第30話 みんなで和菓子を作る

 これから、餡子を使ったお菓子を作る。

 

 しかし、上新粉や白玉粉はまだ開発途中なので、まだ使うことができない。


 それほど時間もないので、小麦粉を使った簡単なお菓子を作ろうと思う。


「それでは、みんなでどら焼きを作りましょう」

「ドラヤキですか?」


 カリーナは「どら焼き」の発音が上手くできず、棒読みな感じで言いながら首を傾げる。

 餡子を使った、まだこの世界には存在していないお菓子だから、そういう反応になるね。


「簡単に言いますと、パンケーキで餡子を挟んだお菓子です」

「小麦粉で作るパンケーキでしょうか?」

「はい、そうです」


 俺は薄力粉と卵、砂糖を用意する。

 流石にベーキングパウダーは存在しなかったから、重曹で代用しよう。

 

 作り方は簡単。

 用意した食材を混ぜてフライパンで焼くだけだ。


「それならわたくしたちでもできますわ」


 シャーロットはやる気満々で食材をボールに入れて混ぜ始める。

 

「では、わたくしはフライパンの準備をいたしますわ」

「シャーロット様、わたくしは何をすればよろしいかしら?」


 カリーナとマドレーゼもそれにつられて動き出した。


 みんなが積極的に動いてくれているので、俺はやることがない。


 ……どうしようかな。そうだ!


 俺も別のボールに薄力粉と砂糖を入れていく。

 重曹も必要だ。


「あら、アルは何を作るのですか?」


 シャーロットは俺が違うお菓子を作ろうとしているのに気がついた。

 まだ作業工程はパンケーキとあまりかわらないのに、よく気づいたな。


「うん。出来上がってのお楽しみということで」

「そう……」


 俺が何を作るか言わなかったからか、シャーロットは少し唇を尖らせた。


 さて、混ぜ終わったら生地を丸めていく。

 生地が手にくっつかないように、生地と手に薄力粉をつける。

 生地を転がしながら、一本の棒状にしていく。

 そこから生地を一口サイズに切り分けていき、1つずつ丸めていった。

 

 もう一度生地を丸く伸ばし、餡子を生地で包み形を整えていく。

 

 本当はせいろうを使いたいのだが、ここにはない。

 なので、フライパンを使って蒸していく。


 そんなに難しいことはない。

 フライパンに水を入れ、高さをだして丸い木の板を敷いた上に丸めた生地を乗せるだけだ。

 フライパンに蓋をして、程よく蒸し上がるまで待てば完成だ。


「よし!」


 ひと段落つくと、何か視線を感じた。

 振り向くとシャーロットたちがジーッと俺の方を見ていた。


「ど、どうしました?」

「いえ、ものすごく手慣れた手つきでしたので見惚れていました」

「ええ、苺大福でしたか、あの時と同じような手つきで感動しましたわ」

「シャーロット様、ハンカチをお持ちいたしました」


 シャーロットとカリーナの反応はわかるが、マドレーゼの反応が少しずれていて笑いそうになってしまった。

 

 ……あ、そろそろかな。


 俺はフライパンの蓋をとると、そこから白い湯気が周りを包むかのように吹き出してきた。


 ……ああ、いいなこの感じ。


「すごい湯気ですね」

「それと、いい香りが漂ってきますわ」


 シャーロットたちからも歓声が上がる。


 こうやってみんなでワイワイしながらお菓子を作るのも楽しいな。

 

 前世では、お店を作った時は仲間がいて楽しかったが、お店が衰退してからは俺一人で作業することが多かった。

 こっちではそうならないように頑張らないと。


「アル、これは何というお菓子かしら?」

「えーと、饅頭といいます」

「マンジュウ?」


 カリーナとマドレーゼがハモリながら首を傾げる。


「フライパンで蒸し器の代わりをしていたのね。生地がふっくらしていますわ」

「ええ、よくわかりましたね」


 シャーロットは俺がやった作業を理解しているようだ。

 しかも、それほど饅頭に驚いていない様子。

 どこかで見たことがあるのかな?

 

 と、考え込んでいたら饅頭が冷めてしまう。

 できるだけ、出来立ての状態でみんなに食べてもらいたい。


「では、みなさんに配りますね」

 

 俺は蒸し器から木製のトングのようなもので饅頭を取り出し、お皿に乗せていった。

 饅頭からも湯気が薄っすら出ていて、ホクホクとした味わいを想像したらよだれが止まらなくなりそうだ。

 

「見た目は素朴ね」

 

 カリーナはお皿を持ち上げ、いろいろな角度から饅頭を観察する。

 

「カリーナ、冷めないうちに食べてみましょう」

 

 饅頭は冷めても美味しいが、蒸し上がったばかりもたまならく美味しい。

 シャーロットはその辺がわかるようだ。

 

 カリーナは食べ方に迷っていたが、シャーロットは躊躇いもせずがぶりと饅頭をかぶりついた。

 

「うーん、美味しい……、幸せの味ですわ……」

 シャーロットは頬を赤くして、饅頭の味を堪能しているとポツリと目から一雫の涙が溢れた。


「シャーロット様、こちらを」


 マドレーゼの勘は当たったようだ。

 シャーロットはマドレーゼからハンカチを受け取り、涙を拭った。


「ごめんなさい。想像以上のお味で感動してしまいましたわ」


 シャーロットに泣かれたのは2回目。

 ここにモルブランがいなくてよかったよ。


「いいえ、わたくしもシャーロット様のお気持ちがわかりますわ。お口の中がほかほかしていて幸せな感じがいたします」

 

 カリーナも感慨深そうな表情をしている。

 幸せな時を思い出していたのだろうか?


「では、わたくしも頂きますわね」


 マドレーゼもお皿から饅頭を取り、口の中に入れた。


「ほ、ほくほく、あっ……」


「ふふ」


 シャーロットから思わず声が漏れる。

 そこから、しんみりした空気が一気に笑いの連鎖が始まった。


 マドレーゼは猫舌だったのか、饅頭がかなり熱く感じたようだ。

 マドレーゼのお嬢様らしくない表情を見て、笑いが堪えられなかった。


「もう、マドレーゼったら」

「も、申し訳ございません」

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