本名

仕事が終り、涙は笑輝が終わるのを待っていた。

30分ほど待つと、笑輝が今井、粧子、りこ、わかばと一緒に出てきた。


「お、じゃあな、笑輝!」

「おつかれ!みっ君!」

「また明日ね。」

「おつかれ様!」


みんな気を使い、その場を後にした。


涙と笑輝は気まずい雰囲気になる。

笑輝は、相変わらず不貞腐れた顔をしている。

涙は、そんな笑輝を見上げる。


「別に待ってなくて良かったのに。」


カチン!


――嫌、怒っちゃダメよ。相手は子供なのよ、ガキなのよ。あたしが大人にならないと。


涙は頑張って笑顔を作る。


「いつまでも怒ってないで、ご飯食べてかえろうよ。」

「腹の調子が悪いから、食べて帰りたいなら1人で食べて行ったら?」

「はあ?」


笑輝はスタスタと歩き出す。

涙も慌ててついて行く。


「ねえ、なんでそんなに怒ってるのよ。いつまでそんな態度なの?」


笑輝は返事をしない。


涙は、だんだんイライラしてきた。


「子供かよっ。いくつだよっ。」


思わず口に出てしまった。

笑輝は足を止めた。


「なんだよ、その言い方。」


笑輝は振り返る。

涙は鼻で笑う。


「あんまりに子供すぎるからビックリしちゃったわよ。笑輝、いったい、いくつよ。つき合った事とかある?毎回彼女にそんなヤキモチとか妬いてたの?小学生かな。」


涙は腰に手を当て、イラつきながらつま先をトントンとさせた。


「もういいわ。待ってたあたしがバカだった。1人で帰る。」


笑輝もイラついた。


「年下扱いするなよ。なんにもできないクセに。」

「そういう言い方どうなの!?あなたが付き合いたいたいって言うから付き合ったんでしょ?」

「涙のが先にグイグイきてたじゃないか。」

「誰にも取られたくないって言ってきたのはそっちでしょう!?」


周りを歩いていた人達がクスクス笑いながら2人を見る。

笑輝は恥ずかしさで赤くなる。


「そんな事、こんなとこで言う事じゃないだろっっ。」


笑輝は声を抑えて言った。

2人は睨み合う。


「しばらく会わない方がいいかもね。」

「そうだな。そうしよう。」


2人は別れた。


◇◇◇◇◇


「涙さん、ありがとうございます〜」


未有は嬉しそうに言う。

ここは病室。

未有は足を骨折した為に身動きがとれない状態だった。


「大変だったわね。どういう状態だったの?」


涙は心配する。


「彼とデートの帰りに、横断歩道歩いてたら、右折してきた車に跳ねられちゃったんです。彼はカスリキズですんだんですけど、あたしは、こんな感じです。」


涙は痛々しい未有の姿を不憫に思った。


「大変ね・・・仕事の事は気にしなくていいから、ゆっくりしてね。」

「ありがとうございます。」


コンコン


壁をノックする音がするとカーテンを開け、女医さんと看護師が入ってきた。


スラッとした綺麗な先生だった。


「失恋します。お友達がいらっしゃったんですね。佐々川さん、痛みはどうですか?」

「動かすと少し痛みますけど、大丈夫です。」

「そうですか。しばらくは仕方ないですけど、また何かあれば言ってくださいね。」

「ありがとうございます。」


女医と看護師は、涙に会釈して出て行った。


「涙さん、あの先生、綺麗でしょ。春川先生っていうんですよ。」

「春川・・・」


涙は壁に貼ってある主治医の名前を見た。


春川 笑愛えま


――笑輝のお姉さんもお医者さんって言ってたっけ。

だけど、違うわよね。


「じゃあ、そろそろ行くわね。未有ちゃん。」


涙が病室を出ると、男性とすれ違った。

男性は、涙に気付く。

そして、涙が出てきた病室を見つめた。


「あっ。」


涙はさっきの女医を見かけた。

女医も涙に気づき、会釈する。

涙も会釈をし、病院を後にした。


◇◇◇◇◇


ホテルの部屋。

涙はいつものように、愛人との情事を終え、服を来ていた。


バックを持ち、帰ろうとした時


「キミの名前を教えてくれないか。」


愛人が言った。


「ごめんなさい。契約で、それはできないとお伝えしております。」

「・・・・いいよ。キミが教えてくれないなら、他の人に聞くから。」

「他の人?」


愛人の男は涙に近づく。


「妻と別れようと思ってる。」


涙は少し後ずさる。


「一緒にならないか。」

「・・・それはできません。私達はあくまで『契約』での愛人関係です。」


男は鼻で笑う。


「まあいいさ、調べればわかる事だ。」


男は不気味に笑った。



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