運命の人

涙と今井は出国の手続きを済ませると、見送りに来てくれた、浅井夫婦、店長の長谷川、わかば、りこ、粧子、未有と合流した。


「いよいよだな。頑張って。」

「今井さん、涙さん、体に気を付けて。」


長谷川と、粧子は激励をする。


「今井さん、向こうで金髪美女の彼女ができるといいですね。」


りこはイジワルく笑う。


「そうだなぁ。帰国する時は彼女連れてくるかもな。」


今井も冗談っぽく笑い、辺りは和やかな雰囲気になったが、未有は1人、なみだをこらえる事ができなかった。


「涙さん、イロイロありがとうございました。あたし、涙さんの事、本当のお姉さんみたいに大好きで、一緒にお仕事できて、楽しかったです。」


涙は笑顔で未有を抱きしめた。


「こちらこそ、楽しかったよ。未有ちゃんみたいな素直で可愛い後輩で本当に良かった。

厳しい事も言ったと思うけど、一生懸命頑張ってくれて、ありがとね。」

「うぇ〜〜ん。涙さぁ〜〜〜ん!!」


グスッグスッ


未有は涙が止まらなかった。


「じゃあ、そろそろ行きましょうか。」


今井が名残惜しそうにしながらも、促す。


「今井さん、涙さん、ファイト!」

「涙さん、ありがとう〜!」


今井と涙は手を振りながら、搭乗口へ向かった。


「いっちゃったね、寂しいなぁ。」


わかばが呟く。


「しっかし、まさか来ないとは思わなかったわ。あの男。」


粧子は呆れたように言う。


「笑輝君て、意外に冷たいのか、不貞腐れてんのか。結構、子供っぽいとこあるのね。」


りこが言う。


「まあ、2人にしかわからない事情があるかもしれないし、俺達がとやかく言う事じゃないよ。」


長谷川が言った。


こうして、涙は今井と共にフランスへ旅立った。


フランスでの生活が2ケ月ほど過ぎた頃、涙の元へ、1通の手紙が届いた。

深からだった。


「涙ちゃん、元気でやってるか?

仕事やフランスでの生活には慣れたかい?

涙ちゃんの事だから、泣き言は言わずに頑張ってるんだろうな。

話しは変わるが、例のストーカー男は執行猶予がついて、今はどこかの街でひっそりと暮らしてるみたいだ。

そして、おばさんだけど、1人でアパートを借りて、パートをしながら、静かに生活してるみたいだ。この間、偶然会って声かけたら、懐かしいって喜んでくれたよ。

あとさ・・・笑輝君、たまに会って飲むんだけど、今は仕事が一番って頑張ってるよ。

指名もかなりもらえるようになったって。」


涙は安心したような、少し寂しいような、複雑な気持ちだった。

未有や紗友美とは連絡を取り合ってるが 笑輝からの連絡は全くない。


――頑張ってるなら良かった。


涙は手紙を机の引き出しにしまった。


涙と今井がフランスに来てから3年が経ち、今井が帰国する事になった。


「今井さん、おめでとうございます。」

「おめでとう!」


現地のフランス人スタッフ達に囲まれて、今井は嬉しそうだ。


「今井さん、またベイビーの写真、送って下さいね。」

「うん。涙さん。ありがとね。」


今井は密かにわかばと交際しており、度々帰国をしていたが、子供ができたのをキッカケに、籍を入れ、日本に帰る事になった。


「涙さんも、これだけの美女で、色んな人から声も掛けられるのに、いつまでフリーでいるの?もったいないよ。」

「あはは。うん。あたしは、フリーがいいかな。気楽だし。」


涙は笑った。


今井が日本に帰国してから1ケ月が過ぎ、新しい店長が日本から来る事になった。


「涙さん、今日から新しい店長が来るから、私、今から迎えに行ってきますね。」

「うん。お願いします。」


女性従業員は車で新しい店長を空港まで迎えに行き、1時間ほどがたった。


「ただいま戻りましたぁ。どうぞこちらへ。」


女性従業員の後ろから、大きなスーツケースを引きながら、背の高い日本人男性が入って来た。

涙は目を疑った。

日本人男性は笑顔で流暢なフランス語で挨拶した。


「始めまして。今井さんの後継として来ました、春川笑輝です。よろしくお願いします。」

「笑輝・・・」


笑輝は涙に微笑んだ。


2人はサロンの近くを並んで歩いた。


「全く聞いてなかったから、驚いたわ。」

「そうだね。驚かせようと思ってたから。」


涙は少し拗ねた顔をする。


「相変わらずイジワルね。」


笑輝は、そんな涙を笑顔で見つめる。


「でも、頑張ったのね。仕事。」


笑輝は口を開いた。


「今井さんからさ、涙がずっとフリーだって聞いてた。イケメンフランス人に口説かれても、全く気にかけないって。なんで?」

「え?なんでって・・・」

「俺じゃないと嫌だって事?」


――笑輝・・・もう!ほんとにイジワル!


「笑輝だって、全然女性に見向きもしないで仕事に没頭してるって聞いたわ。なんで?」


笑輝はフッと笑い、涙を抱きしめた。


「聞かなくてもわかるだろ?涙しかいないから。涙に会いたくて、仕事も頑張った。」


涙は笑輝の顔を見上げる。


「愛してるよ。涙。ずっと一緒にいよう。」


2人は、ゆっくりと口づけた。



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