山崎の妻

何も知らない涙は、笑輝と2人の時間を楽しんでいた。


「このドラマ面白いのよね〜。主演の男の子かっこいいし、女の子もかわいいし。未有ちゃんも浅野オーナーも見てるんだって。」

「へえ〜、そうなの?」


サブスクの韓国ドラマを見ながらワクワクする涙の隣で、無関心にスナック菓子をつまみにビールを飲みながらスマホをいじる笑輝。


「ねぇ、ちょっと気を抜きすぎじゃない?」

「え?なにが?」


笑輝はスマホを見たまま返事をする。


「せっかく彼女と一緒なのに、その態度はどうかと思うよ?」

「だから何が?」


涙はスマホを取り上げる。


「おい!」

「さっきからスマホばっか見て!話してる時ぐらい顔見たらどうなの?!

それに、せっかくの同棲生活なのよ!

もっとこう、ロマンティックに・・・というかできないの?」

「なんだよ、ロマンティックって。」

「ん〜、もっとさ、肩を抱いて一緒にドラマ見るとかさ。」


笑輝はしらけた目で涙を見る。


「俺、恋愛ドラマ興味ないもん。」


涙はイラッとする。


「そうじゃないでしょ?せっかく彼女と一緒に暮してるんだよ、嬉しくないの?

もっと彼女に合わせようとは思わないの?」

「あのさぁ、毎日毎日、そんなに気を使ってほしいわけ?」

「そうじゃないわよ。もっと、あたしに関心を持ってほしいの。笑輝、あたしがどんだけ話かけても、ずっとスマホ見て、あたしの顔みないじゃない。もっと、手を握ったり、髪に触れたりしたいと思わないの?」


笑輝はニヤッと笑う。


「なんだよ、涙。毎日そんな事考えてたの?

ヤリたいなら、そう言えばいいのに、意外にエッチなんだもんなぁ。」


涙の顔に笑輝の顔が近づく。


「そうじゃないってば!!」


涙は笑輝を跳ね除けた。


「なんだよ!じゃあ、どうしろって言うんだよ!ほかっとけば怒るし、キスしようとすれば怒るし。」

「はあ〜。もういい!1人で見るから、はい!スマホあげるから、静かにしてて!」


笑輝の足元にポイっとスマホをほかる。


「なんだよもう。わけわかんねぇ。」


笑輝は再びスマホの動画を見始めた。


――サイアク。これじゃあ結婚したら数年後はどうなる事か。きっと今みたいなかっこよさなんて無くなって、ハゲてお腹出て、毎日毎日、食っちゃ寝、食っちゃ寝の最悪なオッサンになるんだわ。


涙は動画を見ながら1人で笑う笑輝を見て絶望した。


「はぁ〜っ。」


大きなため息をつく。

ドラマの中の俳優は温かい笑顔を見せ、イラつく心を少しずつ癒してくれた。

ドラマに入り込み、ときめいていた時、涙のスマホが鳴った。

涙は全く気づく様子が無い。


「スマホ鳴ったよ。」

「え?」


涙はスマホを見る。


「深君からだ。」


内容を読み、涙の顔がこわばる。

その様子を笑輝は黙って見守る。


――あの男の正体がわかった・・・

そして、深君にも、あたしのやってる事が知れてしまった・・・


涙は覚悟を決めた。


「あー!この男、俺にそっくりだな!」


笑輝の声に涙は驚く。


「やっぱり涙は俺の事が大好きなんだなぁ。」

「何言ってんのよ。ぜんっぜん似てないわよ!」

「そっかなぁ。よっく見てみなよ。」


笑輝は、顔を近づける。


「好きだよ。」


そういうとキスをした。

驚く涙。

だが、笑いがこみ上げてきた。


「もう〜何やってんのよ。急に。」

「ふふ。」

「もう〜しょうがないなぁ。」


涙も笑輝にキスをした。

この幸せを壊したくない。

笑輝を愛してる。


「大丈夫。安心して。俺が守るから。」


2人は抱き合った。


◇◇◇◇◇


「慰謝料はしっかり貰うから。弁護士は頼んであるから。」


山崎の妻はそう言うと別室にはいった。

背の高い綺麗な女性だった。

山崎は妻の部屋のドアを荒々しく開ける。


「調子に乗るなよクソ女!」


山崎は妻を押し倒す。


「お前みたいな女、俺が助けてやったようなもんだ!俺が結婚してやらなきゃ、お前は一生男達の玩具オモチャにされる人生だったんだ!調子に乗りやがって!」


妻は負けじと山崎の頬を引っ掻いた。


「あんたが結婚しようとしつこいから結婚してあげたのよ!あたしはもっと自由でいたかったけど、あんたに愛なんてない、お金があったから結婚しただけよ!浮気なんて、してたって構わない、むしろ離婚理由ができて大歓迎よ!慰謝料ももらえるしね!」


妻はハイヒールを履き出て行った。


「くそ!!くそーーー!!!」


山崎はやりようの無い怒りを辺りにぶつけた。


仕事帰り、深はコンビニから出た所、山崎の妻とぶつかった。


「すみません。」


深は妻の顔を見て驚いた。

それは見覚えのある、幼い頃によく見た、涙の母親だった。

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