第50話 お泊まり?
「アル、空いている部屋はあるかしら?」
「空いている部屋? 応接室なら空いてますけど」
シャーロットは更に笑顔を深める。
これは、何か企んでいる笑顔だ。
「シャーロ、応接室をどうするの?」
「もちろん、わたくしが泊まるために使わせていただきますわ」
「へっ? 泊まる? 一人で?」
「いいえ、カリーナも一緒ですわ。ね」
「はい、わたくしも泊まり込みでアルのお手伝いをいたしますわ」
シャーロットはカリーナに向いて目配せをすると、カリーナは微笑みを見せる。
「二人とも!? いやいや、そんなことを陛下がお許しになる訳が……」
「え、許可なら貰ってきましたわよ。お母様も大賛成でしたわ」
どういう教育方針だよ。
王女様が平民の、しかも男の家に泊まり込むなんて、普通はしないだろ。
異世界だから、これもアリってこと?
ちなみに、カリーナの従業員たちは近くの空き家を借りて、そこへ寝泊まりさせるようだ。
こんな短期間で、よくここまで用意できたものだ。
ビスコート商会、おそるべし。
「お兄ちゃん。大丈夫? 何か粗相なんてしたら……」
ミルフィが近づいてきて、俺の袖を引っ張った。
母さんも青白い顔色をしている。
これが普通の反応だ。
貴族なんて、ましてや王族なんて雲の上の存在で、交流することなんて殆どないはずだ。
「ミルフィさん、こちらが無理を言っているのだもの、気にしないでください」
「でも……」
ミルフィは「どうしよう」と俺に訴えかけるような表情を見せる。
ここは素直に受け入れればいいと思うが、意識を切り替えるのは難しいことだ。
「そうだ、わたくしのことをシャーロと呼んでください。アルもそうしていますし」
いろいろと気遣ってくれているようで、シャーロットは両手を合わせてお願いポーズを見せた。
お願いされたからといって、王女様を愛称で呼ぶのは抵抗があるのか、ミルフィは俺の顔を見て「どうしよう」と訴えてきた。
「大丈夫だよ」と俺が目配せをすると、ミルフィは頷いて、決心したようだ。
「シャ、シャーロさん、よ、よろしくお願いいたします」
「はい、よろしくお願いします」
シャーロットは勇気を振り絞って言ってくれたミルフィに温かな笑みを向けた。
「ねえ、アル。どなたたちかしら、紹介してくれる?」
「そうか、母さんにとっては初対面だったね。こちらがクラスメイトのシャーロット王女で、こちらがビスコート商会のカリーナさんです」
「お母様、初めまして。わたくし、シャーロット・リアン・セイクリッドと申します。不束者ですが、よろしくお願いいたします」
シャーロットは一歩前に出て、深々とお辞儀をした。
「どうも、ご丁寧に。私はアルフレッドの母のエレーナです。よろしくお願いいたします。え? 王女様?」
「はい。セイクリッド王国の第一王女ですわ。息子さんにはいつもお世話になっております」
「いえいえ、こちらこそ息子がお世話になっております」
母さんはシャーロットよりも深くお辞儀をする。
王女様なんて畏れおおいという感じだ。
「お母様、お顔をあげてください。本日は、平民の暮らしを体験するという目的で伺いました。それほど畏まらないでください。いつも通りでお願いいたします」
「そ、そうですか。わかりました」
母さんはそう言いながら、恐る恐る顔を上げた。
まだ心の整理がつかないようだ。
挨拶が済むと、シャーロットたちの部屋を整えるため、使用人たちが応接室に入っていき、ベッドやテーブル、棚などが運び込まれていく。
また、お風呂場の浴槽や、リビングやキッチンの家具なども新しいものと交換されていった。
シャーロットたちも使うからという理由だが、ボロボロで特に思い入れがあるものではないので、こちらとしてはありがたい。
「さあ、アル、作戦会議をしましょう。ぼうっとしている時間が勿体ないですわ」
俺と家族たちがぼうっと作業を眺めていると、シャーロットが意気込んだ声を上げた。
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