クリスマスイブ

12月24日

クリスマスイブ

街は恋人達で賑わう。

LacocoもKiritoも入り口に大きなツリーを飾りクリスマスの雰囲気を醸し出している。


「涙さんは今日はデートですか?」


――デート?そんなの無いわよ。


「あたし、今日は彼が迎えに来てくれるんです♡」

「え!?彼氏できたの!?」

「はい♡この間のマスカレードパーティーで声かけられちゃいました♡」


未有は嬉しそうに言う。


「ほんとに?やったじゃない。未有ちゃん。」

「はい。人生初の彼氏です。」


涙は羨ましかった。

笑輝からの友達宣言を受けてから1ケ月近く経とうとしているが、まだ笑輝への思いを断ち切れずにいた。

それどころか、ますます思いは強くなっていく。

涙は、あの亡くなった老人と出会ってから、自分の中の変化に少し戸惑っていた。

自分の為に貢ぎ、愛していない男から愛される。それが最高の快感と、幸せだったはずなのに、老人の母親の夫への愛、老人の妻への愛が、理解できないのに、少し理解できるような、よく、わからない感覚だった。


「それにしても、今日はなんか寒くない?」

「え?まあ、寒いといえば寒いですけど・・・特別って事は無いです。」

「そう・・・なんか、ゾクゾクする。」

「え〜!涙さん、熱あるんじゃないですか?ちょっと待っててください。」


未有は事務室から体温計を持ってくる。

計ってみると、38度2分ある。


「大変じゃないですか。涙さん帰ります?」

「そうね、未有ちゃん、お願いできる?」


「タクシー呼ぶ?」

「大丈夫です。歩いて帰れます。」


オーナーが心配するが、涙は着替えて歩いて帰る事にした。

階段下まで未有が見送る。


「ほんとに大丈夫ですか?何かあったら連絡してくださいよ。」

「大丈夫、ありがとね。」


少し赤い顔と涙目で、涙はゆっくり歩く。


だが、少し歩いたところで、だんだんと気分が悪くなってきた。


――どうしよう。引き返そうか・・・でも、引き返すのもつらい・・・タクシー呼ぼうか・・・


「おい。大丈夫か?」


ふらつく体を誰かが支えてくれた。

阿川だった。


――しん


「大丈夫か?なんかふらついてないか?」

「ありがとう・・・ちょっと体調悪くて・・・」


涙は息が上がる。


「とりあえず、送ってやるから車乗れ。」

「ありがとう・・・」


阿川は涙を支えながら道路脇に止めてある車の助手席に座らす。


「かなり辛そうだな。熱は?」

「38度・・・」

「キツイな、それは・・・」


阿川は車を走らせた。


Kiritoでは、笑輝が涙の様子を気にしていた。

未有に支えられて降りてくる姿をたまたま見かけたのだ。


阿川は、マンションの来客用の駐車場に車を止めて、涙を部屋まで連れて行く。

涙はカードキーでドアを開ける。


「入っていいか?」


涙はうなずく。


阿川は涙のコートを脱がせ、ベットに寝かせる。

体温を計ると38度9分まで上がっていた。

息も荒く辛そうだ。


「解熱剤あるか?」

「そこの・・・引き出しの中に・・・」


阿川は引き出しを開け、薬を飲ませる。


「しばらく居るから安心しろ。」

「ハァハァ・・・ありがとう・・・」


阿川は部屋の中を見渡す。

20代の女の1人暮らしとは思えないほどの豪華な部屋だ。


―――いったい、コイツはどんな生活をしてるんだ・・・


阿川は涙が心配になった。


夜になり、笑輝は仕事を終え帰り支度をする。


「お疲れ。みっ君、ドライブ行く?」


今日はクリスマスイブ。

笑輝と粧子は友達以上、恋人未満の関係だ。


「お互いフリーだし、ぼっちのイブは寂しいじゃない?」


笑輝は少し考える。

涙の事が気になって仕方ない。


「ごめん。ちょっと用事ができて・・・。」

「え?そうなの?何よ用事って。まさか彼女ができたの?」

「そうじゃないって。」


笑輝は着替えて店を出る。


――涙、体調悪そうだったけど、大丈夫かな。


ラインを送るが既読が付かない。

笑輝は涙のマンションまで来た。

ちょうどその時、コンビニでドリンクを買って来た阿川がマンションに戻って来た。


「あ、キミ。」

「はい?」


阿川に声を掛けられ、笑輝は驚く。


「キミ、美容のイベントに来てたよね。」

「あ・・・はい・・・」

「僕、あのイベントの企画をした会社の者です。」

「あ、そうなんですか。」


笑輝は会釈をした。


「涙の隣のブースだったよね。知り合い?もしかして彼氏?」

「友達です。彼氏じゃ・・・ないです。」


阿川は、笑輝の顔をじっと見る。


「もしかして、笑輝君?」

「え?はい・・・」

「そうか、なら丁度良かった。」


阿川は、笑輝に部屋の鍵とコンビニのドリンクを渡す。


「はい?」

「代わりに行って来て。涙のとこ。」

「俺がですか?」


――てか、なんだよ。この人。涙とどういう関係なんだよ。


「涙、うなされながら、キミの名前呼んでたよ。何度も。」

「・・・・」

「あ、俺、涙の幼馴染なんだよ。俺、彼女待たせてて、もうそろそろ行かないとマズかったから。」


笑輝は結局、阿川に頼まれ涙の部屋に来る事になった。

カードキーでドアを開ける。


「涙?俺だけど、大丈夫か?入るぞ。」


玄関を上がると、涙がトイレの前で座りこんでいた。


「涙、大丈夫か!?」


驚いて声をかける。


「笑輝・・・どうして?」


笑輝は涙を抱きかかえベットに寝かせた。


「すごい熱だ。ドリンク飲むか?」


涙は頷く。

笑輝は、ペットボトルにストローを差し、飲ませた。


「ありがとう・・・。」


涙は潤んだ目で笑輝を見る。


「昼間、体調悪そうな涙を見て、心配で来てみたら、マンションの外で男の人に、これ持って行くように言われて。」

「ありがとう・・・」

「ゆっくり休めよ。安心しろよ。今日はずっと居るから。」


そう言いながら涙の前髪を優しく触る。


「今日はクリスマスイブだから。」


笑輝は微笑む。


「ずっと一緒にいよう。」


涙も微笑んで頷いた。





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