子供な二人

カタカタカタカタ・・・


明日香は仕事に集中する為に資料をパソコンに打ち込む。

その様子を深は気にしていた。


休憩時間、明日香は給湯室にコーヒーを入れに行く。


1人でお湯が沸くのを待つ。


給湯室の引き戸が開くと、深が入ってきた。

明日香は深に気づきながらも背を向けたまま黙っている。


「なんかあった?」


深が尋ねる。


「何がですか?」


明日香は冷たく答えた。

深は後ろから、明日香の腰に手を回して優しく抱きしめる。


「疲れてる?なんか様子がおかしい。」


深は抱きしめながら、囁く。


「べ、べつに、おかしくないですよ。

てか、人が来たらどうするんですか!」

「大丈夫だよ。つぎは会議だから、みんな会議室に移動してる。」

「・・・・」

「どうしたんだよ。言ってみて。」


明日香は少し考える。


「涙さんの事です。」

「涙ちゃん?」


以外な答えに深は驚く。


「涙さんと深さんの関係が気になります!」


深の手をほどきながら、明日香は振り返って言った。


「関係って、別に・・・昔隣にすんでたってだけだけど。」

「でも!それにしても、深さんを見るなり、なんか、嬉しそうっていうか、馴れ馴れしいっていうか、気になっちゃうんです!あたし。」


深は驚いたが、すぐにイジワルく笑う。


「なんだ、ヤキモチか。」

「違います。そうじゃないけど、気になるんです。」


顔を赤らめる明日香を、深は愛しく思った。


「仮面舞踏会の時も、なんかすごく親しそうに話してたし、クリスマスイブの待ち合わせに遅れて来たのも、あれ、ほんとに仕事だったんですか?」


深はドキッとした。

クリスマスイブ、深は偶然体調不良の涙を見かけ、笑輝が来るまで看病していた。

そのせいで、明日香との待ち合わせに遅れてしまった。いくら幼馴染といっても、1人暮らしの女性の部屋にいたとは、さすがに言えなかった為に仕事と嘘をついていた。


「ああ・・・そんなに心配なら正直に話すよ。俺が小6の時、隣のアパートに涙ちゃんが引っ越してきたんだ。小4だった。

当時から人形のように綺麗な子で、学校でもすぐに有名な子になったんだけど、彼女、家庭がちょっと問題があってさ・・・母親も涙ちゃんそっくりで綺麗な人だった。

ロシアの血が混じっててさ、たしか・・・クォーターだったと思う。

父親も何人か変わってるって噂があって、引っ越してきた時は、母子家庭だったんだ。

だけど、母親は夜の仕事をしてて、涙ちゃんは家でいつも1人で、俺の親は見かねて夕飯を一緒に食べたり、ネグレクト状態だった涙ちゃんの親に変わって、イロイロ面倒見てたんだ。」

「・・・・・そうなんだ・・・」


明日香は悪い事を聞いてしまったと少し後悔した。


「だけど、しばらくして母親に新しい男ができたみたいで、涙ちゃんは引っ越して学校も変わってしまった。それっきり、うちの親もどうなったかと心配してたんだけどさ、何年かぶりに再会して、元気そうだったから、安心して・・・ごめんな。明日香には心配させたけど、彼女は、恋愛対象じゃないから、安心して。」


明日香は頷いた。


「あたしこそ、ごめんなさい。子供みたいな事言っちゃって。」


深は明日香を抱きしめた。


「いいよ。もっと甘えて。子供みたいな事言って。全部受け止めるから。」

「うん。」


「阿川さーん!どこ行っちゃいましたー?会議の準備できましたよー?」


給湯室の外を社員が探している。


「やばっ!俺行くわ!」

「うん。行ってらっしゃい。」


阿川はイソイソと出て行った。

明日香は深が出て行ったドアを見つめ、1人、顔を赤らめテレた。


◇◇◇◇◇◇◇


Lacocoでは、オーナーから未有の怪我の状態について説明があった。

しばらくは未有はお休みで、他の2名のエステティシャンと涙で切り盛りする事になった。

涙が郵便物を確認すると、Kiritoの郵便物が混ざっていた為に涙はKiritoに届ける事になった。


「すみませーん。」


Kiritoのドアを開けて中を覗く。


「あ、涙さん。」


粧子が気付いて駆け寄ってきた。

奥に笑輝の姿も見えたが・・・

一瞬、涙と目があったがプイッと、そっぽを向いてしまった。


――なっ・・・!


「涙さん、どうしました?」

「あ、ああ、これ、混ざってました。」


涙は郵便物を渡す。


「すみません。ありがとうございます。」


粧子に郵便物を渡すと、もう一回笑輝を見るが、全く視線を合わせようとしない。

完全に無視している。


―――なによ!信じられない!子供すぎるわ!!


涙はイライラしながらLacocoに戻った。


――何よ!あの態度、あたしが何したっていうのよ!

自分だって元カノと仲良く働いてるのに、なんであたしだけ幼馴染との仲をイロイロ言われなきゃいけないのよ。勝手すぎるじゃない!!


鬼の形相の涙をオーナーの紗友美は少し引きながら見ていた。






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