第二章(後)
第41話 かわいい=経験値
帰国して少し経ち、ビナーが指定した日の二週間前。
帰りの飛行機で志度さんの話を聞いたが、本気で一緒にダンジョンに来るらしい。
「一応クラス、エンジニアだ。守りに特化した立ち回りでいこう」というのは志度さんの話。
一緒に行くメンバーに関しては、志度さんが言うなら志度さんに任せた方が安心だ。だから俺が今できることと言えば。
「チャンネル登録者数集め、か」
相も変わらず住んでいるボロアパートで、俺は一人つぶやいた。
なぜ今登録者を集める必要があるか。それは。
「う、うう」
俺は過去の配信に目を通し、コメント読み返した。大量にあふれかえるかわいい、かわいいの文字。
それを見れば見るほど、頭がカッと熱くなり、それでいて魂が震えるような、そんな感覚がする。
ハーフドラゴンに変身する条件。サウナでととのうのはもちろんだが、もう一つ、沢山の人から姿を褒められることでも、変身できることがわかった。
しかも志度さん曰く、「おそらくは下手に修行をするより、さらに多くの登録者を集め、褒められる方がダアトの魂が強まり、ハーフドラゴンで強くなれるだろう」とのこと。
ビナー、あいつはなんというか、つかみどころが無い。ゲブラーに比べて、圧倒的に話しやすいし、何なら割とこちらに好意的に接してくれている雰囲気だ。水没ダンジョンでも、まるで友人の様子を覗きに来たようにやってきたし。
だが、その真意はわからない。もしかしたら最上級レベルの高難易度ダンジョンの可能性だって十二分にある。できるだけ備えていくしかない。
であればハーフドラゴンとしての力を高めるのは、決して無駄ではない。
そして変身関連では、別にもう一つ気になっていることがあった。
「少し試してみるか」
〇〇〇
俺は中級のダンジョンに足を踏み入れた。透過マントである程度階層下へと移動する。今回は配信は無しだ。
このくらいのダンジョンなら...いた。
「バイオリザード。なんか久々だな」
中級ダンジョンに現れるバイオリザード。現れたそいつに対して。
「バレットマーク、付与」
バレットマークを付与し、そのまますぐに拳銃で弾を放つ。
かつては頭や上半身を吹き飛ばす程度だった威力。それでも威力は非常に高かったが。
弾丸がバイオリザードに当たった瞬間、バイオリザードの体が粉々にはじけ飛ぶほどの威力だった。
いくら弱点のVの痣に当たったからと言って、ここまでの威力は出てなかった。
「よし、次は変身を」
ハーフドラゴンの姿に変身する。存分にサウナで整ったし、それと、あと、いっぱい可愛いってコメントされたし...存分に変身時間は確保できる。
この感じだと、十分変身できそうだ。
「さて、周囲にモンスターも居ないし、ブレスでも吐く練習を...そういえば」
ふと思った。直感でブレスを球体のようにした圧縮した放つ方法を知っていた。おそらくはダアトの記憶によるものじゃないかとは思う。記憶の干渉は無いと志度さんは言っていたが、直感的な部分は少し影響を受けている気がしている。
球体にできるなら、他の形にできたりしないだろうか。
ブレスを吐いて、目の前で球体にする。それに手をかざして、形を変えられないか試してみる。例えば剣とか。
「ははは、まさかできるわけ...え?」
目の前で炎の形が変わり、俺の背丈よりも多きな剣、大剣状になる。その剣を持とうとすると...持てた。
「まじか...」
剣にしては、まったく重さを感じない。まるで某最終幻想7の主人公のように、片手でくるくると回すことだって出来た。
男心がくすぐられる。ロマンの塊だ。
ただ問題は、この黄金の炎で出来た剣が、本当に使えるかどうか。
「試してみるか」
一階層下に降りる。中級のブラックウルフが4体。そのブラックウルフ達に対して、剣を薙ぎ払うようにふるった。
ブラックウルフ達が真っ二つに切り裂かれる。
「すごい、これなら...!」
ブレスは強力だが、大雑把なのが弱点だった。そして何より、かなり体力を使い、変身できる時間が少なくなる。
だがこれなら、一度のブレス分だけで大丈夫だ。そしてなにより、ある程度の時間形を保てるようで、現に変身時間が切れそうな今になっても剣の形のままだった。
それはつまり、ある程度の長期戦もできるということ。
そして目の前にはバイオリザード。そのタイミングで時間が来て変身が解けた。同時に大剣も炎が消えるように霧散した。
「ぐっ、相変わらずこの痛みは慣れないな...バレットマーク」
痛みに耐えながらバレットマークを付与する。そしてバイオリザードに弾丸を打ち込む。
一撃でバイオリザードは葬れた。しかし、今度は頭部を吹き飛ばすだけ。
「やっぱりか」
なんとなく感じていた。この変身に使う魂の力、直接バレットマークの威力にもかかわってくる。
となると、だ。
「やっぱり、やっぱりかぁ」
今俺にできる修行的なものは。
「もっと、かわいいって言われる...そのためには」
まさか、チャンネル登録者数を伸ばすのが、俺の強さに直結するようになるなんて、思いもしなかった。
〇〇〇
帰宅して自分のチャンネルを見てみる。既に登録者数は四百万人を超えていた。ちなみに、リリも同じ登録者数を推移している。
ミスターの動画公開されたりしたら、もっと伸びるだろう。
チャンネル登録者数を伸ばしたうえで、もっとかわいいと呼ばれなきゃいけない。
「かわいいって呼ばれるには何をするかな...また可愛い服着るか。あれはあれで楽し...」
いや、いやいやいや、何を言ってるんだ俺は。
顔をふるふると振って、息を整える。
「...コメントもそうだが、どこかで俺にもっとこうしてほしい、みたいな意見あるかな。エゴサーチしてみるか」
そうしてまずはトゥイッターで検索を、と思って検索してすぐ出てきたのが。
「ダンジョンクイーンオフ会...?」
どうやらチャンネルの登録者のうち、ダンジョン探索者である人達で、オフ会を開くらしい。
まずは街に集まり、初級ダンジョンへ入って攻略をして、打ち上げにカラオケやら食事会をするとか。
少し面白かったのが、ダンジョンクイーンのオリジナルグッズを全身にまとってダンジョン攻略を配信する、というところだった。
「グッズか、そういうのも出した方が良いのかな」
そしてこのオフ会というのは面白い。そして何より、そういう会を開いてくれるのが嬉しい。
エカなんかは配信始めたての頃、オフ会を企画してショッピングモールで集まろうと呼び掛けたらしいが、当のエカ本人が遅刻したところ、参加人数0人という記録を打ち立てたとかなんとか。
そういえば、直接かわいいって言われること、リリとか近しい人はともかく、他の人に言われることは少ないな。できるだけ人との接触を避けているからだけれど。
であれば、物は試しだ。
「オフ会、乱入してみようかな」
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