初めてです
涙と笑輝はイチョウ並木を歩く。
涙は、ほろ酔いでいい気分だった。
「ねえ、なんで昨日、笑輝はあたしを助けてくれたの?」
「ん?」
「時間も遅くて、誰もいなかったから、あたしもう絶対絶命だと思って、ほんとに怖かったから。」
「ああ、俺ね、趣味でテコンドーやってて毎日、夜走ってて、昨日もたまたま走ってたら、路地に連れ込まれる涙を見つけたから、ヤバいと思って。」
涙は、笑輝と向かい合う。
「本当に、ありがとうございました。」
深く頭を下げる。
「いいよ、そんなに気にしなくて。当たり前の事をしただけだから。」
「笑輝、これからも仲良くしてね。」
涙は微笑んだ。
「こちらこそ。もう着くよ。」
二人はマンションに着いた。
「涙、スゴイマンションに住んでるんだね。」
「そう?寄って行く?」
笑輝は首を横に振り
「女の一人暮らしが、簡単に付き合ってもいない男を入れるもんじゃないよ。」
ドキッ
涙はまた胸が苦しくなった。
――なにそれ。
「それから・・・」
笑輝は、涙の足元を見る。
「涙のスタイルなら、こんなヒールの靴じゃなくても大丈夫。もしまた、あんな事があっても、ちゃんと逃げれるように、スニーカーでもじゅうぶん似合うよ。」
――なによ、なんなの?
「あ、ごめん、ナマイキだよね。
でも、こんな綺麗だと心配だから、つい・・・」
――綺麗だと、心配してくれるの?なんで?
「うん。ナマイキ・・・」
「ごめん、じゃあ、もう行くから。また明日・・・」
「うん。おやすみ・・・」
涙は部屋に帰る。
――今まで部屋に誘って断った男なんて、いなかったのに。
今まで男からもらったハイブランドのバックや服を見ながら思った。
――あたしが綺麗だって心配する
あたしは、そうやって男をブランド品に変えてきたのに・・・
涙のスマホが鳴った。
竹下年行からのラインだ。
近くの高級ホテルへの誘いだった。
――そう。これがあたしの幸せなの。あたしの為に高いお金を払う。
あたしは、それだけの価値のある女なの。
◇◇◇◇◇◇
ホテルの一室、ここは街一面が見渡せる上層階。
「あっ、はぁ、あぁ。」
涙は長い髪を乱し、大きくて上向きな
バストを揺らしながら腰を振る。
「あぁ、あぁ・・・・ん・・・」
くびれたウエストから、緩やかな曲線を描いた形の良いヒップがなんともいえないエロスをかもし出す。
「ああ、ああ、」
「すごいな、今日は・・・」
仰向けになった竹下と濃厚なキスを交わす、
涙は、何かを忘れる為、没頭するかのように激しく、腰を前後に振り続けた。
絶頂に達し、涙は竹下の胸に倒れ込む。
「良かったよ。今までで一番最高だっよ。」
横たわる涙のバストを撫でながら竹下は言う。
服を着ると、竹下はバックから封筒を取り出した。
「更新は無しで。そろそろ妻にバレそうだ。」
「了解しました。」
涙はバックからタブレットを取りだす。
「では、こちらにサインを。」
竹下はサインをした。
愛人関係満了のサインだ。
涙は、封筒の中の現金を確認する。
「確かに。ありがとうございました。」
涙は部屋を出た。
――これがあたしの幸せ。美しさをお金に変えられる。美しいあたしの為に、男達は大金を費やすの。
ホテルを出ると深夜1時を過ぎていた。
歩いて帰ろうかと思ったが、昨日の今日だ。怖かったのでタクシーを呼んだ。
翌朝、涙は目を覚まし、出勤の準備をする。
シャワーを浴び、朝食に、ヨーグルト、グレープフルーツ、トーストに、コーヒー、サラダをたっぷりと。
美容の為に、食事には気を使う。
そしてメイクをし、パンツスーツに着替え、プラダのバックを取り出し、玄関に向かう。
靴は・・・笑輝の言葉を思い出すが、普段スニーカーは履かないので持っていない。
今日は仕方ないか・・・
いつもより、やや低めのハイヒールを履いて出た。
ビルの手前で笑輝に会った。
「おはよ。涙。」
「おはよ。笑輝。」
笑輝は、涙の足元をチラッと見た。
気付いた涙は、少し後づさりをした。
翌日、涙は休みを利用して、スニーカーを買いに行く事にした。
おしゃれなお店でスニーカーを探してみるも、どれがいいか、わからない。
「何かお探しですか?」
「あ、はい。スニーカーを・・・」
振り返ると笑輝がいた。
笑輝が勤めるKiritoと、涙が勤めるLacocoはオーナーが夫婦の為、定休日も、月、火休みだ。
「笑輝、どうして?」
「ちょっとスニーカーを買おうと思って来てみたら、偶然涙を見かけた。」
涙は、なんだか嬉しくて、ニヤけるのをこらえる。
――休みの日まで会えるなんて。
二人はイロイロ見てまわった。
「これいいなぁ。これにしよっと。」
「これがいいの?他の色が無いか聞いてくるから、ちょっと待ってて。」
涙はイタリア製の、ちょっと高めなスニーカーを選んだ。
「え、いいよ。これで。」
「いいから待ってて。」
笑輝は靴を持って行ってしまった。
――あれで良かったのに。
すこし待つと笑輝が戻ったきた。
そして
「はい。」
「え?」
紙袋を渡された。
「この間の食事のお礼。」
――え、ええ!?
「食事のお礼って、あれは、あたしからのお礼で・・・」
周りの客の目は、二人にくぎづけになっている。
「綺麗な人〜」
「女優さんかな〜」
「男の人もかっこい」
「モデルさんみたい。」
二人は恥ずかしくなり、
素早く店から出た。
「女からおごってもらったままは嫌なんだ。」
涙に、なんともいえない、今まで感じた事の無い感情が、体を走った。
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