修羅場
「未有ちゃん、ちょっといい?」
Lacocoでは、浅野紗友美が未有を呼んだ。
「涙ちゃんが急に辞めたいって言ってきたんだけど、何か聞いてない?しばらく休むみたいだし。」
「え?涙さん辞めるんですか!?」
「あまりに急すぎて、今は保留にしてあるんだけど。長年勤めてくれて、急に休む事なんて、まず無かったから、一体何があったのかしら・・・」
未有は黙り込む。
これは、話すべきなのか、話さない方が良いのか、迷った。
――ストーカーに合ってる事が知れて大事になったら、涙さん戻ってこれないかもしれない・・・どうしよう・・・
「あたしは、わからないです・・・」
「そう。わかった。わかった。ごめんね、手を止めさせちゃって。」
「いえ。大丈夫です。」
未有は仕事の準備をする。
――涙さん、大丈夫かな。あたし、どうしたら良いんだろう。笑輝さんは旅行中だし。
明日香も精神的に結構まいってるみたいだし。
未有は更衣室に行き、スマホを取りだす。
――涙さん、どこにいますか?大丈夫ですか?浅野さんが心配してます。あたしも心配です。返事ください。
未有は送信した。
◇◇◇◇◇
「どうした?まだ出ないか?」
シャワー室の外から山崎が急かす。
「今行くから。」
涙は両手で涙を拭い、気丈に返事をした。
「どれだけ待たせるんだよ。」
山崎は涙の裸体を後ろから抱きしめ、首すじにキスをした。
――気持ち悪い。
全身に寒気がした。
山崎は、そんな事は御構い無しで涙の体を弄んだ。
未有からラインが届いていたが涙が見る事はなかった。
夜になり、山崎が寝た後、涙はラインを確認した。
未有からの心配メールが何回も入っていた。
――未有ちゃん、ごめんね。
笑輝からのラインも写真付きで、いくつも送られてきている。
Kiritoの仲間や、粧子と楽しそうな笑顔だ。
――笑輝・・・
あたしと出会わなければ、粧子ちゃんと、ヨリを戻してたかな。
その方が幸せだったかな。
涙は笑輝の写真を見つめる。
「何を見てるんだ?こっそりと。」
背後からの山崎の声に涙は振り返る。
パンッ!!
パンッ!!
パンッ!!
涙はビンタをされ倒れる。
山崎は倒れた涙の髪を鷲掴みにする。
「一体、誰と連絡を取ってたんだ?」
「なにもないわ!アンタとは関係ないわよ!」
涙が睨むと、山崎は涙を床に叩きつける。
「お前は!まだ俺にせんな態度を取るのか!!この俺に!!」
山崎は倒れた涙を何度も蹴った。
涙はひたすら堪えた。
2日が過ぎ、笑輝は旅行から帰った。
「ただいま。」
部屋の電気を付けるが、涙の姿は無い。
――涙、どこ行った?
不安になった笑輝はラインを送る。
しかし、どれだけ待っても既読が付かない。
笑輝は部屋を出て、あたりを探して回った。
笑輝は、涙が行きそうな場所を片っ端から探して回ったが、見つからない。
――どこに行ったんだ。
笑輝は、思いあたる場所をよく考えた。
笑輝は、一度だけ涙が高級ホテルから出てくるところを見かけた事があった。
――あのホテル・・・
笑輝は急いでホテルに向かった。
山崎はどうしてもやらなければならない仕事があり、部屋から出ていた。
涙は1人、憔悴しきっていた。
顔は殴られ、綺麗な顔はアザになり、腫れ上がり、身体は、あちこち蹴られ痛くて動けなかった。
笑輝はフロントに着き、事情を説明して、部屋を案内してもらう。
同時に警察にも連絡を入れた。
コンコン。
「お客様。」
ドアがノックされた。
涙は驚く。
「涙、いるんだろ!?開けてくれ!!」
――笑輝!!
「お客様、ドアを開けていただけますか?」
涙は、ゆっくり立ち上がろうとするが、身体中痛くて動けない。
「涙、いたら声だけでも聞かせてくれ!!」
「あ・・・」
声を出そうとすると肋骨に響く。
――助けて・・・
ドアの向こうには笑輝がいる。
涙は身体中の痛みを堪えて叫んだ。
「助けてーー!!!」
笑輝と従業員に、はっきりと声が聞こえた。
従業員は急いで鍵を開け、笑輝は室内に駆け込んだ。
「涙!涙!!」
笑輝は、ベットに横たわる涙を見つける。
「涙!!」
「救急車を呼びますね!!」
ホテルの従業員は急いでフロントに連絡をし、救急車を呼ぶ。
「涙・・・」
笑輝はボロボロになった涙を優しく見つめ、
「ごめんな、ごめんな。」
涙はにっこり微笑む。
「なんだ、お前らは!!何やってるんだ!!」
山崎が戻ってきた。
「人の部屋で何してるんだ!」
笑輝は勢いよく山崎に飛びかかり、山崎を殴った。
そこへ丁度警察が到着するが、笑輝の怒りは収まらない。
警察が必死に間に入り、なんとか山崎は笑輝から離されたが、山崎の顔は鼻と前歯が折れ、血だらけになっていた。
山崎は現行犯逮捕され、パトカーに乗せられた。
涙と笑輝は救急車に乗り込んだ。
「涙。ごめんな。俺がいなかったから。ごめんな。」
涙は痛みで声が出せないが、ありったけの笑顔で微笑んだ。
翌朝、このニュースはストーカー監禁事件として、大きく報道された。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます