愛の結晶

「はい、いきんでいきんで!!!」

「ヒッヒッフーンンンッッッ!!!」

「もっともっと、いきんで!!!もう頭見えてきたよーー!!産まれるよーーー!!!」

「ううーーーーンンンッッッ!!!」

「ンギャア!!ンンギャア!!!ンギャア!!!」

「産まれましたよー!女の赤ちゃんですよー!」

「はぁ、はぁ、はぁ。」


春川総合病院の分娩室。

涙は女の子を出産した。

おくるみにくるまれた赤ちゃんを、涙は初めて抱いた。


「可愛い。」

「お母さんの処置が終わったら、親族のかたにも入って頂きますね。」


――なんて可愛いの。あたしの赤ちゃん。


「医院長、お待たせしました。どうぞ。」


産婦人科医が笑輝の両親と笑愛を分娩室に案内する。


「ありがとう。ご苦労様。」


笑輝の父でもある病院長は、担当医師に感謝を伝えた。


「まあ、可愛い〜大きな瞳に、小さなお口。涙さんそっくりね。」

「本当に可愛い〜。涙さん、お疲れ様。写真撮って笑輝に送ってあげないと。」


笑愛は、無事赤ちゃんが産まれた事を笑輝にメールで伝えた。


笑輝がフランス店を任されてから2年が過ぎた。

その間、相変わらず2人にはイロイロあった。


◇◇◇◇◇◇


「ごめんな、涙。涙と別れた日、実家でも、ちょっとイロイロあって・・・情けないんだけど、なんか嫌になっちゃって、酷い事言っちゃって。」


笑輝がフランスに到着した日の夜、涙のアパート。

2人は再会して初めての夜を過ごす。

涙は笑輝の腕の中で幸せを感じながら話を聞く。


――ああ、やっぱり笑輝の低くて柔らかい声は落ち着く。


「別れてからさ、やっぱり俺は涙の事が好きだって改めて実感したんだけど、あんな酷い事して、やっぱりやり直したいなんて、簡単に言えなくて、仕事に集中して、俺も今井さんみたいに、会社に任せられるレベルになったら、もう一度、ダメ元で、涙に会いに行こうって決めたんだ。」


涙は白く長い指で、笑輝の横顔を触る。


「あたしがしてた事を知ったら、普通の人なら、みんな嫌いになるわ。あの瞬間、あたしは覚悟を決めた。

でも、笑輝は見捨てないでくれてたのね。

でも、もし、あたしに彼氏ができてたら、どうするつもりだったの?」

「そしたら、一生フリーだろうな。でも、今井さんから、ちょくちょく聞いてたんだよね。涙に彼氏できてないかどうか。」


笑輝は恥ずかしそうに笑った。


「あたしは、一生フリーでいるって決めてた。あたしには笑輝しかいないから。」


笑輝は涙を見つめる。


「何年かかっても、家族を説得するから、涙。俺と一緒にいてくれ。涙がいないと、俺はダメだ。」

「あたしも、笑輝と一緒にいたい。大好きよ。愛してるわ。」


笑輝は微笑み。熱く口づけを交わした。

笑輝の大きな手が、涙の小さな顔を包み込む。


◇◇◇◇◇◇


そして、2人は笑輝の両親を説得。

1年前に籍を入れ、今日、第1子をめでたく出産した。

初めての出産と育児で、しばらくは人手があった方が良いだろうという、笑輝の両親の提案で、涙は日本での出産と、子育てに慣れるまでの間、笑輝の実家で生活する事になった。


笑輝は、というと、技術の良さと、観光客や、フランス人にも通用するような容姿が人気となって、店は大反響。

立ち会い出産を希望していたが、予定日に合わせた帰国は難しくなってしまった。


病室に戻り、涙は笑輝に電話をかける。


「笑輝?うん。産まれたよ。2990グラムの女の子。」

「そっかあ。よくがんばったね。お疲れ様。

姉さんがメールで写真送ってくれたよ。

涙にそっくりだ。」

「目は、あたしかもしれないけど・・・鼻筋が通ってそうなとこは笑輝かな。」

「そう?じゃあ、メッチャ美人になるじゃん。ああ、早く会いたい。来週にはなんとか、時間作って帰れるかなぁ。」


涙はクスクスと笑う。


「早く帰ってきてね。パパ。」


笑輝は、思わず吹き出す。


「パパ・・・そうか、俺パパになったんだ。」


電話越しから、笑輝の幸せな顔が想像できる。

2人は、幸せの絶頂の中にいた。


出産から2週間がたち、ようやく笑輝は我が子と対面する事ができた。


愛那あいな〜。会いたかったよ〜。

パパだよ~。」


2人は娘を、愛那と名付けた。

女の子とわかった時から、2人でいろいろ考えた名前だった。

誰からも愛され

誰しも愛する人になってほしい、2人の願いだった。


愛那は幸せそうにわらった。


「どう?父さんと、母さん、姉さんまでいて、大変じゃない?」


笑輝は愛那を抱きながら、涙を気遣う。


「全然。みんな気を使ってくれて。ほんとに良い人達よ。あたしずっと甘えてるわ。

お手伝いの順子さんも、すごく良くしてくれて。ほら、見て。愛那の肌着も何枚も手作りしてくれたのよ。」


涙は嬉しそうにタンスから肌着を出して見せる。


「そっか。順子さん器用だからな。」


コンコン。


部屋のドアがノックされる。


「みっちゃん、涙さん、食事の準備ができましたよ。」


家政婦の順子さんだった。


「あ、今行くよ。」


笑輝は愛那を抱っこし、部屋を出た。

その夜、涙は、ある人に愛那を会わせたい事を、笑輝に伝えた。






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