恨み

「涙さん!どうしたんですか!?何かあったんですか!?」


Lacocoに出勤した未有が叫ぶ。


「ほんとに!!バッサリじゃない!!」


浅野紗友美も叫ぶ。


「え!?そんなに驚きます!?」


涙は予想以上の反応に照れる。


「かわいいですよ!!やっぱり美人はどんな髪型も似合うんですね!!」


うんうんと頷きながら、浅野は窓の外を眺めた。

桜並木の桜が散り始め、温かな春の心地よい風に舞い、とても気持ちが良い日だ。


「さっ、今日も1日、頑張りましょう。」

「はい。」

「はーい!」


それぞれ仕事にかかった。


「2階の涙さん、ショートボブ、めちゃめちゃ似合ってかわいいよね!」

「そう。まさか彼女がヘアドネーション立候補してくれるとは思わなかったから、びっくりしたよ。」


粧子と笑輝は開店準備をする。

粧子は笑顔で笑輝を見る。


「あたしさ、涙さんの第一印象って、あまり良くなかったんだ。だけど、気のせいだったみたい。」


笑輝は一瞬表情が固まったが、スグに笑顔を作った。


「うん。彼女は良い人だよ。」

「はいはい。ごちそうさま。」


粧子は鏡を拭きながら笑った。


入り口のドアが開く音がする。


「いらっしゃいませ。ご予約のお客様ですか?」


中年の男性が1人入店した。


「予約はしてないですが、カットをお願いできますか?」


りこは笑顔で答える。


「カットですね。大丈夫ですよ。少しおかけになってお待ち下さい。」


男性はソファに座り、店内を見渡す。

というよりは、店員1人1人を探すように見渡す。

睨みつけるような、何か恨みでもあるかのような、なんとも言えない嫌な目つきだ。


「お待たせしました。こちらへどうぞ。」


今井が案内する。

男性はニヤリと笑い、椅子に座る。


「どういった感じにしますか?」

「このままの形で、少し短くして下さい。」

「かしこまりました。」


今井は髪を濡らし、カットを始めた。


「あれ〜。ま〜たKiritoさんの郵便物が入ってる。」

「あたし届けてくるわ。」


未有はニヤニヤする。


「は〜い、お願いします。」


涙はウキウキしながら階段を降りてKiritoのドアを開ける。


「おはようございます!」

「あ、おはようございます。あ、」


りこは笑輝に気を使う。


「いいよ、そんなに気を使わなくて。」


笑輝は恥ずかしそうに笑う。


「はい。また郵便物が混ざってたので。」

「涙さん、いつもすみません。ありがとうございます。」


りこはお礼を言った。


「涙さん・・・」


男性が呟いた。


「じゃあ、お願いします。」

「ありがとうね。」


店長の長谷川もお礼を言った。


「今のあの綺麗な方は・・・」


男性が今井に尋ねる。


「ああ、2階のエステの方です。たまに郵便物が混ざってるみたいで、届けてくれるんです。」

「そうですか。」


カットが終り、男性は店を出る。

階段の隣の看板にめをやる。


「Lacoco」


男性は不気味に笑った。


◇◇◇◇◇


夜になり、Lacocoは閉店になる。

未有は友人の明日香と飲みに行く約束をしていた。

明日香が歩いてLacocoの前まで来ると、中年の男性が店の前に立っていた。

昼間カットに来た男性だった。

男性は明日香に気づくと声を掛ける。


「このエステの従業員の知り合いですか?」


明日香は、男性の異様な雰囲気を感じた。


「え、ええ。」

「そうですか。私も、知り合いでね。背の高い綺麗なショートヘアの。」


この男性の異様な雰囲気に明日香は恐怖を感じた。

肩にかけたバックをギュッと掴む。


「あの女は危険な女ですよ。近寄らないほうがいい。綺麗な顔して、やる事はえげつない。」


男性は少しづつ明日香に近寄る。


「でも大丈夫。私がずっと、あの女を見張ってるから、安心して下さい。」


何を言っているのか、わからない。

明日香は後退りをする。


「明日香?」


未有が仕事が終り、2階から降りてきた。

男性は振り返り、未有に気づくと、足早に立ち去った。


「ごめん、待った?あの人なに?知り合い?」


明日香は青ざめた顔をしている。


「未有、涙さんは大丈夫?」

「え?涙さん?まだ店にいるけど。」

「涙さんに、変な男が涙さんを見張ってるって、気をつけるよに言って!」


明日香の普通じゃない姿に未有も動揺する。


「え、何それ・・・」


未有は病院での出来事を思い出し、急いで2階に上がった。


「涙さん!」

「びっくりした!」


勢いよく入ってくる未有と明日香に、涙は驚く。


「涙さん、大変、今度は違う男が涙さんに近づこうとしてるって!ほら、病院での出来事の黒幕かもしれない!」

「え・・・?」

「涙さん、あたし今、変な男に会ったんです。下で未有を待ってたら、ここの従業員の知り合いかって聞かれて、涙さんの事を見張ってるって・・・すごい顔をして・・・」


明日香は怯えながら説明する。


「明日香ちゃん、落ち着いて。どんな人だった?」


明日香は男の特徴を説明する。

それは、愛人の男に間違いなかった。



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