涙ちゃん

涙の周りに、数人の男達が寄ってくる。


「シャンパンはいかがですか?」

「ありがとう。」


涙はシャンパンを受け取る。


「お一人ですか?」

「いいえ。職場の後輩と一緒です。」


涙は声をかけてきた男性と会話を交わす。


「こういうパーティーへの参加は始めてですか?」

「ええ。初めてで、とても緊張しています。」


涙は仮面越しに微笑む。

仮面越しでも彼女の美貌は伝わる。

男はどうしても涙を誘いたかった。

男は会社を経営していてバツ1。

新しい出会いを求めてパーティーに参加したらしい。

涙は、失恋と老人が亡くなった事の辛さを紛らわす為に新しい男を探していた。

だが『愛人』に自分の素性を話すわけにはいかない。ここでは適当にあしらい、楽しんで終りだ。


「テラスに行きませんか?」


涙は男とテラスに出た。

真冬の夜風は、ドレス姿の涙には肌寒い。

男は上着を脱いで涙にかけた。


「この後、一緒に飲みませんか?」

「ごめんなさい。後輩がいますので。」

「残念です。マスク越しでも、あなたの美しさがわかる。こんなに美しい女性に出会えたのは初めてです。」


男性には最高の口説き文句だったかもしれないが、そんな事は言われなれている。

涙はなんとも思わない。

適当に笑顔であしらう。


「恋人は・・・いますか?」

「いません。」


男の問いかけに秒で答える。

涙は初めての失恋から、なんともいえない孤独感と虚しさを感じていた。

あんなに自分に自信があり、世界中の男は自分のモノだと思っていたのに、たった1人の年下の男にフラレただけで、こんなになるとは思っていなかったし、認めたくなかった。


「よかった・・・」


涙はなんだか、変な気分だった。

あきらかに自分に好意がある男が目の前にいるのに、常に笑輝の事を考え、胸が苦しくなる。


「すみません・・・ちょっと気分が悪いので・・・」


涙は部屋に戻り、ロビーに出る。


――なんでだろう・・・あたし。なんでこんなに笑輝なんかを引きずるの・・・


「大丈夫ですか?」


ソファに座る涙に、阿川が声をかけた。


「少し気分が悪くて・・・。でも大丈夫です。」

「そうですか・・・お水をお持ちしますね。」


阿川は受け付けの明日香に水を持ってくるように頼む。


――はぁ。あたしってば何やってるんだろ。情けない。


「今、お持ちしますので、ラクにしててください。」

「ありがとうございます。」


涙は仮面を外した。


阿川は涙の素顔を見て驚く。


「お待たせしました。お水と、ブランケットをお持ちしました。」


明日香は、水を渡し、ブランケットを膝に掛ける。


「伊藤さん、ありがとう。もう行っていいよ。」

「はい?」

「少し席を外してもらっていいかな。」

「え?はい・・・」


明日香は少し怪訝な顔色をしながら、会場内に入って行った。


阿川は、涙の隣に座る。


「もしかして、涙ちゃん?」

「!?」


涙は驚いて阿川を見る。


――誰だっけ。


「俺。わかる?阿川深。小学校の時、隣に住んでた。」


――阿川・・・深・・・?


「深くん!」


――思い出した!深君、隣の2つ上の!


「やっぱり、久しぶりだな!」


阿川は嬉しそうだ。


「深君、懐かしい。元気だった?」

「おう。元気元気。まさかここで合うなんて、あ、調子悪いんだよな。」

「大丈夫。ビックリして、そんなの吹き飛んだ!」


涙も幼馴染との再会に、嬉しさを隠しきれない。


「ここへは1人で?」

「ううん、職場の後輩に誘われて。さっきのお水持って来てくれた子の友達よ。」


久しぶりの再会に会話が弾む。


「改めて飲みに行かないか?俺のライン教えるよ。」

「うん。行く行く。あたしも教えるね。」


2人はラインの交換をした。

明日香は2人の様子を遠目に見て面白くなかった。

仮面舞踏会は大盛況に終り、涙はマスカレードクィーンに選ばれた、。


「涙さん、今日はお付き合い頂いてありがとうございました。すっごく楽しかったです。」


タクシーの中で未有は満面の笑みで感謝する。


「こちらこそ、誘ってもらえて嬉しかった。賞品で一万円の商品券まで貰っちゃったし。

これでまた今度ランチに行こうか。」

「いいんですか!?嬉しい!」


未有は喜ぶ。


タクシーが未有の自宅前に着き、2人は別れた。

涙を乗せたタクシーが信号待ちしていると、隣りにあるBNWが止まった。

隣を見ると、阿川と明日香だった。


――ふうん。そういう事ね。


涙は思った。



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