第12話 入学試験②

「実技試験のお題は『ショートケーキ』だ。各食材は調理台の上と氷室の中にある。おのおのこれだという『ショートケーキ』を作ってくれ。では、開始!」


 教師が砂時計をひっくり返す。その砂時計は筆記試験に使ったものより3倍も大きなものだった。


 ……だいたい3時間くらいか。


 俺は材料を揃えていく。砂糖は……グラニュー糖のようだ。上白糖ではない。薄力粉は、小麦粉として数種類用意されたものの中から選ぶ。小麦粉の目利きが重要ポイントになるだろう。薄力粉はタンパク質が少ない小麦粉。ケーキのスポンジにはちょうど良い。


 加えて、氷室から生クリーム、バター蜂蜜、果実は苺をチョイスする。


 ……洋酒?


 洋酒のようなお酒が入っている瓶を見つけたので、俺はそれも調理台に持っていく。


 ……さて、スポンジを作ろう!


 ボールに卵を2つ落とす。ハンドミキサーがあればよかったが、この世界にそんなものはない。ひたすら泡立て器で混ぜた。


 まだこの段階は序の口。途中でグラニュー糖を投入して、よく混ざったらあらかじめ沸かしておいたお湯の中へボールごと入れた。


 温度計がないので肌感覚で温度調整もしないといけない。

 そこから蜂蜜を加えトロトロになるまでひたすらかき混ぜる。もう腕が攣りそうだ。


 十分混ぜたら薄力粉を加えてヘラを使って混ぜていく。

 まだこれで終わりではない。さらに溶かしておいたバターを生地に混ぜていく。

 クッキングシートのような便利なものはないので、型に油脂を塗って小麦粉をふるう。これでスポンジの型離れがよくなるはずだ。


 スポンジを焼いている間はシロップやホイップクリーム作り。

 お湯にグラニュー糖を混ぜ、洋酒の栓を開ける。瓶の中からは洋酒の芳醇な香りがただよってきた。

 

 ……うーん、良い香りだ。これなら完成度の高いホイップクリームが作れそうだ。


 ホイップクリームが出来上がれば、あとは仕上げ。スポンジを三等分にして、そこにシロップとホイップクリームを塗っていき、間に切った苺をのせてながらスポンジを積み上げていく。土台を白一色にしたあとは、生クリームでデコレーションし、最後にフサを取った苺をのせて苺ショートケーキの完成だ。


 ちなみに、生クリームの絞り器はこの世界にはなく、以前に鍛冶屋にたのんで特注で作ってもらった。たまたま持ってきていて良かった。


「ふぅ、できた」


 俺は深い息を吐きながら、腕で汗を拭った。


 俺の声に反応してか、受験生たちは一斉に俺の方を見る。オーブンでスポンジを焼こうとしている受験生、ボールを抱えて泡立て器で混ぜている受験生が目に入った。


 俺はそれに動揺せずに苺ショートケーキをホールごと教師のところへもっていく。


 係の者が苺ショートケーキを受け取ると、五頭分にして小さいお皿に分けていく。その五つのお皿を五人の教師のところへもっていく。


「ほう、これは綺麗な出来栄えだ。このクリームの乗せ方は見たことがない」

「ふむ、スポンジの間にも苺が挟まれているのか?」

「砂糖漬けされていない果実を乗せているが、大丈夫なのか?」

「まあまあ、早速食べてみましょう」


 女性の教師が声をかけると、教師たちは一斉に苺ショートケーキをナイフで一口サイズに切り、口に含んだ。


「なんだ、このケーキは?」

「クリームがふわふわで口の中でとろけるではないか」

「クリームの甘さと苺の甘酸っぱさが程よく絡み合っているわ。紅茶にとても合うわ」

「ほう、三段にして間に果実を挟むことで、より美味さを引き出しているのか?」

「いくらでも食べられるぞ、一ホール独り占めしたいくらいじゃ」

「まあまあ、食べ過ぎは健康に良くないですわよ」


 教師たちの評価は上々のようで、俺の作った苺ショートケーキが一瞬でなくなってしまった。教師たちは一切れだけでは満足できないという顔をしている。


「アルフレッド君と言ったな。入学試験はこれで終了だ。帰宅して構わんぞ。明日、結果が掲示板に張り出されるから確認に来るとよい」

「はい、わかりました。ありがとうございます」


 よし、これで王立製菓学院の入学試験は終了だ。


 俺が振り返って帰ろうとすると、他の受験生たちは固まったままだった。


 しばらくすると、固まっていた受験生たちは急いで作業に戻る。

 もたもたしていたら試験が終わってしまう。このままではいられないと、調理道具を動かす音が再び調理室内に響き始めた。


 俺はそんな雰囲気を感じながら帰り支度をして、帰路についた。

 

 やれることは精一杯やったので、満足している。あとは明日の結果待ちだ!

 

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