第12話 緊急配信開始
その後、一通りの検査を終えて、俺は元のリリが居る部屋へと返された。
エンジニアってクラス、噂は聞いていたが、実在するとは。ダンジョン産の機械とかの扱いが得意になるクラスらしいが...でも志度さんって、確か医療とか他様々な分野でもめっちゃ功績のこしていたはず。
しかも先ほど、そこまでになるのにどれだけ勉強したかを聞いたら、帰ってきたのが。
〇〇〇
「感覚だ」
「え」
「故に私は説明が苦手でね。許せ」
〇〇〇
という返事。なんというか、感覚で物事を理解し、感覚を文字に起こし、一般化するタイプらしい。
にしても、ああいう人って変わり物が多いイメージだったが、案外普通というか、話しやすい人だったな。
「あ、お帰り!」
部屋に戻ると、リリに出迎えられる。部屋にはリズィさんはいなかった。
「ただいま。ちょっと小腹が減ったな...戻るとき志度さんに『冷蔵庫の中のものは適当に食べてくれ』って言われたな」
リリが笑いを押さえるような表情をしている。
最初に通されたこの部屋は、一応志度さんが主に利用している休憩室でもあるらしく、冷蔵庫や大量のケトルが並べられている。
そこに置いてあった冷蔵庫を開く。志度さんかなり稼いでいるみたいだし、なんかいいもの入ってたり...って。
中に入っていたのは、大量の総菜パック。パックの中に入っているのは、キュウリを白米と海苔で巻いたものばかりで...
「全部かっぱ巻きじゃねぇか!」
「あははははは! 志度さんかっぱ巻きばかり食べるからね! キミの反応も予想通り! グラシオソ(笑っちゃう)!」
変わったところ、やっぱりあったな...
と、そういえば。
「リリは志度さんとどうやって知り合ったんだ? 顔見知りみたいだが」
「んー、志度さんって、興味が出たダンジョン探索者の人たちに声かけてるみたい」
「それまたなんで?」
「なんかその人の特徴を見て、インスピレーションが沸くときがあるんだって。だから声をかけて武器を作ったり、道具を作ってくれたり」
へぇ、意外と優しいというか、探索者に距離が近いんだな。
「それで使ってもらっていいデータが取れたら、量産化して稼ぐって」
ちゃっかりしてんな。
「実はアタシも作ってもらってるところなんだ。知り合ったのは三か月前くらいかな」
「にしては親しいように見えたな」
「なんか淡々として、話やすいよね。それで、今回キミの話をしてみたら、ぜひぜひ連れてきてほしいって言われたんだ」
なるほどなー、と話していると、ちょうど志度さんが扉から現れた。
「待たせたね。キミの検査結果は後日連絡しよう。それと、キミに合う道具や武器も作っておく。後日キミの家に送るから、待っていてほしい」
おお、俺に合う道具や武器か。どんなものかは気になるが、助かる。
「俺の検査結果は後日か...今の時点でわかることは無いか?」
「そうだな。高い治癒能力を持つが、身体年齢が6~8歳程度、身体能力も年齢程度ということくらいだよ幼女ちゃん。一応急ぎDNAも検査してみたが、幼女ちゃんの元の姿という男性とは、一致は全くしなかったよ」
つまり、俺は元の体とは全く違う存在になっている...てか思ったより若い。通りでこれほど小さいわけだ。
「幼女ちゃんのダンジョンでの問題はリリから聞いている。検査の結果から、幼女ちゃんに向いたダンジョン用武器を作る予定だ。幸い沸いたインスピレーションの実現には、時間はかからなそうだ」
「えー! いいなーキミ! アタシのは作るのすごく時間かかってるのに」
「リリ、君のは少し厄介なのだよ。沸いたインスピレーションが高難度なものだった。だが完成間近だから少し待っていてほしい」
いや、実際俺の今の問題点が解決すると助かる。
「さて、俺はこれで検査やら何やらは終わりかな? いい時間だし、そろそろ帰りたいが」
この体になって困ったことが一つ。夜遅くまで起きているのがつらくなったことだ。そのため家に夜8時にはいないと、割と眠気でその後の行動がつらくなる。
俺がリリに帰宅を促すと、リリは何かを思い出したかのように、志度さんに話しかけた。
「あ、志度さん! あの件どうなりました?」
「あの件か。もちろん既に準備はできているよ。幼女ちゃん、君の配信で使っているスマホを貸してほしい」
あの件? なんの話だろうか。俺は言われるがまま、配信用のスマホを渡した。
「キミなんで配信用のスマホを持ってるの?」
「俺の私用スマホポンコツだから...実質リリからもらったこれを、私用みたいに使っている」
ってあれ、リリがこう言うってことは、志度さんがスマホを使うのはリリの意志ではないってこと?
「さて、幼女ちゃんのスマホでの配信準備が整った」
え!? 待って待って。なんで志度さんは俺の配信用スマホで配信しようとしてるんだ!? それにスマホのロックは!?
なんて考えていると、志度さんは眼鏡の位置を直しながら。
「ハッキングした」
さすがはクラス、エンジニアですね。じゃなくて!
「なんで配信準備を」
「何、配信でちょっとした嘘をつくだけだ」
「嘘を!? 一体何をするつもり...」
と志度さんに問い詰めようとしたら、そのまま志度さんに抱き寄せられた。ちょうどリリが画面に入らないよう、志度さんは俺と一緒に自撮りをするように、スマホを手にしている。
「さて配信開始」
「志度さん!?」
スマホ画面内の配信ボタンを押す志度さん。今回は何も動画配信告知も何もしていないが、すぐに動画の視聴者が増えていく。
『配信と聞いて』
『なんか急に配信はじまった』
『ダンジョンクイーンちゃんと、え、誰!?』
『誰よその女! ですわ!』
『だからコメントに現れるお嬢様が一番誰なんだよ』
な、なにを喋れば良いんだ。と俺が悩んでいると。
「さて、突然の配信すまない。私の名前は志度イケヤだ」
『えっ!? 志度イケヤって、あのクリスタルで動くエンジンを開発した!?』
『まじかよ人前に姿現すこと今までなかったろ!』
『でも間違いない。前にニュースで見た学生時代の写真、めっちゃ似てる!』
『なんでダンジョンクイーンと一緒に!?』
『わけがわからないよ』
画面上では混乱する視聴者たち。俺もわけがわからないよ。
だが、このあと志度さんが発した言葉が。
「えー、ダンジョンクイーンは私が作った人工人間。ホムンクルスと呼ばれたりするもののようなものと思ってほしい。私が作った存在だ」
「え!?」
もっとわけがわからなかった。
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