過去

1ケ月が過ぎてkiritioの社員旅行の日になった。

2泊3日の韓国旅行だ。


「ホントに大丈夫か?実家に行かなくても。」

「大丈夫よ。ここしばらく何もなかったし。深君も、かなり心配してくれたけど・・・

大丈夫。」


笑輝は涙を見つめる。


「何か少しでも変な事があったら、すぐに実家に行くなり、姉さんに連絡して。番号は教えたよな?」

「うん。わかってる。」


笑輝は不安な顔をしながらスーツケースを持ち、玄関を出て行った、


涙は1ケ月程前に深と会った時の事を思い出していた。


遅くまでやっているカフェで深は待っていた。


「涙ちゃん、今うちの会社の依頼で、山崎という男に会ったんだけど、キミにすごく執着していて、おかしな事を口にしてた。

正直に言ってくれ。

キミは今まで、一体、何をしてきたんだ。」


涙は深から目線をずらし黙ったままだ。


「あのマンションだって、20代後半の女性が1人で住むようなマンションじゃない。

キミが何か危険な事をやってるんじゃないかと・・・前から思ってた。」

「愛人なの。その男のは。」


涙は、口を開いた。


「あの男だけじゃない。あたしは何年か前から、色んな男と愛人契約を結んでたの。」


深は黙って話しを聞いた。


「笑輝と出会うまでは、色んな男に抱かれて、貢がれる事が幸せだった。それが愛されるという事だと思ってたの。快感だったわ。

お互い本名や素性を明かさずに、ただ体とお金だけの関係。あたしは、それが丁度良かったわ。

今まで奥さんにバレそうだと言われた事は何度かあったけど、それは、あたしには関係無い事。その話が出ればすぐに契約は解除。

お互いそれが普通だった。

相手の男は、ほとんどが、それなりの地位のある人だから、事がおおやけになって、こんな若い女に大金を払ってたなんてバレたくないんでしょうね。

でも、あの男は違った。

契約解除の話をしたとたん、態度が変わった。

あたしのストーカーになった事は知ってるわ。」


涙は今までの事を平然と話した。


「それで・・・どうするつもりなんだ。」

「わからないわよ。そんな事。」

「わからないって・・・危険な目に合うかもしれないんだぞ。」


涙は深を見つめる。


「深君や、笑輝、未有ちゃん、明日香ちゃん・・・みんなに迷惑かけたのは仕方ないと思ってる。あなた達には危険な目に合わせないと約束するわ。」

「キミはどうするんだ。」

「・・・・なんとかするし、なんとかなるわよ。」

「なんとかって」

「あたしだって、わかんないわよ。

あたし、普通の生活なんて、した事ないもの。ううん、今までの生活が、ずっと普通だと思ってたから、今さら今までのことをチャラになんて、できないじゃない。

自分が撒いた種は、自分で拾って処分するしかないのよ。やり方なんてわかんないわよ。」


深は考える。


「警察に全てを話すんだ。」

「警察に行って、愛人関係結んで、大金貢がせてストーカーに合ってますって・・・そう話すの?

以前のあたしなら、なんとも無かったわ。

でも今は・・・笑輝と、笑輝の家族と幸せになりたい。そんな事がバレたら、笑輝の家族が、あたしを受け入れてくれると思う?」


涙は目を潤ませた。

深は何と言っていいのか、言葉が見つからなかった。

涙の生い立ちを知っている深には、とでも苦しかった。


「心配してくれて、ありがとう。でも、あたしが自分でなんとかするしかないの。」


涙は席を立った。


笑輝が出て行った後の玄関を、涙はじっと見つめた。


「ありがとう。さようなら。」



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