イベントの目的

涙は店の鍵を開けようと、ドアの前に立つ。


鍵を開けようとした時、背後に人の気配を感じ、恐る恐る振り返る。


「おはようございます。」

「未有ちゃん・・・おはよう。」


――なんだ、未有ちゃんか・・・


涙は安心する。

鍵を開け、2人は中に入る。

その様子を、山崎はじっと見ていた。



kiritoでは社員旅行の話で盛り上がっていた。

毎年、この時期になると年に1回社員旅行が行われた。


「じゃあ、今年の幹事は、笑輝と粧子ちゃんでお願いします。」

「はーい!頑張ります。みなさん、どっか希望はありますかぁ?」


粧子はノリノリだ。


「はーい!あたし韓国に行きたいです!」


りこが手をあげた。


「韓国いいねぇ!候補にあげとくね。他はどっかありますか?」

「う〜ん。俺は台湾でもいいなぁ。」

「今井さんは、台湾ね。ある程度候補が出たら、多数決で決めていいですか?」

「そうだな。そうしよう。」


「楽しみね。みっ君。」

「うん・・・そうだな。」


笑輝は、涙を残して行くのが少し不安だった。


午前の仕事が終り、昼休憩に入ると、笑輝は2階のLacocoに向かった。

ちょうど涙も休憩に入るところだった。


2人は外にランチに出かけた。


「社員旅行?そうなんだ。いいんじゃない?行ってきて。」

「だけど、涙置いてなんて心配だよ。」

「う〜ん。」


涙は少し考える。


「最近、とくに何もないし、大丈夫よ。きっと。」

「良かったらさ、俺の実家に行かない?」

「実家?笑輝の?」


注文したパスタが運ばれて来る。


「やっぱり1人にするのは心配だ。実家に連絡しとくから、あそこなら、セキュリティもしっかりしてるから安心だよ。」

「ちょっと待ってよ。いくらなんでも・・・大袈裟すぎるわよ。笑輝のご家族まで巻き込んで・・・。

大丈夫よ。襲われないように、部屋に入ったらすぐに鍵かけて、外は注意して歩くから。」


涙は微笑む。

笑輝は不安そうだ。


休憩が終り、2人は職場に戻る。


「笑輝。」


ドアを開けようとする笑輝は振り返る。

涙はファイティンポーズをする。


――呑気だなぁ。意外と。誰のせいでこんなに心配してると思ってんだよ。


笑輝は呆れながら入った。


「みっ君、おかえり。さっきさ、みっ君目当てのお客さん来てたよ。」

「え?」

「前に朝イチで来てた男の人。山崎さん・・・だっけ。」

「俺に?なんだって?」

「うん・・・なんか、あの人不気味ね。俺の彼女がナントカって・・・ボソボソ言ってた。あの人、涙さんの元カレとか?」

「そんなんじゃないよ。」

「そうよね。でも、気持ち悪かったよ。彼女を取ってとか言ってたし。」


笑輝は仕事の準備をしながら考える。


一方、深と中村はイベントの打ち合わせに山崎の会社に訪れていた。

明日香は今回のイベントの担当からは外れた。

山崎との打ち合わせの最中、深と中村は、山崎からの発案に耳を疑った。


「はい?それは・・・どういう意味でしょうか・・・」


中村が、もう一度尋ねる。


「Lacocoというエステがあるでしょう。あちらとコラボイベントを組みたいんですよ。うちの女性社員もエステに興味あるし、お客様にも女性が多い。」


深と中村は、顔を見合わせる。


「それでしたら、直接、Lacocoさんと話をしていただいて、それからというふうで・・・うちからLacocoさんにという事は、致しかねます・・・」


中村は少し困りながら話した。

この男は一体何がやりたいのか、2人には、わからなかった。

男は表情を変えた。


「阿川さん、おたく、あそこに勤めてる及川涙さんのお知り合いですよね。」


「はい?」


「あの女はとんでもない女なんですよ。

男を手玉に取って、大金を貢がせ、いらなくなったらサッサと捨てる。とんでもないヤツです。」


中村は眉をひそめる。


「山崎さん、それは今、仕事とは関係ない話ですよね。」


深は山崎に言う。


「僕はね、あの女の全てを壊したいんですよ。職場にも、友人にも、この事実を知らせて、彼女を壊したい。もちろん、恋人にも。自分の恋人が、自分の知らないところで何をしてるか、知らせてやらないと。」


山崎の不気味な顔を深は真っ直ぐに見た。


「失礼します。そういう個人的な目的で

うちが関わるわけにはいきません。うちは辞退させて頂きます。」


深と中村は会社を後にした。

2人は駐車場に止めておいた車に乗り込む。


「あの人なんなの?気持ち悪いし、怖いわね。完全に復讐の為にイベントを企画しようとしてたわ。阿川君、断って正解よ。」

「ああ。」


二人は事務所に戻る。


「お帰りなさい。どうでしたか?」


明日香は中村に尋ねる。


「断ってきたわ。なんか、あの社長、少し怖いの。」

「え?」


深は階段で、涙に電話をかける。


「もしもし。」

「涙ちゃん?話がある。仕事終わったら時間作ってくれ。」

「え?急用?」


深は少しイラついた。


「お前は、一体、何してきたんだ!今、お前は大変な事に巻き込まれそうになってるんだぞ!」

「・・・わかった・・・」


深はイラつい表情で電話をきる。


「深さん・・・」


明日香は、その様子を見ていた。


「悪い。後にしてくれ。」


深は明日香の横を通りすぎた。


◇◇◇◇


山崎は会社で1人、ブツブツ言いながら、短刀を持っていた。





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