第27話 王女様のお誘い
「ここが研究所兼食糧庫ですわ」
シャーロットが言うように、食糧庫というよりは研究所に近い雰囲気がある。
建物は木造2階建てで、1階は大きな作業場という感じだ。
2階に研究室があるらしく、王宮勤の文官たちが1階と2階を行き来しているのが見えた。
「では、食糧庫へご案内いたしますね」
シャーロットに案内され、地下の食糧庫に入るとひんやりとした空気が伝わってきて、俺は思わず両腕をさすってしまった。
それと同時に想像以上の光景が目に入ってきた。
大量の米や野菜、果実がしっかりと整理されていて、さながら巨大なフードマーケットのようだ。
「シャーロット様、こちらの食材は流通させないのですか?」
「今は備蓄兼王宮職員の食事用にこちらの食材を使用しておりますが、頃合いを見て流通させる予定です。さすがに、わたくしの農園だけでは王国中に行き届かせるのは不可能ですので、新しい品種の育て方の研修を近々行い、王国中に広める予定ですわ」
シャーロットが言うように、ここにある食材の量は多い。
だが、それでも王国を支えるだけの量はない。
シャーロットは、それがわかりつつ、どう王国を富ませようか真剣に考えているようだ。
シャーロットが開発している食材はどれも高品質。
保存方法も的確で、できるだけロスがないように管理を徹底している。
俺には農業の知識がないが、食材については多少なりとも知識はある。
だからこそ、シャーロットの凄さがわかる。
しかし、シャーロットはどこでこのような知識を得たのだろうか?
幼少期の頃、俺は図書館に通って様々な文献を読み漁っていたが、農業の本など見たことがない。
様々な産業が発展途上の世界で、シャーロットがやっていることはかなり異質に見える。
まあ、わからないことを考えても仕方がない。
それよりも俺は、もっとたくさん和菓子を作りたい。
シャーロットの得意分野が農業であれば、俺の得意分野はお菓子作り。
シャーロットがいたからこそ、俺はこの世界でも和菓子を作ることができる。
感謝しかない。
「シャーロ、小豆など豆類などはありますか?」
「ええ、こちらにありますわ」
シャーロットに案内してもらい、豆類を保管している場所へ向かう。
収穫されている豆類は、小豆だけでなくその他のものも保管されていた。
「インゲン豆に、えんどう豆? こちらは大豆かぁ……」
和菓子に使う豆類は小豆だけではない。
インゲン豆は白あんの材料に使われることがあるし、えんどう豆も豆大福に使われている。
大豆があれば、醤油や味噌を作って、それを使ったお菓子も作れる。
これだけの食材があれば、たくさんの和菓子を作れそうだ。
「アルは食材に関して詳しいのですね」
「え、あ、はい。小さい頃から市場に通ってたくさんの食材を目にしてきましたから」
「では、大豆の活用方法もご存知かしら?」
「はい。醤油や味噌を作って、お菓子に使うこともできます」
「アル、ショウユやミソとは、どのようなものでしょうか?」
「アルフレッド様、わたくしも初めて聞きました」
カリーナとマドレーゼは聞きなれない言葉を聞いて首を傾げる。
ああ、そういえば、この世界に醤油や味噌が存在していないことを忘れていた。
大豆自体は流通しているが、この世界では発酵という概念があまりない。
チーズはあるのに不思議だ。
「アルは不思議なことを知っているのですね。興味深いですわ」
シャーロットはそう言うと、何かを探るような目で俺を見つめる。
……あれ、何か怪しまれてる?
「あはは、俺もいろいろと勉強や研究をしていますから。お菓子作りのためなら何でもやりますよ」
「そう? では、わたくしの研究を手伝っていただけるかしら?」
「え? 俺が手伝っても大丈夫なのですか?」
「もちろんですとも。とても有意義な研究になりそうで大歓迎ですわ」
誤魔化して有耶無耶にしようと思ったら、シャーロットの研究に誘われてしまった。
別に、シャーロットと一緒に研究をするのは嫌じゃない。
むしろ嬉しい。
けれど、前世の知識をどうシャーロットに説明するかが悩む。
前世のことを隠しながらうまく話せる自信がない。
いっその事、前世の知識があるとシャーロットに打ち明けてしまおうか……。
いやいやいや、俺が怪しい人と認定されてしまったらどうしよう?
魔女狩りみたいなことってないよね?
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