第4話 サウナ。それは甘美な響き

「とうちゃーく! おーい、アタシの背中のダンジョンクイーンちゃん、起きてるかーい?」

「お、起きてるも何も、速すぎ...うっ、酔って吐きそう」


 普通、ダンジョンの外では魔法やらスキルは効果を著しく下げる。だけど、この子は街中をスキルを使うかのごとく全力疾走してきた。

 相当魔法の才能や魔力の総容量が高いのだろう。

 そしてそのハイスピードに背負われながら揺られた俺は、確実に三半規管がくるっていた。

 

「わわわ、ごめんごめん。大丈夫?」

「だ、大丈夫だ...にしてもここは...?」


 周りを見渡せば、そこはどこかのビルの屋上。いや、この絶景とも言える景色。こんな光景が見れる場所は、俺は町中で一つしか思い浮かばない。

 

「...街の東側にあるタワマンの屋上か?」

「そそ! 正解! 実はアタシ、ここに住んでるんだよね。だから不法侵入じゃないから安心して!」

「いや、室内入った感覚なかったけど、どうやってここに連れてきた?」

「壁を走ったよ」


 某ゲームに出てくる音速ハリネズミみたいなことをしよる。髪の色も青だし。

 

「さ、ここならだれもいないよ」


 と、俺に詰め寄ってきた彼女。名前はリリだったか。光輝く希望に満ちた瞳で俺を見つめてくるが、彼女が求めているのは一つ。


「わかった、話すよ。ただ、絶対に秘密にしてくれな」


 と、俺が身の上を話そうとしたときだった。

 ガチャリと屋上の扉が開き、一人の金髪の女性の姿が現れる。


「リリ! 見つけましたわ! やはりここに居ましたのね。どうせあの男が不在だったからいつものここで暇をつぶしてると思いましたわ。ふと気になったからあの男の部屋に乗り込んだら驚きの事実。部屋には小児用の下着や服が! これは事件の予感がしますわ! きっとあのアキトという男はロリコンの犯罪者...」


 とひたすらにリリに話し寄るその女性。リリはニシシと笑顔を浮かべている。

 ふとその女性一瞬こちらを見た。すぐにリリに視線を戻したかと思うと、すぐに俺に戻す。きれいすぎる二度見だ。

 

「おほおおおおお!? ダンジョンクイーン!?」


 もう漫画のようなあとずさり。

 ああ、なんか面倒くさいことになったが、もうしょうがない。これはちゃんとこの子にも説明しないと、話がややこしくなるパターンだ。

 

「二人に話すよ。他言無用で頼む。まず、俺の名前はアキトで...」


〇〇〇


「へぇ、突然女の子になったのかー! 不思議だな!」

「そんな話聞いたことがありませんわ! 何か証拠はありませんの!?」


 一通り説明したあとの二人の反応。とは言っても、話したのは女の子になってしまった、そしてその状態でなんとか生活をしていた、ということだけだ。

 証拠。証拠ね。それが出せないから困っている。だから家族や会社には何も信じてもらえず、こうして一人ひっそり暮らしているわけなのだから。

 

「体の検査とかはしませんでしたの!?」

「外見が変わって保険証も使えないぞ。そもそも女の子になったので検査してくださいって無理だろ」

「そんじゃさ、なんでボロボロのローブなんて着てるんだ?」

「金が無くてまともなものが買えない」


 二人に話していると、金髪の少女の方が俺の方を憐れみの目で見てきて。

 

「ううう、とてもつらい生活を送ってきましたのね...」


 ...なんか既にこっちのほうには信じてもらっているような。

 

「なぁリリさん」

「んあ? エカはちょっとあほだぞ」


 俺が聞こうと思ってたことを既に察知して返した。リリちゃんも面白い言動をするが、頭の回転は速いタイプかもしれない。

 

「んー、状況的に信じれる証拠はないけれど、アタシもあなたを信じるよ。何より足から感じるオーラが、幼女のそれじゃないし」

「足でわかるもんなのか?」

「あら、あなた知らないの? リリは生粋の足フェチでしてよ」


 足フェチってそういうものじゃない気も...

 

「とりあえず、俺の秘密を話した。他言無用で頼む。そろそろお暇しても良いか?」

「えっ、待って待って! まだアタシがあなたに何もお礼できてないじゃん! ダンジョンで助けてくれたお礼!」

「いや、お礼とかはいらな...」

「でもアキト、大変なんでしょ? 突然女の子の姿になって、生活も苦しいって」


 うっ、それはそうだけれど。

 

「いや、でも生活が苦しいことで誰かに頼ったりはできないし...」

「ねぇアキト、キミ甘えるのが下手って言われたことない?」


 甘えるのが下手? んー、あまり言われたことは無いけど。

 

「あなたはアタシを助けた。アタシはあなたにお礼したがっている。もっと色々と頼ってくれていいんだよ?」

「それは...」

「それにこう見えて、アタシは配信者として有名なんだから! それこそ『男に戻るための情報がほしい』とかいろいろあるでしょ?」

 

 う、それは確かに欲しい情報だ。自分なりに調べてはいるが、そもそも女の子になってしまったなんて事例が無い。あったとしても、俺みたいにひっそり隠れてくらしている可能性だってある。

 にしても、配信者か。


「有名ってことは」

「今登録者120万人くらい! ちなみにそこに居るエカは9万人だよ」

「ふふふ、わたくしも有名配信者ですわ」


 9万もすごいけど、120万と比べるとかすんじまうな...

 と考えていると、リリが何かを思いついたかのように言った。

 

「そうだ! 今のキミの困っていることを全部解消する方法があるよ!」

「え、ほんとか!?」

「そう! 配信! キミも配信で有名になろう! そうすればサウナ付きのこのタワマンにだって住めるようになるよ!」

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