第11話 ダンジョン とは

 そのあとは検査検査検査だった。

 色んな機械で体をスキャンされたり、血液を採取されたり...

 なんか医療っぽい検査だけじゃなく、なんか謎の液体を体に塗りたくられ光を当てられたり。

 リリが来るときに「大き目のTシャツ持ってきて」と言っていた理由がわかった。検査用のシャツを持ってきてという意味だったようだ。

 とりあえず『FUNAMUSHI』と書かれたTシャツを持ってきてそれを着ている。が、志度さんからは何も突っ込みが無くて少ししょんぼりした。

 そして今は、なんか血圧計みたいなものを手に付けられ、何か計測されている。

 と、そんなとき、俺はふと志度さんに尋ねた。


「なぁ志度さん。俺が本当は男だったって信じるか?」

「さぁ。ただダンジョンは未知の事象が多すぎる。半分獣になったであったり、一時的にスライムの姿になっただとか、一時的ではあるが姿が変わったという報告は多数ある。しかし、幼女ちゃんのように性別が変わってしまった、それも永続的なものは初めてだ。しかし無いとは言えないだろう。だがしかし元々幼女ちゃんには興味があった」


 だから幼女ちゃんて。あまり気にしないようにしよう。


「元々興味って。もしかして俺がダンジョンクイーンって呼ばれていたことか?」

「ああ。その通りだ。幼女ちゃんはその正体が判明するまで、NPCと呼ばれていた。そもそもNPCが何か、幼女ちゃんは知っているかい」

「一応は。ダンジョンでは元々、時折人とは思えない、ダンジョンでしか現れない人間が居るって」

「そう。彼らは時折ダンジョンに現れ、時に探索者と助け、時に探索者を襲い、時に探索者と協力する。だがNPC。名前の元ネタはゲームに出てくる、人間が操作していないキャラクター。ノンプレイヤーキャラクターという存在だ。そんな人ではない人のように、彼らが呼ばれたのには理由がある」


 理由。それは俺もなんとなく察しはついている。なぜなら、何度かNPCを動画で見たことがあったからだ。


「人ではない雰囲気をしていたからだよな」

「わかっているじゃないか幼女ちゃん。そう、彼らは明らかに人ではない。人らしく振舞い、人と同じ外見をしている。人種も様々。年齢も様々。表情豊かで、人にしか見えない。それなのに、どこか異質だ。特にその瞳。まるで、瞳に光が入っていないように感じるのが、最たる例だろう。そして時折動画に映っていた幼女ちゃんも、そのように見えていた。特にダンジョンクイーンとして話題になった初期のころは」


 確かに。俺がダンジョンクイーンと呼ばれてると聞いて色々な動画を漁った。俺がこの姿になってダンジョンで活動を始めた5カ月前、その時探索者を救った際に撮られていた動画で、俺はどこか、瞳に光の無い、まるでNPCと呼ばれる存在に近かった。だが、最近撮られた動画などでは、ちゃんと人である雰囲気をしている。その理由は俺にもわからない。5か月前から今まで、俺には特に変わりは無いはずだ。


「しかしリリから幼女ちゃんの話を聞いたときは幸運だった。まさかここまで面白い材料だとは」

「材料て」

「幼女ちゃんは研究しがいのある存在だよ。仮に幼女ちゃんが元は男性だったとして、変身したのか、それとも若返りと性転換か。その理由を解析、再現することが出来れば、多くことに役立つだろう。それこそ、病が発病する前に若返らせるであったりね。さて、失礼」

「え」


 血圧計から何か刺されるような痛みが。そしてすぐにその痛みが引く。

 志度さんは近くのディスプレイに目を移すと。

 

「なるほど、1~2針は縫う傷を負わせたが、確かに回復魔法無しで、それも地上ですぐに治癒する。だが、鱗は現れない。聞いていた話とは違うな」

「...事前に言ってください」

「なに、その装置には回復魔法を発動する仕組みを組み込んでいる。地上とはいえ、少し時間はかかるが1~2針程度ならすぐ完治させられる」


 そうしているうちに今の検査が終わり、次の検査へと入る。次は何か診察台のようなものに寝かされ、そのまま体が大きな機械の中に運ばれていく。体に色々な光が当てられている。なんというか、全身をスキャンされている感覚だ。


「さて幼女ちゃん。これには時間を要するからちょっとした雑談だが、幼女ちゃんはダンジョンについてどう思う」


 機械の外から声が聞こえる。何かタイピングやら機械を操作する音が聞こえる。


「ダンジョンか...俺にとっては生活、と言っていいかな」

「生活。そう。今やダンジョンは、我々人間にとって身近な存在になっている。それも、多くの国々でね。世間一般的には、ダンジョンの産物を人間が利用、つまり、ダンジョンを人間が利用しているといわれているが、私はそう思っていない」

「ならどう思っていると?」

「人類がダンジョンに操られている。そう考えているよ」


 ダンジョンに操られている? それも人類が?


「ああ。考えてもみたまえ。足を踏み入れることで、頭に得たことのない知識、【クラス】と呼ばれる戦闘に必要な知識が浮かぶ。そしてクラスに付随した能力、【スキル】は、ダンジョンで使えば使うほど成長していく。ダンジョンの奥には、新時代のエネルギー源であるクリスタルや、未知のオーパーツ。人々の好奇心を刺激するのに、必要要素があまりに整いすぎている」


 好奇心が刺激される。そう、多くの人は、ダンジョンへの好奇心で足を踏み入れる。

 ダンジョンの外ではうだつの上がらない凡人が、ダンジョンの中でクラスとスキルを得て活躍し、ダンジョンにのめりこんだ結果、【ダンジョン依存症】なんてのが社会問題になっていると聞いた。

 

「それにだ幼女ちゃん。当初ダンジョンが現れた際は、各国がその存在を秘匿し管理していたとは聞いただろう」

「それは常識みたいなものだ。大規模ダンジョン事故で多大な被害が出たことで、一般に認知され、国際的な基準が設けられたとか」


 国際的な基準。一応ルールとしては分厚い冊子レベルの長文らしいが、簡潔にすると非常にシンプル。

 ダンジョンには誰が入ってもいいが、完全な自己責任。命を失っても、誰も恨んではいけない。


「そうだ。そしてダンジョンには大人数で徒党を組んでは入れない。必ず少人数でしか入れない」

「それも昔は普通に大人数で入れたのが、ある時突然入れなくなったと聞いたはず」

「面白いことにね。不思議とダンジョンは変化している。それも、多くの人が足を踏み入れるよう、多くの人が魅力に感じるように。一部ではダンジョンの常識が変わることを、『ルール改訂』なんて呼ぶ輩もいる」


 多くの人が魅力に感じるように、か。それで言えば。


「俺がやっているダンジョン配信なんかもそうか」

「それも正にだ。ダンジョン探索は生き死にが関わる。そんなものを配信するなぞ御法度だった。配信したアカウントはすぐに配信停止、いわゆるバンをされた。配信者が死ぬシーンも少なくない。かつては大問題になったものだ」


 ダンジョン配信が流行り始めたのも、この7年ほど。まだ成人したてだった俺も、当時の騒ぎは覚えている。

 でも、ダンジョン配信やダンジョン動画は廃れるどころか、どんどん盛り上がっていった。だからこそ俺も視聴したり、解説動画投稿をしていた。仕事が忙しくなってからは動画投稿のみで視聴をあまりしなくなっていたが。


「俺もよく覚えてる。ダンジョン配信者に限って、面白いことが起こるんだ。巨大なクリスタルを見つけただと、大ボスに出会っただとか、それこそNPCに出会ったとか」

「元来手に汗握る人の生き死にはエンターテイメントとなっていた歴史がある。それこそ、そういったものを受容した配信サイトが現れ、それに元々あった動画サイトが後追いし、今となってはダンジョン配信者の生死はエンターテイメント化しただけではなく、多様なダンジョン配信スタイルが生まれている」


 そういう意味では、ダンジョン配信が流行ったのも、ダンジョンの...なんというか、意志だったり?

 いや、なんというか、陰謀論みたいな思考になってきたな。


「しかし、ダンジョン産のオーパーツを含め研究している私は感じるよ。ダンジョン外での武器取り扱いが問題になれば、【ダンジョンの外で武器を使用できなくする機構のあるオーパーツ】が発見される。それを私が研究し、一般に流通する。まるで、ダンジョンに突き動かされているようだ」

「突き動かされているような感じか...でも、じゃぁなんで研究とか辞めないんだ?」


 すると、近くからフッ、と小さな笑い声が聞こえ、志度さんは答えた。


「楽しいからだよ。何せ私のクラスは【エンジニア】だ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る