怖い男
「増田医師?いるわよ。あまり接する事はないけど、心療内科の医師だけど、どうかした?」
「俺の友人の友人が入院してるんだけど、その子に友人の事をイロイロ聞き出そうとしてるみたいで。ちょっと困ってるんだ。」
笑愛は驚いた様子だった。
「そうなの?わかった。でも増田さん、あたしよりかなり上だから、直接は言えないから、上司に伝えておくね。」
「ありがとう。」
「あ、それと、たまには実家に顔見せなさいよ。母さんが寂しがってるわよ。」
「最近、忙しかったからな。わかった。近々行くよ。」
笑輝は笑って電話を切った。
◇◇◇◇◇
春川家の食卓
「そう。久しぶりに笑輝が電話してきたのね。元気だった?」
笑輝の母が食事をしながら笑愛に尋ねる。
「元気そうよ。電話は個人的な頼まれ事だったんだけどね。近々、顔出すって言ってたわよ。」
「ほんとよ、あの子ったらちっとも顔出してくれないんだもの。男の子って、そんなものなのかしらね、寂しいわ。」
母は拗ねたように言う。
「仕事が忙しいみたいだから仕方ないわ。」
笑愛は笑輝をフォローする。
「仕事が忙しいのは良い事だ。笑輝も少しづつ頼りにされるようになってきたんだろう。」
父がワインを飲みながら言う。
父は春川総合病院の医院長だ。
「お父さん、もうすぐ病院のイベントもあるんでしょう?少しでも患者さん達が前向きになってくれるといいわね。」
「長期入院の患者さんは、どうしても気持ちがマイナスにいってしまいがちになるからな。気分転換して少しでも前向きになってもらえばいいんだがな。残念ながら、全員を元気に退院させてあげる事はできないからな・・・」
「そうね・・・」
「あ、そうだ、お父さん。」
笑愛が思い出したように言う。
「心療内科の増田医師が入院中の患者さんに、その方の知り合いの事を聞き出そうとしてるみたいで、患者さんが困ってるみたいなの。なんとか、ならないかしら。その聞き出そうとしてる方が、笑輝の知り合いみたいで
その事でさっき電話があったの。」
「増田君が?そうか、わかった。」
母が箸を止め父に尋ねる。
「増田さんって・・・とくに問題行動の無い、真面目な方よね。一体どうしたのかしらね。」
「そうだなぁ。まあ、何か理由があるかもしれないから、きちんと話をした方がいいな。」
父は答える。
「ありがとう。お願いします。」
◇◇◇◇◇
――ああ、入院生活もそろそろ飽きてきたわ。
未有はベットから空を眺める。
みんな、いつもどおり仕事してるよね。
早くあたしも職場に戻りたいなぁ。
コンコン・・・
ノックをされ、カーテンから看護師が入ってきた。
「佐々川さん、体調どうですか?」
「変わりないです。」
「そうですか、良かったです。もうすぐ春川先生みえますからね〜。」
看護師は血圧を計る。
「大丈夫ですね。じゃあ、先生がみえるまでお待ちくださいね。」
「は〜い。ありがとうございます。」
未有はまた空を見た。
しばらくすると、また
コンコン
――春川先生だ。
カーテンが開くと、増田医師が現れた。
「佐々川さん、いい加減に教えてくださいよ。お見舞いにくる美女の事を。」
――なんなのこの人、しつこいなぁ。
「人の事を勝手にペラペラ教える事はできません。」
増田医師はため息をつく。
「そうですか・・・こんな事はしたくなかったんですが・・・」
増田医師は、未有の首に手を伸ばす。
「失礼します。」
シャッと強くカーテンが開いた。
「佐々川さん、体調はどうですか?」
笑愛だった。
増田医師は急いで出て行く。
その後ろ姿を笑愛は睨む。
「大丈夫ですか?」
「は、はい。先生、あの人いったい・・・」
笑愛は他の患者に聞こえないように小声で言う。
「大丈夫、今のやり取りは聞いてました。上に報告して、きちんと処分してもらいますから、心配しないでください。」
笑愛はそう言うと病室から出て行った。
「もしもし?あたしだけど。」
仕事が終わり、笑愛は笑輝に電話をかける。
「増田さん、誰かに借金してるみたいで、今回の事に協力したらチャラにしてくれるって言われてたみたいで、断れば借金の事を病院に言うって脅されてたみたい。」
「マジで・・・そんな事、ほんとにあるんだな。」
「真面目な方だから、あたしも驚いたわよ。
で、お父さんにも話したんだけど、とりあえず2週間自宅謹慎してもらって、その後の事は、これから決める事になったから。
佐々川さんも、警察に届けるまではしないって言ってくれてる。」
「そうか、ありがとう。」
「でも・・・あなたの友人、そんな変な奴に目をつけられて大丈夫なの?」
「・・・・そうだな、気をつけるように言っとくよ。」
「交友関係に口は出しちゃいけないかもしれないけど、友達は選んだ方がいいわよ。
こんな言い方失礼だけど・・・」
笑輝は返事が浮かばなかった。
「とりあえず、ありがとう。また連絡するから。」
そう言って電話を切った。
笑愛の言う通り、何故、涙はそんなヤツと関わったのか、笑輝は心配になった。
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