第13話 新武器と制服

『え?』

『え!?』

『え!??』

『え!!??』


 コメントと俺の声がシンクロした。

 いやいやいやいや、人工人間!? ホムンクルス!? 何を言って...


「故に彼女には人権は無い、が、私の所有物だ。既に各所に連絡して、彼女が人間と同様の権利を有しつつ、ダンジョンへの探索も問題なく行えるよう、手配している。実質、私が彼女の母親のようなものだ。だから、彼女のダンジョン配信、気兼ねなく見てほしい。それに、ダンジョンで死んだとしてホムンクルスだ。人間じゃない。気にするな」


 お、おいさらっとひどいことを。

 

「だが彼女は私のものだ。故意に傷つけようものならば、私の力を用いて、傷つけた物を追い込もう。地の果てまでも」

「あ、あの、志度さん...」

「では配信を終わる」


『待って待って、もっと詳しい話を』

『ホムンクルス!? そんなものが実在するなんて』

『でも志度イケヤならもしかしたら...』


 俺が何か弁明しようとしたが、それよりも早く志度さんが配信を切ってしまう。

 志度さんが俺を抱き寄せるのをやめた直後、俺は頭を抱えた。


「志度さん! これはどういう」

「そうですよ! アタシがお願いしたのは、彼の身元を保証してほしいから、保護者になってほしいって言っただけじゃないですか!」


 そうか、リリが言ってた、幼女の姿である俺の問題である保護者が居らず身元が保証されていないのをどうにかするってのは、志度さんにお願いしていたのか。


「リリ、私何か問題でもあるのかい? これで幼女ちゃんは私が保護者となった。それに知り合いの政府関係者にも根回し済みだ。彼女はアキという名前で、ほぼ人間と同じ権利を与えられているよ」

「でもなんで彼をホムンクルスとか、死んじゃっても気にするなとか」

「なぜか? 当然だろう」


 すると、志度さんは俺の前で床に片膝をつくと、右手の人差し指と親指で、俺の頬を挟み込み、持ち上げるようにした


「ぶぇ?」


 突然頬を挟まれて変な声をあげてしまった。


「幼女ちゃんには興味があった。元々保護者にならずとも、存在しない保護者の存在を偽装してあげるつもりではあった。しかし、あまりに面白かった。幼女ちゃんが異質だからね」

「俺が異質って、でも今のところ、俺はただの8歳くらいの女の子なんだろ」

「そう。間違いなくそうだ。だがその言動から間違いなく、幼女ちゃんの思考は男性。それも成人男性のものだ。そしてわかる。これまで姿がダンジョンで変わった事例は無くはないが、幼女ちゃんは特に異質だ」

「わかる...どういう理由で?」


 その異質さというのが何か。その理由が知りたかった。しかし。


「直感だ」


 帰ってきたのは、研究者や科学者、エンジニアにあるまじき返答だった。


「リリ、幼女ちゃんにとっても悪い話ではないはずだ。幼女ちゃんは事実、今や戸籍も保護者も居ない。それに、配信ってのは配信者が特殊であればあるほど、話題になるのだろう? 人工人間、ホムンクルスというのは、中々面白い話題になるんじゃないかい?」


 話題になるどころじゃない気がするが...


「で、でも彼がダンジョンで死んでも気にするなって」

「そうでも言わないと、こんな可愛い幼女ちゃんだ。一部の人間がダンジョンに行くなとうるさいだろう。ああいってもうるさいやからは消えないだろうがね。それにしてもリリ。君は幼女ちゃんを彼と呼ぶんだね。それはつまり、彼をちゃんと男として認識しているということだ」

「え? あ...!」


 リリが顔を真っ赤にした。なんだ? どういうことだ?

 

「な、なんでもないです! 帰ろう!」

「え、待ってくれリリ。おわっ!」


 俺はリリに無理やり背負われた。

 

「幼女ちゃん、身分証など必要なものは後日送るよ」


 という志度さんの言葉を最後に、リリに連れられ俺は志度さんの洋館をあとにした。


〇〇〇


 志度さんの家に行ってから三日後。月曜、じゃなくて火曜日。

 ...会社勤めじゃなくなってから、曜日感覚が狂ってるな。

 それは置いておいて、俺が住むアパートに荷物が届いた。

 

 しかし、志度さんには置き配でお願いするよう話しておくべきだった。

 この姿になってからは、主要な買い物はネットで、届く荷物も置き配で手配していた。

 だから油断して、Tシャツ一枚で玄関に出てしまった。

 気づいたときには時すでに遅し。配達の兄ちゃんは気にしてなかったようだが、俺は恥ずかしくて荷物の受け取りにもじもじしてしまい、時間がかかってしまった。


「さーて、どんなものが届いたかな」


 届いたのはダンボール。綺麗に梱包されている。きっと梱包はリズィさんがしたんだろうなぁ。なんとなくそう思う。

 ダンボールを開くと出てきたのは、まずは小さな包み。


「えっと、これが俺の身分証とかか。名前は、椎名(しいな)アキ...」


 椎名、というのは俺の本名の苗字だ。てっきり志度になると思ってたが、志度さんが配慮してくれたんだろうか。

 アキ、というのは名前がアキトだから、この姿で違和感が無いようにしたのかな。

 保険証に、お、新しい救助隊のバッジや、ダンジョン探索者の免許まである。

 これは助かる。もう男の俺の時のものを使う必要はないし、病気になったら病院にだって行ける。病気になったらどうしようと困っていたんだ。

 

 えーっと次に入っているのは。

 

「これは...! 高級ソボロ!?」

 

 まず最初に出てきたのは。最高級鳥ソボロと書かれたビン。なんでソボロが...

 

「メモがある。何々。【お偉いがたから貰ったけどいらないから食え】と」


 うん。なんでこのタイミングで送ってきたかはわからないが、シンプルに美味そうだ。

 

「ありがたくもらっておこう。で、他にも色々入っているな」


 次に入っていたのは腕輪と、二丁の小型の拳銃。そう、これが志度さんの言っていた、俺のための武器だった。

 実は、あの検査を行った日、俺に合った武器が何かも志度さんと調べていた。


〇〇〇


「なるほど理解したよ。幼女ちゃんは近接系の武器はほぼ扱えず、魔法は無能、と」

「無能言うな」


 あの日、俺は志度さんの洋館の一室で、適切な武器を見極めるべく、武器の並んだ広い部屋で、試しに一通りの武器を扱おうとした。

 結果、近接系はダメ。ナイフですらよほど小型じゃないと、重くて手が震えて持てない。

 魔法を強化する杖系。そもそも俺は魔法とかは全く使えない。クラスはアサシンだし。

 一応、アサシンのクラスを得た時、頭の中で使える武器の種類として銃が浮かんでいた。

 

「では幼女ちゃん。銃を試そう」


 そうして様々な銃を扱ってみたが、結果は以下の通り。

 

 アサルトライフル。重くて持てない。

 

 マシンガン。重い。なんとか持っても反動でまともに狙えない。

 

 ショットガン。散弾なのでバレットマークと相性が良いと期待したが、撃ったら俺の体が反動でふっとんだ。くるりと回してリロードするタイプがあったから回そうとしたら、肩が外れた。

 

 スナイパーライフル。6秒間はじっくり狙わないと当たらないし、小回りが利かない。地面にはいつくばって撃つなら重さは気にならないが、持ってくにはそもそも重すぎ。

 

 迫撃砲。なぜかあった。ダンジョンじゃ天井あって使えない。

 

 ロケットランチャー。持てるはずがない。

 

「で、残りは拳銃か」


 やはり拳銃に落ち着いた。しかし最も小型の拳銃であっても、10発も撃てば反動で手がしびれて辛い。


「ふむふむなるほど。インスピレーションが沸いてきたよ。幼女ちゃんの戦闘スタイルから、必要なのは、狙いを定めやすく乱射も可能な武器だろう」


〇〇〇


 その結果、志度さんが作ってきたのが、この二丁の拳銃だ。

 洋館で使ったものよりより小型。それこそ俺の手で片手で持てるほどだ。それでもそこそこ大きいけれども。

 二丁あるってことは、片方は予備か?


「説明書がある。って字汚っ」


 まるでミミズが這ったかのようにうねった字だ。なんとか読み解いてみると。

 

「何々。腕輪を付けたうえで、拳銃を持つこと、か」


 書かれている通りに、腕輪を付けて拳銃を持つ。すると、淡い赤い光が腕輪から上がる。

 その状態で拳銃を持ってみると。

 

「すげぇ」


 銃の重さを感じなかった。まるで銃の重さを感じないよう、腕輪が補助しているようだった。

 銃を撃ってみたい欲にかられるが、ダンジョン用の武器はすべて魔法によってセーフティーがかかっていて、ダンジョンでしか使えない。これも志度さんが開発した仕組みだったな。

 待てよ。これほど重さを感じないなら。


「できるじゃんか...二丁拳銃!」


 おそらく志度さんの意図としては、元々俺に二丁拳銃をさせるつもりだったんだろう。

 二丁拳銃。間違いなく俺の戦い方に合っている。

 俺のバレットマークの能力上、高威力は不要だ。バレットマークをつけて、そこに当たればほぼ確殺だからだ。

 だからこそ、ショットガンが俺の能力に向いているとおもった。マシンガンもありかとかんがえた。

 ようはたくさん弾を放てば良い。

 二丁拳銃というのがミソで、必要な場合は片方だけ使って狙い撃つ、なんてのも可能だし、なにより俺の手に馴染んでいる拳銃という武器だ。

 

「すごい。これなら今まで以上に戦える」

 

 とは言え、もちろん俺の体は幼い女の子。攻撃をまともに食らえばひとたまりもないから、忍ぶスタイルなのは変わりがない。

 他にも何かないかとダンボールを漁ってみると。


「これは...志度さんにお礼を言わないと」


 他にも複数の道具。武器ではないが、志度さんが作った俺向け、俺サイズの道具が入っていて、俺の戦闘スタイルにぴったりなものばかりだった。

 

「また準備できたらダンジョン配信しよう...お? まだ何か入っているな」


 さらに色々な道具がまた出てくるのか楽しみ、なんて思っていたのだが。


「これって...」


 出てきたのは衣服。それも、なんだか見たことがある服。どこかの学校の制服だ。

 えーと、なんだっけ。前の会社の上司の娘さんの写真見せられたときに着ていたような。どこかの名門女子小学校の制服。それもここから遠く離れてないところにあるものだ。

 さらにダンボールからは。


「女子小学校の学生証と...赤いランドセル...」


 そこに入っていた志度さんからのメモには。

 

「何々。【一応小学校の手配もしたから、行きたかったら行っていい】」

 

 なるほど、なるほどね。


「行かねぇよ!」


 俺は志度さんのメモを床にたたきつけた。

 が、制服に関してはちょっと気になってしまったのも事実で。

 

「絶対に似合うよな、俺に...」


 気づけば、俺は来ていたTシャツを脱ぎ捨て、その制服を身に着け始めていた。もちろん、制服はスカートだ。

 制服を着終えた後、最後に赤いランドセルを身に着ける。

 部屋には小さな鏡が置いてある。そこに映っている俺の姿は。


「...」


 似合っていた。驚くほどに合っていた。紺色と白色のよくある制服ではあるが、今の俺の背丈にぴったり合っている。

 昨今は女子が必ずしも赤いランドセルじゃないとは聞くが、赤いランドセルは俺の瞳の色に合っていた。

 

「あ...」


 我に返る。今この恰好、この姿。誰かに見られたらまずいんじゃ。そもそも俺は男だし、実質こんなの女装だし、恥ずかしいにもほどがある。

 幸いにもここは俺の家だから、誰も来ない。さっさと着替えて...と考えていたら。


「ダンジョンクイーンさん! わたくしが遊びに来ましたわー! ...あら?」


 大声で出しながら、ものすごい勢いよく玄関の扉を開いて入ってきたのはエカ。俺は嫌な予感を察知し、自室のベッドの下に避難していた。

 い、いきなり来るなよほんと。それにダンジョンクイーンって大声で言うなし。俺の住所ばれたらやばいって。身バレは嫌だ。

 さっき荷物受け取った後、玄関の鍵閉め忘れてたか...


「あら? 姿が見えませんわ。今日は配信がないはずですが、外出中かしら?」


 ちなみに、リリとエカはちょくちょく俺の家に遊びに来る。よく向こうの家に招待されるが、出来る限り行かないようにしている。一応、俺成人男性で、向こうは未成年だし。向こうがこちらに来るぶんには...というか押し掛けてくる。

 リリは純粋に遊びに来て、一緒にゲームをしたりすることがあるが、エカはなんというか、俺の家をセカンドハウスにしている節がある。

 にしても今日は火曜だが、エカは学校は大丈夫なのか?

 

「うーん、居ないのであれば仕方ありませんわ。今日はお暇しようかしら」


 そう、それでいい。今俺の、名門小学校の制服を身にまとっている姿を見られるのは勘弁だ。


「あら?」


 まずい。もしかしてベッドの下の俺に気付いたか?

 

「あら、これは鳥ソボロかしら。ちょっと台所からお箸を拝借して...め、めちゃうまですわー!!!! こんなにおいしいソボロを食べたのは、人生初めてですわー! ハッ! 急用を思い出しましたわ! 今日学校でしたわ! でもこのままでは箸が止まりませんわ。ここは...」


 ベッドの下から見える。エカが高級ソボロのビンを、自分の鞄に詰める様子が。

 そしてそのまま玄関の扉を開き、周りに人が居ないこと指さし確認すると。

 

「ヨシ! ですわ」


 と言い残し、俺の家から去っていった。

 脅威が去り、ベッドの下から出る。室内からは、高級ソボロのビンが消えている。


「エカ...ソボロを取り逃げしやがった...あのヨシは許されない...!」


 あの反応、どれだけ美味かったんだろう。

 食べ物の恨みは...怖いぞ。

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