仮面舞踏会の夜
年末に近づき街はクリスマスムード一色になっていた。
あるイベント会社がホテルを借りてクリスマスイベントを企画している。
未有が友達に誘われたという『マスカレードinクリスマス』仮面舞踏会だ。
取り仕切っているのはチーフプロデューサーの阿川
「音楽、そうだね、OK.それくらいの音量でいいかな、伊藤さんマスクの準備はどう?」
「任せて下さい。」
受け付け担当の伊藤さんは箱を開け、大量の仮面を見せた。
「バッチリだね~。」
阿川はマイクを持つ。
「みんな、お疲れ様。準備も問題なく順調に進んでるみたいで、安心しました。明日は300名近くのお客様が入られる予定なので、みなさん、がんばりましょう。よろしくお願いします!」
阿川はタバコを吸いに敷地外に出る。
「お疲れ様。」
チーフマネージャーの中村喜佐子30歳。
「3年ぶりの仮面舞踏会開催ね。」
「ああ、ようやく開催できるようになったな。」
「毎回、この舞踏会が出会いの場になって、何組かのカップルが成立してるものね、主催者として、やりがいあるわね。」
毎年結婚相談所から以来を受けてこのイベントを開催してきたが、新型ウイルスの流行で中止になり、約3年ぶりに開催する事ができた。
イベント会社としても力の入るイベントだ。
じつは、このイベント会社は、涙達が参加した美容関係のイベントもてがけていた。
チーフプロデューサーの阿川は各界で名のしれた人物であり、幅広い人脈を持つ男だった。
マネージャーの中村は、そんな阿川から信頼されるパートナーだ。
今回のイベントは、結婚願望関係なく、出会いの場として多くの方に楽しんでもらう事がテーマだ。
受け付けの伊藤は未有の高校の同級生。
彼女を誘ったのは伊藤だった。
時刻は夜の9時を回り、準備を終えた社員達は、みんなホテルを出た。
「じゃあ、みんな明日は午後3時に集合で、お願いします。お疲れ様でした。」
「お疲れ様でした―!」
中村の挨拶で解散した。
ホテルの違う駐車場、阿川は愛車のBMWのエンジンをかけ、誰かを待っていた。
「おまたせ。」
助手席のドアガ開き、乗り込んだのは、未有の友人の伊藤だった。
伊藤明日香20歳。
「お疲れ、明日香。」
チュッ
阿川は明日香に軽くキスをする。
「もう、人に見られたらどうするんですか。」
明日香は、恥ずかしそうに睨む。
「ごめん。つい。」
2人はつき合いだして、まだ3ケ月のラブラブカップルだ。
10歳の年の差はあるが、明日香の人懐っこい性格と、美人とは言えないが愛嬌のある笑顔が阿川の仕事人間の顔を忘れさせてくれる癒やしになった。
明日香もまた、阿川の大人の色気と、仕事に対する姿勢に恋心を抱いた。
阿川と明日香は、フレンチのお店に入る。
「明日のマスカレードパーティー、高校からの友達が来てくれるんです。職場の先輩をさそって。」
「そうなんだ。」
阿川はワインを飲む。
「なんか、すごい綺麗な先輩らしくて、最初は誘うのをためらったみたいなんですけど、
1人じゃつまらないし、なんか場馴れしてそうな雰囲気があったから誘ってみたらOKしてくれたみたいで、楽しみにしてるみたいです。」
「そっか、じゃあ、余計に、皆さんに楽しんでもらう為に、俺らも頑張らないとな。」
「はい。」
明日香はニコッと笑う。
「こちらへどうぞ。」
ウエイターに案内され、一組のカップルが明日香の後ろを通った。
50代くらいの会社社長っぽい雰囲気の男と、ライトベージュのゆるくウェーブのかかったスタイルの良い女性。
顔こそ見えなかったが、気品に満ちた姿に、阿川は目を奪われた。
「阿川さん?どうしましたか?」
阿川はふと我にかえる。
「ああ、いや、なんでもない。」
2人は食事と会話をたのしんだ。
翌日、仮面舞踏会会場――――
「さあ、そろそろ開場時間です。それぞれ皆さん持ち場に着いて、お客様をお迎えしましょう。」
中村が言うと、みんなそれぞれ持ち場についた。
明日香も受け付けに着き、来場客に渡す
午後5時。
開場のドアが開き、1人1人仮面を手渡されて、係員に案内され、会場入りした。
「明日香!」
「未有〜来てくれてありがとう。どれにする?」
未有は仮面を選ぶ。
明日香は、隣に立つ涙の姿に思わず息を飲んだ。
――綺麗な人・・・
「あ、こちら、職場の先輩の及川さん。」
「はじめまして。」
微笑む涙に、明日香は照れる。
―――女同士なのに、なんか照れちゃう。
「こっちは、高校からの友人の伊藤です。」
「今日は楽しんで行って下さいね。お好きな物をお選び下さい。」
「ありがとう。」
涙は仮面を1つ選び、早速つける。
「かっこいい〜・・・」
未有と明日香が同時に言う。
涙はコートを脱ぎ、太ももまでスリットの入った黒のロングドレス、ゴールドのハイヒールで、会場にいた全ての客の目をひいた。
阿川は会場内を見て周る。
そこへ、涙の姿が目にとまった。
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