いくら待っても

「未有ちゃん、次は11時から原田さん入ってるから。」

「ん?違いますよ、原田さんは2時からですよ。」

「そうだっけ。」


予定表を見直す。

――ほんとだ。


「どうかしたんですか?涙さん。」

「え、別に。」


「涙ちゃん、少し時間が空くから休憩行ってきていいよ。」


涙は下の階に降りて行く。

笑輝の様子を見に行くが、ドアが閉まってると、中の様子はわからない。

涙はラインの交換をするのを忘れてた。

なんとか交換ができないかと、美容室の前をうろつく。


急にドアが開く。

「うわっ!」

「うわっ!」


中から受け付けのりこが出てきた。


「ど、どうしたんですか?」

「あの、春川さんは・・・」

「笑輝君ですか・・・今、お客さんやってるので、ちょっと聞いてきますね。」

「すみません。」


りこは一度中に入り、しばらくして出てると。


「すみません、今は忙しいので、仕事終ってからがいいそうです。」

「そうですよね。すみません。」


涙は2階に戻った。


――おかしい。なんであたしがこんなに気を使わないといけないの?


初めての経験に戸惑う。


――あたしが会いたいと言ったら最優先じゃないの?後回しにされるなんて初めてよ。


涙は1人で休憩室でお弁当を開く。


――笑輝、お昼は何食べてるんだろ。1人暮らしなのかな、家族と暮してるのかな。

彼女は・・・いるのかな・・・


10時、片付けを終えて1階に降りると笑輝が待っていてくれた。


「なに?用事って。」


―――笑輝、待っててくれたんだ。


「あの・・・ラインを交換したくて。」

「ああ・・・」


笑輝は、自分のスマホをとりだして、交換する。


「ありがとう。」


涙は嬉しくてたまらなかった。

笑輝も微笑んだ。


「だけど、これから用事があっても仕事中はやめてもらえるかな。」

「あ、そうよね。ごめんね。」


二人は微笑みあった。


「腹減ったな。何かたべて帰る?」

「ホテルでディナーはどう?」

「贅沢だな涙は。よし、ラーメン食べて帰ろう。」

「ラーメン!?」


◇◇◇◇◇◇


「おいしいっ!」

「でしょ?」


涙はラーメンんをすする。

レンゲにのせて上品に食べてると


「そういう食べ方は、うまくない。」


笑輝は、イジワルく笑ってレンゲを取り上げた。


「こういうのは、このまま食べるのが、うまいんだよ。」

「もう、イジワル。」


ラーメンを食べ終えると、2人は散歩がてら、海沿いにある公園を歩いた。


「笑輝は1人暮らし?」

「そうだよ。」

「医学部って言ってたけど・・・ご両親は何してるの?」

「医者だよ。父も母も、祖父も。」

「すごい。」

「すごくないよ。みんな医者だから、俺も医者になるんだって、なんとなく医学部に入っただけだから。でも、向いてなかったし。

涙は?」


――あたし?


「あたしは・・・普通の家庭だよ。父と母の3人で。幸せな家庭よ。」

「そうなんだ。」


―――うそ。

ほんとは、普通かどうか、わかんない家庭。


「でも、スゴイマンションに住んでるよね。」


―――え、あれは・・・「愛人」に買ってもらっただけ。


「ごめん、余計な事きいちゃったね。」

「ううん。大丈夫。」


笑輝は、いつもマンションまで送ってくれるけど、上がる事は無い。


「じゃ。また明日ね。」


そう言って去って行く。


―――なんで?あたしの事、好きじゃないの?キスしたくないの?


その夜、涙は笑輝からのラインが来るのを待った。自分から送るなんて、そんな事はしない。相手からきてから、しばらくしてから返事するのがいいんだ。


だが、いくら待っても笑輝からのラインは来なかった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る