クリスマス
「それにしても、すごい汗だな・・・着替え。と言っても、俺が着替え探す訳にはいかないし・・・」
「クローゼットに・・・パジャマがあるから・・・。」
涙はシャツとパンツスーツのままだった。
笑輝はパジャマを取り出し、涙に渡す。
「廊下にいるから、着替えたら呼んで。」
笑輝は廊下で待ちながらドキドキする心を落ち着かせていた。
――涙は今体調不良だ。こんな時に何を考えてるんだ。俺は。
「着替え終わったよ。」
笑輝は中に入る。
さっきは気が付かなかったが、寝室のドアの正面には大きな窓があり、綺麗な夜景が見える。
「すごい夜景だな。そういえば、前に言ってたっけ。」
「うん・・・素敵でしょ。」
「うん。」
笑輝は、涙の髪を撫でる。
少しくすぐったくて、涙は目を閉じる。
「解熱剤が効いてきたのかな・・・眠たい・・・」
「いいよ。グッスリ寝て。側にいるから。」
涙は眠りについた。
――可愛いな。
心の底から思った。
夜が明け、涙が目覚めると笑輝の姿は無く、ゆっくりベットから降りて寝室を出ると、笑輝はリビングのソファで寝ていた。
子供のような寝顔に、思わず笑みがこぼれる。
笑輝は目を覚ます。
「ん・・・涙?」
涙は笑輝の前でしゃがむ。
「大丈夫か・・・?」
「うん。ありがとう。もう熱も下がったし、大丈夫そう。」
笑輝は涙に抱きつく。
「良かった〜。」
――笑輝?
涙は戸惑う。
――あたしの事振ったのに、寝ぼけてるの?
涙は笑輝の顔を見る。
「今日は定休日だし、クリスマスだし、一緒に過ごそう。」
涙は戸惑いながらも頷いた。
笑輝は着替える為に一度帰宅して、また部屋に戻る事になった。
あんなに部屋に上がる事を拒んでたのに、一晩で一体何があったのか、涙は思いだそうとしても心当たりが無かった。
とりあえず、顔を洗い、髪を整え、部屋を片付ける。
――そういえば深君に、お礼言わないと。
涙は阿川にラインをした。
『深君、昨日はどうもありがとう。
助かりました。
もう熱も下がって元気です』
しばらくしてインターホンが鳴り、笑輝が荷物を持って戻ってきた。
笑輝はたくさんの食材をダイニングテーブルに置く。
「なにするの?」
「ん?今日はクリスマスだろ。涙はまだ外に出ない方がいいから、俺がご飯作る。」
「笑輝、料理できるの?」
「俺、1人暮らしだよ。料理できないと困るでしょ。」
笑輝は取り掛かった。
「涙は座っててよ。まだ、しんどいだろ?」
「うん・・・」
涙はダイニングに座る。
「ねえ・・・あんなに部屋に上がるの拒んでたのに、どうしたの?」
「あとで言う。」
――もう、ほんとにわかんない1人ね。笑輝って。
涙は笑輝が入れてくれたキャラメルラテを飲む。
笑輝はモクモクと料理を作る。
「あたしも手伝おうか?」
「涙、料理できる?」
「ん〜、あんまりやらないけど・・・」
「じゃあ・・・このレタスちぎっといて。」
涙はレタスを渡されボウルにちぎって入れる。
料理ができると、夜景が見えるリビングに運ぶ。
「カンパイ」
笑輝はワインを開けるが、涙は病み上がりの為、オレンジジュースを飲む。笑輝の配慮だ。
涙はリゾットを一口食べる。
「おいしい。」
「うまい?」
「うん。あ、ねえ、さっき言ってたの、どうして急に看病してくれたり、料理作ってくれたの?」
「ん?・・・涙を取られたくなかったから。」
「え?」
笑輝は涙を見つめる。
「涙の事が好きだから。誰かに取られるのが嫌だから。」
「・・・・・え・・・急に・・・」
涙はオレンジジュースを飲む。
「ずっとモヤモヤしてた。涙の事、気になるけど俺じゃないような気がして、距離を取ろうとしてた。
けど、昨日、涙が体調悪そうにしてて気になって、夜、様子を見に来たら、涙の幼馴染って人に会って、その人は、涙の部屋を出入りしてるのを知ったら、なんか急に・・・取られたくないって思って。抑えきれなくなった。」
笑輝は、涙を見つめる。
「幼馴染・・・深君、彼女いるよ。」
「え、そうなの?」
「うん。若い彼女。」
「なんだぁ、そうなんだ。でも、いいや、自分の気持ち、はっきりわかったから。」
笑輝は涙を抱き寄せる。
「付き合ってくれる?」
涙は心臓が爆発しそうだった。
このドキドキが笑輝に伝わるんじゃないか不安だった。
「うん・・・」
そう答えると、笑輝の顔が近づき
涙の唇に笑輝の唇が重なった。
笑輝の唇が何度も何度も、涙の唇を包むように重なって離れ、また重なる。
こんなキスは初めてだ。
涙は心も身体も溶けてしまいそうな感覚に見舞われた。
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