第26話 王宮管理の食材
俺は今、王立製菓学院の食材管理室へ向かっている。
理由は、先日のお茶会でシャーロットが寒天を使用していたので、他にも和菓子に使える食材があるか知りたいからだ。
「すみません。食糧庫の食材を見せてもらってもよろしいでしょうか?」
俺は食糧庫の管理人に声をかけた。
俺のイメージとは違い、管理人は年配のおじさんではなく、若い男性兵士だった。
管理体制は結構厳重にしているようだ。
こちらの世界では食べ物を粗末にできるほど裕福ではない。
一歩間違えれば飢饉が起きて、街中、国中の人たちが飢え死にしてしまう。
なので、食材管理は王国として優先度が高いのだろう。
「えーと、学院の生徒ですね。大丈夫ですよ。こちらに記入していただければ持ち出しも可能です」
「そうなんですね。ありがとうございます」
俺は学生証を管理人に見せて、利用履歴を残すための紙に名前を書き込んだ。
食糧庫の中はひんやりとしていて、種類が豊富に揃えられている。
大きなスーパーのような広さで、食材の量が半端なかった。
「さて、小豆ともち米はどこかな?」
この前の試験に使った小豆やもち米が欲しくて、食糧庫内を探し回る。
しかし、いくら探し回っても小豆やもち米が見当たらない。
……いったい、どこにあるのだろう? とりあえず、管理人に聞いてみよう。
「すみません、管理人さん。小豆ともち米は置いていないのですか?」
「アズキとモチゴメ? ああ、シャーロット王女殿下が開発された食材ですね。それはこちらの管理ではございません。もし必要であれば、王宮の管理者に申請する必要があります」
「シャーロット王女殿下が食材の開発をされるのですか?」
俺は目を丸くして管理人に質問した。
「ええ。王女殿下は幼少期から農業改革にご尽力されております。不作に悩んでいた時、次々と不思議な施策を考案され一気に改善するどころか、今まで以上の豊作になりました。それ以降、王国の民が飢えで苦しむことがなくなったのですよ」
シャーロットは貴族間で神童と称えられているらしく、次々と農業改革を進めて、新しい品種の作物を次々と開発しているそうだ。
それらの作物は王宮の外では栽培されていなくて、王宮が管理する農園だけで栽培されているらしい。
……これはシャーロットに聞いた方が早そうだ。
今回は食材を持ち帰るのを諦めて、食糧庫を後にした。
翌日、学院の教室でシャーロットに話しかける。
「シャーロ、聞きたいことがあるのですが、いいですか?」
「ええ、構いませんわ」
「王宮管理の食材が欲しいのですが、分けていただいてもよろしいでしょうか?」
「ええ、欲しいものがあればお分けいたしますわ。そうですね、次の休日にわたくしの農園へご案内いたしましょう」
王宮管理の食材だから、入手は困難かなと思っていたが、あっさりと了承されて俺は目を丸くする。
「うふふ。断られると思いまして?」
「え、いえ、まあ……」
「うふふ。アルなら食材を有効活用してくれるとわかっていますから、よろこんで差し上げますよ」
「ありがとうございます、シャーロ」
「どういたしまして」
結局、カリーナやマドレーゼも招待され、次の休日にみんなでシャーロットの農園へ行くことになった。
流石に、二人っきりというのは気まずかったので、一緒に行ける人がいてよかったよ。
変な噂が流れたら、モルブランに締め上げられそうだからね。
次の休日、俺たちはシャーロットに案内され、シャーロットが管理する農園にやってきた。
俺の想像では、シャーロットの農園の広さは学校の校庭程度の広さかなと思っていた。
だが、違った。その十倍以上の広さがある。
稲が植えられている田んぼ、野菜を育てている畑。葡萄や林檎などの果樹園や茶畑が存在していた。
農園の雰囲気は異世界のものではないような感じがするのは気のせいだろうか?
なんとなく、懐かしさのようなものを感じる。
なんでだろう?
いろいろな疑問を持ちながら、俺たちはシャーロットに案内され王宮管理の食糧庫へ向かった。
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