カシスオレンジ
本間和国
出会い
高級ホテルの一室。
中年の男がシャワーを浴びている。
静かな部屋の中、ベットでは女がバスローブをまとい、スマホを触りながら座っている。
彼女は
170cm55kg
スレンダーな身体に長い手足。
白い肌。
背中まであるウェーブのかかったライトベージュの髪。
モデルのようなスタイルとは対照的に、くっきり二重に長いまつ毛の大きな瞳、スッとした鼻筋、小さいがぷっくりした唇。
やや童顔の彼女は、今シャワーを浴びているこの男の「愛人」をしている。
男は、竹下年行54歳。会社を経営している。
シャワーを終え、竹下は、涙の隣に座り、彼女を抱きしめ、口づけをする。
涙も、それに、答える。
竹下は涙のバスローブを解き、二人はベットに横たわる。
涙は竹下を愛していない。
それでも彼を受け入れる。
何故かって。
それが彼女のステイタスだからだ。
自分は愛していない男が、自分の事を愛している。たまらなく快感だった。
男は何も無かったようにシャツを着る。
女も髪を直し、お互い無言で部屋を出る。
竹下には妻がいる。
妻はおそらくこの事を、うすうす気づいているが、夫に問い詰める事はしない。
不安が事実だとわかった時に、それを受け入れる覚悟がまだ無いのだろう。
だが、そろそろタイムアウトかもしれない。
もちろん、そうなる前に、別れるつもりだ。
リスクを負ってまで、この
少しずつ冬の訪れを感じる、秋の夜道。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「おはようございます。」
「おはようございます。」
涙の働くエステサロン
「Lacoco」
美容専門学校を卒業後、このサロンに就職して、今年で8年目になる。
今はチーフを任されている。
「涙ちゃん、あたし今日出張で一日いないから、任せたわよ。今日は、お客様も多いみたいだし。」
オーナーの浅野
彼女は高校卒業後、保険会社の外交員を経て25歳で起業。
今は近隣の県に3展補エステサロンを経営するバリバリのキャリアウーマンだ。
「わかりました。」
涙は今月の売り上げ目標の確認と、お客様リストに目を通す。
「
「ほんとですか?」
佐々川未有 20歳。
美容専門学校を卒業したばかりの新人エステティシャンだ。
ずっと見習いで雑用ばかりやっていたが、今日からデビューだ。
「緊張する〜。頑張ります!」
「大丈夫。あたしがちゃんといるから。」
涙は、ポストに入った郵便物を確認する。
「あれ?」
Lacocoの郵便物に混ざって、1階にある美容室の郵便物が混ざっていた。
Lacocoの入るビルは2階にLacoco、1階には美容室「Kirito『キリト』」が入っている。
こちらは、オーナーの夫、浅野高文が経営している。
ブライダルなど業務提携はしているもの、社員同士の交流はあまりなく、社員はお互いの会社の事などは、あまり知らずにいた。
「未有ちゃん、ちょっと下に行ってくるね。」
階段を降りて、Kiritoの前に立つ。時間は9時前で、まだオープンしていないようだ。
仕方ないので、ポストに入れて戻ろうとした時、入り口が開き、中から背の高い若い男が出てきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます