私は悪女

涙は電話をかける。


「もしもし、あなたのお望みのとおりにするわ。」


電話をきると、笑輝のアパートを出る。

鍵をしめようとしたん、色々な思い出が脳裏をよぎった。


Kiritoに郵便物を届けに行った時、たまたま店内から出てきた笑輝。

暴漢に襲われそうになったのを助けてくれた事。警察署からの帰り、一緒にタクシーに乗り送ってくれた事。

仕事帰りに一緒に入った居酒屋。

ラーメンの美味しい食べ方を教えてくれた事。

元カノとの仲に初めて嫉妬したりもした・・・・

初めて想いが通じ合った日。

初めてのキス。

初めての夜・・・

他愛もない事でのケンカ・・・


笑輝と一緒にいる時間は涙には生まれて初めて、安らげる時間だった。

ずっと一緒に居たかった。

これからも一緒にいられると思っていた。


・・・だが、このままだと、彼だけではなく、一緒に過ごした仲間や、愛する人の家族にも危害を与えてしまうかもしれない。

それだけは絶対避けたい。


――あたしが守らないと・・・あたしを守ってくれた人達を。


道路に出ると一台の車が止まる。

運転席にいるのは山崎だった。


「ようやく決心がついたみたいで、嬉しいよ。」


涙は黙って助手席に乗る。


2人はホテルに着いた。

部屋に入るなり、山崎は涙に馬乗りになる。

荒々しく服を剥ぎ取り、涙は下着姿になった。


「懐かしいな。ずっとこの姿が見たくてたまらなかった。」


山崎はベルトを外す。

涙は何も言わず、ただ受け入れるだけだ。


「いいねぇ、その顔。俺に全く興味がない。金を払わないと、そんな顔になるんだ。

怖い女だねえ。」


山崎は荒々しく自分のモノを涙に入れた。


――うっ・・・ん・・・


「どうだ。久々だろう?苦痛か?好きでもない男に、金ももらわないで入れられるのは。」


山崎は腰を振りながら、涙の口を開け、舌を入れる。


「まるで人形のように無反応だな。」


山崎の動きは激しくなるが、涙は声も出せず、表情も変えない。


「うっ・・・ああ!!でるっ!!!」


山崎は涙の中に出した。


「初めて生で出したな。俺はどうせ離婚する身だ。何も怖いものなんかないさ。

お前が俺の子をはらんでも、認知なんかしないし、逃げちまえばいい。」


――なんてクズ!!


「これから毎日楽しいなぁ。」


山崎はシャワーを浴びにお風呂場に向かう。

涙は裸のままベットに横たわる。


――これでいいんだ。

このままアイツの気の済むまで好きにさせて、最後は・・・アイツと一緒に死ねばいい。

元々あたしの人生なんて、腐った人生だったし、笑輝に出会うまで、誰からも愛情なんて貰った事なんて無かったし。

笑輝と出会ってからの生活は、神様が退屈しのぎに作ったゲームのような物。

あたしと笑輝のコマを動かしながら、ヒマを紛らわせてたようなものだわ。


涙は涙が出そうになるのをこらえた。

泣く訳にはいかない。

泣いたら負けだ。

これは自ら選んだ選択だ。

笑って人生を終わらせてやるさ。

そう、自分は金と男をもてあそぶ事に快感を感じる「悪女」だ。

決して「聖女」にはなれないのだ。

そう自分に言い聞かせた。


山崎がシャワーを浴びて出てくると、

再び涙を求めてきた。

涙は以前のように、割り切ろうとするが、割り切ろうとすればする程、胸が苦しくなった。


「ちょっと待って。あたしもシャワーを浴びたいわ。」

「わかった。」


涙はシャワーを浴びる。

すると、トタンに涙が溢れて止まらなくなった。

声を推し殺そうと、両手で口を抑える。


――ふっ・・・うう・・・


涙が次から次へと溢れて止まらない。


涙は立って居られず、しゃかみこんだ。


泣いたらダメだ。

泣いたら負けだ。

あたしは、あの男と死ぬんだ。


言い聞かせるが、心が反比例して、どんどん苦しくなり、涙が止まらない。


思い浮かぶのは、笑輝の優しい笑顔ばかり。


――笑輝、笑輝・・・












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