?」

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